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【書籍発売中】追放騎士は冒険者に転職する 〜元騎士隊長のおっさん、実力隠して異国の田舎で自由気ままなスローライフを送りたい〜  作者: 犬斗
第六章 春の新生活

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第195話 呪いの絵4

 目を覚ますと、俺は廊下に倒れていた。


「くっ……。気分が……」


 窓から光が差し込んでいる。

 光の角度から、早朝のようだ。

 昨日の夜、廊下に出てからここで気を失っていたのだろう。


「ぐぅ……ぐぉ」


 吐き気が止まらない。

 必死に堪えながら、俺は外に出た。


 なんとか兵士に状況を説明し、俺が戻るまで立入禁止を指示。

 そして、すぐに宿へ向かい、そのままベッドに倒れ込んだ。


 そこから二日間、俺は嘔吐を繰り返し、必要最低限の水分しか取れない状況が続いた。


 ――


 「ふう、もう大丈夫か……」


 三日目の朝、目を覚ますと身体は元に戻っていた。

 頭痛も吐き気もない。

 ただ、身体が重く感じる。


「だいぶ痩せたな」


 鏡を見ると、身体の重さとは反対に、頬が痩せこけていた。


「あれが呪いの正体だったのか」


 呪いと言われても不思議ではない。

 だが、この世に呪いなどない。

 身を持って体験したことで、原因は特定できた。


「毒だ。あのまま部屋にいたら、俺は死んでいた」


 ドルドグムの検死で、毒は検出されなかったというが、あれは間違いなく毒だ。

 どうやって毒が混入したのかは分からない。

 しかし、症状は完全に猛毒のカロキシンと同じだった。


 カロキシンの致死量は微小なため、検死で確認することは不可能と言われている。

 また、あまりに強力すぎて暗殺に用いることはない。

 なぜならば、使用者も死ぬからだ。


 しかし、あの絵のどこかに毒が仕掛けられているのは間違いない。

 調査すべきなのだが、近づくことは危険すぎる。


 俺はドルドグム邸へ向かい、バルードに改めて三階の立入禁止を指示。

 そして、街の中心地にある城へ向かった。


 城の守衛に階級証を見せ、要件を伝える。

 しばらくすると、一人の老人が姿を見せた。


「マルディン様! お久しぶりでございます!」

「ロルトレ、元気だったか!」


 老執事のロルトレだ。

 俺は以前、この地方の領主であるレイベール伯の三女、ハルシャ・サウールの警護クエストを依頼された。

 その際、ハルシャの執事として同行していたのが、このロルトレだ。


 なお、前領主が病死したことで、ハルシャは十二歳ながら叙爵した。

 今はレイベール女伯爵として領地を治めている。

 この城は領主であるハルシャの居城だ。


「マルディン様、今日はいかがされましたか?」

「仕事で来てるんだが、ちょっと聞きたいことがあってな」

「仕事? 冒険者のクエストですか?」

「いや、今回は冒険者の仕事じゃない。中央局からの依頼でね」

「中央局?」

「まあ色々あるんだよ」

「なるほど……。確かにマルディン様なら、国もその存在を放っておかないでしょうね。怒れる聖堂(ナザリー)の一件もございましたし」


 怒れる聖堂(ナザリー)壊滅を知っていたロルトレ。

 領主に報告が入っているのは当然か。


「さ、どうぞ城へ。ハルシャ様も喜ばれるでしょう」

「いや、今日はロルトレに用があるんだよ」

「え? 私ですか?」

「ああ、実はな……」


 説明しようとすると、ロルトレの眉が僅かに動いた。

 何かに反応したようだ。


「マルディン様。お話の途中で失礼ですが、葡萄酒をお持ちですか? 栓が開いてるようです。大丈夫ですか?」


 執事は葡萄酒の管理も行うため、深い知識を持っている。

 それにロルトレは元暗殺者で、毒王という二つ名を持つ。

 ハルシャの毒見を行っていたし、匂いには敏感なのだろう。


「しかし、この香りは……まさか?」

「気づいたか。さすがだな」


 俺はバッグから空き瓶を取り出した。


真紅の森(ロルトーブ)! しかも、三十年物ではないですか!」

「そうだ。俺が飲んだわけではないがな」

「ラベルに血痕?」

「ああ、ちょっと事件があってな。この葡萄酒に反応する毒を知りたいんだ」

「毒ですか? お差し支えなければ、状況をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「もちろんだ」


 ロルトレは毒の専門家だ。

 何か手がかりがつかめるかもしれない。

 俺は事件のことを説明した。


「なるほど。密室内での死亡事件に、呪いの絵ですか」

「ロルトレは呪いを信じるか?」

「まさか。私の前職は……。マルディン様も同様かと存じますが、そういった類いは一切信じておりません」

「まあそうだよな」

「呪いなんかで人が殺せたら、世界は殺人で溢れます。なにせ、この世で最も恐ろしいものは……」

「ああ、ロルトレの言う通りだよ」


 暗殺者だったロルトレも呪いは信じない。

 そんなものが存在していれば、俺たちはとっくに呪い殺されているし、毎日簡単に人が死んでいくだろう。


 この世で最も怖いものは、人の悪意だ。


「ロルトレに現場を見てもらった方が早いんだが、あんたはハルシャ様の元を離れられないだろう?」

「いえ、領主となられたハルシャ様は、以前のような暗殺の危険がなくなりました。現在は新しい執事や使用人がついております。私は執事長として一線を退いておりますので、どうぞご安心ください」

「じゃあ頼めるか? 報酬は支払うよ」

「ははは、不要でございます。マルディン様には、多大なるご恩がございますゆえ」

「そうか、すまんな。助かるよ」

「いえ、私の能力が役に立つのであれば光栄です。ハルシャ様にお伝えしてきます。マルディン様もおいでください」

「そうだな。ハルシャ様にご挨拶させていただくか」


 ロルトレに案内され、城に入り、ハルシャの執務室に向かった。

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