表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍発売中】追放騎士は冒険者に転職する 〜元騎士隊長のおっさん、実力隠して異国の田舎で自由気ままなスローライフを送りたい〜  作者: 犬斗
第六章 春の新生活

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

187/282

第187話 メイド来たりて災いとなる2

 自宅へ戻り、俺たちはリビングのテーブルに座る。

 俺の目の前にはシャルクナと、なぜかティアーヌもいる。


「改めまして、調査機関(シグ・ファイブ)のティルコア支部長ティアーヌと申します」

特殊諜報室(ホルダン)黒の砂塵(アルドバ)に所属しているシャルクナと申します。ティアーヌさんのお噂は伺っております。お会いできて光栄です」


 笑顔で挨拶を交わす二人。


「待て待て、ティアーヌ。俺に状況を説明しろ」


 自宅に到着すると同時に、なぜかティアーヌが姿を現した。

 まるで、シャルクナが来ることを知っていたかのようだ。

 いや、ティアーヌのことだ、あらかじめ情報を入手していたのだろう。


 俺に視線を向けるティアーヌ。


「実はエマレパ皇国側から、冒険者ギルドに相談があったんです」

「相談? 何の相談だ?」

「マルディンさんのお仕事についてです」


 俺は以前、エマレパ皇国内で発生した特殊な事案を対応するように、ムルグスから依頼されていた。

 特殊諜報室(ホルダン)側で、ようやく仕事に関する形態が整ったということで、俺のサポート役として今回シャルクナは派遣された。


特殊諜報室(ホルダン)には、マルディンさんがギルドハンターを務めていることが知られていますから、ギルドマスターのオルフェリア様と、ムルグス殿が会談を行いました」

「トップ同士の会談か。それで?」

「ギルドハンターに関してはこれまで通り私がサポートを行い、特殊諜報室(ホルダン)に関わる案件はシャルクナさんが対応することになったんです」

「そりゃそうだろうな。むしろ今まで、ギルドに関係ないこともティアーヌに頼っていたから悪かったよ」

「それは全然構わないのですが、やはりエマレパ皇国のこととなると、私では扱えない情報なども出てくるので……」


 申し訳なさそうな表情を浮かべるティアーヌ。


「俺にとってティアーヌの存在は大きかった。本当に助かってたよ。ありがとう」

「なんか、お別れみたいじゃないですか?」

「何言ってんだよ。これからも世話になるさ。でも、お前だって膨大な仕事があるわけだし、これで良かっただろう?」

「そうですけど……。本当はマルディンさんと、もっとたくさん……」


 今度は不満そうな表情を浮かべるティアーヌ。


「最近のお前は、無茶しすぎだ。少し休め」

「マ、マルディンさんこそ!」

「俺はいいんだよ。それに、こう見えて好き勝手やってるからな。お前と違って、自由な冒険者の特権だ。あっはっは」


 正面に座るシャルクナが、ティアーヌに頭を下げ俺に視線を向けた。


「マルディンさんへ連絡事項をお伝えします」


 突然、話題を変えたシャルクナ。

 書類を取り出し、テーブルへ置く。

 この行動から、真面目で融通が効かない性格が見て取れる。


「私は特殊諜報室(ホルダン)との連絡役ですが、それだけではマルディンさんに申し訳ないと、ムルグス室長が仰っておられました。そのため私は、マルディンさんの自宅に住み込みでメイドとしても働きます。契約期間は一年です。よろしくお願いいたします」

「は?」

「今日からお世話になります。こちらがその関係書類です」

「ま、待て! 住み込みなんて聞いてないぞ!」

「新築したこの邸宅には、部屋が余っていると聞き及んでおります。その内の一部屋を皇国が借り上げます。契約書もあります」

「ふざけんな! ダメに決まってるだろう!」

「月の賃料は金貨三枚。食費や雑費を含めて、月五枚をお支払いいたします。一部屋でこの金額は破格です」

「勝手に決めんなっつーの!」

「これは皇帝陛下の意向でもあります。陛下より、お手紙もお預かりしています」

「キルスの?」

「はい。メイドの派遣は新築祝いだと、陛下は仰っておられました」

「あ、あいつめ……」


 シャルクナが部屋を見回し、俺に視線を戻す。


「現実的に最も効率の良い選択だと思いませんか? これだけのご自宅を、独身のマルディンさんが管理するのは現実的ではありません。お付き合いされている特定のパートナーもいらっしゃらないですし」

「なんで知ってんだよ」

「調査済みです」

「ちっ、優秀な諜報機関か。めんどくせーな」

「マルディンさんだって、メイドを雇おうとお考えだったはずです」

「なぜそれを?」

「容易に想像できます」


 確かにシャルクナの言う通り、メイドを雇うつもりだった。

 俺一人では掃除など手が回らない。

 それに、仕事が増えれば、その分自宅を空けることも多くなる。

 飛空船を手に入れたことで、遠方のクエストへ行く機会も増えるはずだ。

 だが、別に住み込みではなく、週に数回来てもらう程度で考えていた。


「家事は何でもできます。それに私は、マルディンさんが留守中のご自宅をお守りすることもできますし、もし何かあってもティルコア駐屯の皇軍とも連携可能です」


 シャルクナの佇まいは一流の暗殺者と同じだ。

 戦っても相当強いだろう。

 しかし、住み込みを認めることはできない。


「シャルクナ、お前いくつだ?」

「二十六歳です」

「若いな。結婚してるのか?」

「私は黒の砂塵(アルドバ)です。家族はいません」

「とはいえ、若い娘と住むことはできん」

「任務ですから平気です」

「お前がよくても俺が困る」

「なぜですか?」

「そりゃお前、色々と噂が……」

「噂なんて気にされるのですか? それに、マルディンさんがジェネス王国で騎士隊長だった頃は、屋敷に使用人がいたと伺っております」

「それは使用人が何人もいたからだ。年頃の娘が一人とはわけが違うだろ」

「何が困るのですか? まさか、マルディンさんが私を女として見るのですか?」

「んなわけはないだろ! だが、常識というものがあってだな……」

「私たちは常識から外れて生きています。今さら常識など語れません」


 無表情で淡々と語るシャルクナ。

 ここまで真面目な性格だと、妥協もできないだろう。

 面倒なことになった。


 そして、シャルクナがメイド服を着てきた意味が分かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ