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【書籍化決定】追放騎士は冒険者に転職する 〜元騎士隊長のおっさん、実力隠して異国の田舎で自由気ままなスローライフを送りたい〜  作者: 犬斗
第六章 春の新生活

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第185話 飛空船のある生活3

 狼煙に気づいた翠玉の翼(ルーディア)が到着。

 この付近には着陸できそうな空間がないため、上空で停留している。

 船底のゴンドラから、アリーシャとラミトワが降りてきた。

 二人ともしっかりとマスクをしている。


「もう狩猟したのですね」

「ああ、上手くいったよ」


 アリーシャが上空に向かって合図を出す。


「リーシュちゃんに操作してもらって、今からクレーンで双弓竜(オラムクス)を引き上げますね」

「ああ、頼むよ」


 後部ハッチが開くと、クレーンのロープが降りてきた。


 ラミトワが手際よくロープを巻き付け、リーシュが双弓竜(オラムクス)を引き上げる。

 続いて、切り落とした首もロープで吊るす。

 双弓竜(オラムクス)の角は、長弓(ロングボウ)の素材として高価で取引される。

 一頭で二本しか採れないため貴重品だ。

 今回は七頭の狩猟の予定だから、十四本の角が採取できる。

 それだけで、相当な金額になるだろう。


「さて、二頭目の場所に移動するか」

「それがですね、マルディン」

「ん?」


 アリーシャがマスクを取り、笑顔を浮かべながら俺の上腕にそっと触れた。


「もう大丈夫なんです」

「大丈夫? 何がだ?」

「リーシュちゃんとラミトワが、狩猟しちゃったんです」

「何をだ?」

双弓竜(オラムクス)を」

「どうやって?」

突銛砲(トゥルカ)で」

「何頭だ?」

「六頭です」


 俺はすぐさまラミトワに視線を向けた。


「どうだ、マルディン! あっはっは!」


 ラミトワが両腕を腰に当て、上体を大きく反らしている。

 これ以上ないほどの勝ち誇った満面の笑みで、俺を見つめていた。


「私とリーシュにかかればこんなものだ! あっはっは!」


 俺は隣で苦笑いしているアリーシャに視線を向けた。


「本当なのか?」

「はい、私も驚いちゃって……」

「そうか。突銛砲(トゥルカ)って凄いんだな。いや、その特許を発明したリーシュが凄いのか」


 ラミトワが俺に迫り、腹を叩いてきた。


「私が凄いんだよ!」


 当然ながら何も痛くない。


「凄いわねえ、ラミトワちゃん」

「うん! 昨日、ラーニャさんたちが狩猟場所を見つけてくれたから、そこへ行くだけだったの。みんなのおかげだよ! マルディン以外の!」

「あらあ、そうなのね。それじゃあ、ラミトワちゃんとリーシュちゃんのおかげで、もうクエスト完了じゃない」

「うん!」


 ゴンドラに乗り込むラーニャが、流し目で俺を一瞬だけ見た。


「マルディンって、すぐ疑うんだから。やあねえ。だからモテないのよ」

「そうだそうだ!」

「あのー、私が可愛いのか、お返事聞いてませんけど?」


 ラーニャに続き、ラミトワとティアーヌがゴンドラに乗ると上昇していった。

 アリーシャが俺の肩に手を置く。


「私がいますから……」

「ああ、ありがとう……」


 続いて降りてきたゴンドラに、俺とアリーシャが乗り込んだ。


 ――


 倉庫に戻ると、七頭の双弓竜(オラムクス)が横たわっていた。

 適切な消毒と防腐処理も完了している。


「マジか。すげーな」

「マルディンさん、お帰りなさい」


 リーシュが出迎えてくれた。


突銛砲(トゥルカ)の威力は想像以上でした」

「それにしたって、飛空船から狙うなんて難しいなんてもんじゃないだろう?」

「そうなんですけど、ラミトワちゃんは百発百中でした」

「撃ったのはラミトワか?」

「はい!」


 俺はラミトワに視線を向けた。


「凄いぞ、ラミトワ。俺たちが一頭仕留めてる間に、六頭も狩猟するなんてな」

「聞こえなーい」

「ラミトワ、凄いぞ!」

「だろー! もっと褒めろ!」


 このやり取りは面倒だが、賞賛なんてどれだけしてもタダだ。

 それで気分が良くなってくれるのであれば、いくらでもやる。

 それに、俺自身も悪い気はしない。

 俺は犬の頭を撫でるように、ラミトワの頭を撫でた。


「よくやったぞ」

「ひひひ、そうだろー! あはは、あはは」


 髪の毛が乱れているのに、大喜びしているラミトワ。

 まさに犬だ。

 大はしゃぎするラミトワをアリーシャに預けて、俺はラーニャの耳にそっと頭を近づけた。


「なあ、ラーニャ。この突銛砲(トゥルカ)、確かに凄いが危険じゃないか?」

「そうね。ラミトワちゃんの操作はあまりにも特別だけど、熟練度が上がれば狩り放題よ」

「狩猟が容易になるのは歓迎だが、これが普及したら、さらに密猟が増えそうだな」

「ええ、これは規制をしないと危険ね」

「だろうな。リーシュ経由で連絡しておくよ」

「お願いね。この装置自体はとても素晴らしいもの」

「そうだな。新しい発明は本当に素晴らしい。だが必ず、悪事に使用する人間が出るからな」


 全ての処理を終えると、ちょうど正午を迎えた。

 全員で昼食を取る。


「昼食は豪華にしたんですけど、それでも持ち込んだ食材が余りましたね。あと数日分はありますよ」


 食事を終えて食器を片付けていると、アリーシャが話しかけてきた。


「まあ二日もかからず完了しちまったからな」

「どうしますか? このままマルディンがもらってもいいと思いますよ」

「そうは言っても、一人で食える量じゃないからな。帰ってから考えるか」

「分かりました」


 翠玉の翼(ルーディア)は、ティルコアに向けて出発。

 冒険者ギルドに帰還すると、研究機関(シグ・セブン)のトレファス支部長が出迎えてくれた。


「ラーニャ支部長、たったの二日で狩猟なんて早すぎます」

「うちの子たちは優秀ですから。うふふ」


 研究機関(シグ・セブン)の職員たちが、双弓竜(オラムクス)を下ろしていく。

 七頭もの双弓竜(オラムクス)を前に、職員は歓喜の声を上げていた。

 トレファスが、その内の一頭をくまなく観察する。


「保存状態も素晴らしい。これだけあれば研究も捗ります。楽しみですねえ、ククク」

「ほどほどにね、トレファスさん」


 研究機関(シグ・セブン)は変人揃いと言われるが、トレファスもご多分に漏れず、不敵な笑みを浮かべていた。


 俺たちは食堂へ移動し、フェルリートが淹れてくれた珈琲を飲みながら精算を待機。

 しばらくすると、ラーニャが書類と革袋を持って食堂に入ってきた。


「それじゃあ、みんなに報酬を支払うわね」


 今回のクエスト報酬は金貨三十枚だ。

 一人当たりは五枚とそれほど多くないのだが、素材の買取報酬が高かった。

 七頭分の素材代だけで金貨百枚を超え、クエスト報酬と合算して金貨百五十六枚の報酬となった。

 一人当たりの受け取り金額は、金貨二十六枚という大金だ。

 ラミトワは大喜びしている。


 さらに、俺には飛空船の使用料と整備代金として、金貨五枚が追加された。

 こんなに払ってギルドに利益が出ているのか心配になったが、問題ないそうだ。


 これで全ての手続きを終えた。

 今日はもう、このまま帰宅する。


「さて、帰るか」

「マルディン、お疲れ様。今回は色々とありがとう。助かったわ」

「ラーニャはまだ仕事か?」

「そうね。支部長はやることがたくさんあるのよ。早くパルマに譲りたいわ」


 ラーニャは冒険者に戻りたいと言っていたが、現実は難しいだろう。

 意外と人望もあり、支部長としてしっかりギルドをまとめている。


「あらあ? また失礼なこと考えてる?」

「オホン! 無理すんなよ。じゃあな」


 何か言いたげな表情を浮かべているラーニャを無視して、俺はギルドを出た。

 飛空船に向かうと、リーシュが扉の前に立っていた。

 大きなリュックを背負い、手には工具箱を持っている。


「マルディンさん。整備があるので、一緒に乗っていきますね」

「別にいいが、整備は明日でもいいぞ?」

「今日中にやっておきたいんです」

「そうか。分かった。いつもありがとうな。費用はちゃんと請求してくれよ」

「はい! それと操縦してもいいですか?」

「なんだ、お前も操縦したいのか」

「えへへ」

「操縦免許はあるのか?」

「一級を持ってます」


 十八歳で一級操縦免許証は凄いだろう。

 さすがは天才と呼ばれるリーシュだ。


「いいぞ。任せた」

「はい! ありがとうございます!」

「じゃあ行くか」

「「「はーい!」」」


 なぜか娘たちが俺を追い抜き、続々と飛空船に乗り込む。

 ラーニャ以外のメンバー全員だ。

 仕事を終えたフェルリートまでいる。


「待て待て! なんでみんな乗るんだよ!」


 扉の前でアリーシャが微笑んでいた。


「ほら、クエスト用に乗せた食材が余ったじゃないですか。だから、みんなでご飯を食べることになったんです」

「俺の家で?」

「ええ、だって広いですから」

「まあ、いいか。みんなには、ちゃんと帰るように言ってくれよ」

「分かりました。フフフ」


 ラミトワあたりは泊まると言い出しそうだ。

 操縦室へ行くと、娘たちが全員揃っていた。

 フェルリートが俺の隣に立つ。


「操縦室なんて、初めて入ったよ」

「そうか、お前は初めて翠玉の翼(ルーディア)に乗るのか」

「うん。これってマルディンの飛空船なんでしょ? 凄いなあ。どこへでも行けちゃうね」

「国内ならな。また今度、どこかへ連れてってやるよ」

「ほんと?」

「ああ、もちろんさ」

「やったー!」


 満面の笑みを浮かべ、素直に喜ぶフェルリート。


「イチャイチャすんじゃねー!」


 ラミトワが俺の背中を叩いてきた。


「あら? ラミトワ嫉妬ですか?」

「え? ラミトワちゃんってマルディンさんなの?」


 アリーシャとティアーヌが、同時にラミトワへ視線を向けた。


「ちげーよ! こんなくたびれたおっさん嫌だよ!」


 大騒ぎする娘たち。


「離陸します!」


 リーシュの号令で、翠玉の翼(ルーディア)は賑やかに飛び立った。


「あー、うるせえな」


 まあ賑やかなのは嫌いじゃない。

 俺はソファーに座り、娘たちの様子を眺めていた。

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