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【書籍発売中】追放騎士は冒険者に転職する 〜元騎士隊長のおっさん、実力隠して異国の田舎で自由気ままなスローライフを送りたい〜  作者: 犬斗
第六章 春の新生活

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第183話 飛空船のある生活1

 新居に引っ越して一週間が経過。

 今日は飛空船の納入日ということで、自宅にラミトワとリーシュが来ていた。


「来たぞ! ラミトワ! リーシュ!」

「うおぉぉぉぉ!」

「本当だ!」


 二隻の飛空船が、庭の簡易空港に着陸した。


「中型船カルソンヌ級だ! 凄い! 凄い! 凄い! 凄い!」


 ラミトワが大騒ぎしている。

 叫びすぎて死ぬんじゃないかと心配になるほどだ。


 飛空船は大きさによって四つの等級に区分されている。

 超大型船ヴェルーユ級、大型船サンシェル級、中型船カルソンヌ級、小型船シーノ級だ。

 この等級は操縦免許証にも関わりがあり、小型船のみを操縦できる三級操縦免許では、中型船以上の操縦ができない。

 中型船は二級、大型船以上は一級の免許が必要になる。

 なお、小型船を保有する冒険者は稀にいるそうだが、中型船にもなると個人で所有する者はいないという。


 隣にいるリーシュも、飛空船を見上げて口を開けていた。


「アガスおじさんから聞いていたけど、本当に中型船なんだ……」


 製造元のラルシュ工業最高経営者であるアガスは、リーシュの叔父にあたり、直接説明を受けていたらしい。

 リーシュは今後、この飛空船の整備を行う。


 リーシュだけでは大変だからと、ラミトワも整備を志願した。

 ラミトワの場合は、自分が乗りたいからだろう。

 もちろん整備は開発機関(シグ・ナイン)の職員たちも手伝ってくれる。

 その際の費用は、当然ながら俺の負担だ。


 納入を担当したラルシュ工業の整備士から、一通りの説明を受けた。

 正直、俺にはよく分からない。

 整備に関しては、リーシュに任せっぱなしになるだろう。

 整備士から整備本を受け取ったが、事典並みの分厚さだった。


「マルディンさん。この飛空船は、エマレパ皇国の航空局に特別申請を行ってます。登録名は翠玉の翼(ルーディア)です。エマレパ皇国内の飛行禁止区以外であれば、申請なく自由に飛行が可能です。ここだけの話ですが、個人所有としては初の許可だそうですよ。ただし、国境越えは注意してください。違反は操縦免許証の剥奪、及び禁固刑となります」

「分かりました」

「説明は以上です。まあ、リーシュ支部長に全て任せていいと思います。はは」

「ええ、そうします。ありがとうございました。アガスさんにもお礼をお伝え下さい」

「かしこまりました」


 全ての手続きを終え、整備士たちはもう一隻の飛空船で帰国していった。


 俺は改めて自分の飛空船を見上げる。

 飛空船の全長は三十メデルトで、形状は楕円形の一体型。

 船体のちょうど半分から上は軽い空気が収納されており、下半分が居住区になっている。

 上部の色は薄い翠玉色で、外壁の素材は巨兵蛙(ゴラエル)の伸びる皮を何重にも重ね、特殊加工しているそうだ。

 下部の色は白色で、外壁は強固なモンスターの素材や木材を使用しているという。


「デカすぎんだろ……」


 中型船では、これでも小さい部類だそうだ。

 だが、実際に乗船すると、その広さに驚いた。


 居住区は三階建てで、一階は全てが倉庫だ。

 超大型のモンスターでも積み込むことができる広さを持つ。

 二階はキッチン、食堂、風呂トイレ、個室が並ぶ。

 本来は十五人乗りだが、個室はゆとりを持って四部屋に改造されている。

 三階は操縦室、会議室、そして俺の船長室だ。


「なあ、リーシュ。この飛空船、広すぎないか?」

「は、はい。そう思います……。アガス叔父さん、やり過ぎだと思います……」


 俺とリーシュは顔を見合わせた。


「これだけの船体だ。維持費を稼がなきゃならんぞ」

「でもマルディンさん。この飛空船があれば、今まで以上に稼ぐことができます」

「そうだな。僻地の高難易度クエストが受注できるからな。頑張るか」


 操縦室に入ると、ラミトワが操舵輪を握っていた。


「マルディン! 私ここに住む!」

「ダメに決まってんだろ!」

「私が船長だ!」

「はいはい、お子様はお家に帰りなさい」

「マルディンのケチ! マルディンは豪邸に住んで、こんな飛空船も持ってる大富豪なのに、ただのケチおっさんだ! 孤独死すればいいんだ! バカ!」


 ラミトワの言葉に、俺は視線を地面に傾け、肩を落として背中を丸めた。


「そうだよな……。俺、このまま孤独死するよな……」

「え? ほ、本気にしちゃった?」

「う、う……」

「あ、あの。ご、ごめんなさい」

「俺は……ダメなおっさんだ……」

「そ、そんなことないよ! マルディンは凄いよ!」

「いいんだよ。俺みたいなおっさんは、どうせ孤独死すんだよ」

「マ、マルディン。あの、ごめんなさい」

「いいんだ……。本当のことさ……」

「わ、私が老後の面倒を見るよ!」

「いや、結構です」

「ふ、ふざけんな!」


 両手を握りしめ叫ぶラミトワと、腹を抱えて笑うリーシュ。


「もう頭きた! 絶対ここに住んでやる!」

「バカなこと言ってないで、飯にするぞ。食ってくだろ?」

「え? ご飯! いいの!」

「ああ、お前たちが来ると思ってな。昨日、市場で肉を買っておいたんだ。庭で焼こう」


 ラミトワとリーシュの表情が変わった。


「やった! じゃあ、私が火をつける!」

「お肉だ! 私が焼きます」


 庭で調理ができるようにと、ジルダがレンガで鉄板台と網焼き台を作っていた。


「たくさんあるぞ。好きなだけ食っていけ」

「わーい! マルディン大好き!」

「凄い! 角大羊(メリノ)! 黒森豚(バクーシャ)! 茶毛猪(グーリエ)! お肉祭りだ!」


 二人は遅くまで大騒ぎしながら、肉を食っていた。


 ――


 数日後、俺は翠玉の翼(ルーディア)の初飛行に出た。

 といっても、目的は飛行ではなくクエストだ。

 目的地はカーエンの森の南部で、飛空船がなければ近づくことは難しい国境付近だった。


 操縦桿を握るのは、運び屋のラミトワ。

 俺はいつでも操縦可能だから、記念すべき初飛行はラミトワに譲った。


「マルディン、初飛行で操縦させてくれてありがとう!」

「どうだ、自分の飛空船が欲しくなっただろう?」

「うん、私は絶対自分の飛空船を買うよ!」

「お前ならできるさ。協力するぞ」

「ありがとう! お金ちょうだい!」

「ふざけんな!」


 操縦桿を握るラミトワ以外に、解体師のアリーシャ、Aランク冒険者のティアーヌ、Bランク冒険者のラーニャ、開発機関(シグ・ナイン)のリーシュが操縦室に集まっている。

 通常の飛空船は操縦室が狭いのだが、この飛空船は操縦室も改造されており、何人も入ることが可能だった。


「なんでいつも女ばかりなんだ?」

「仕方ないでしょう。うちの支部って、マルディン以外の最高ランクはみんな女子だもの。別にいいじゃないの。それに、こんな美女たちに囲まれて嬉しいでしょう?」


 ラーニャが笑顔で答えた。


「それにしても、マルディンが飛空船を持っていて助かったわ。ギルドの飛空船は予約で埋まっていたもの。今回の整備代はギルドで支払うから安心してね」


 今回は緊急のクエストだった。

 森に生息するBランクモンスターの双弓竜(オラムクス)が、例年よりも繁殖傾向にあると研究機関(シグ・セブン)が発表。

 それを受けてラーニャが急遽、狩猟チームを編成。

 ティアーヌは調査機関(シグ・ファイブ)の支部長だが、今回は特別に参加してくれた。


「ティアーヌちゃん、忙しいのに本当にありがとう」

「いえ、とんでもないです。でも、久しぶりのクエストですから、ご迷惑をかけないように頑張ります」


 ティルコア支部でAランクの冒険者カードを持つのは、俺とティアーヌだけだ。

 しかもティアーヌは現役の諜報員でもある。

 迷惑がかかるどころか、ティアーヌ一人で大抵のクエストは問題なくクリアできるだろう。


 アリーシャが、操縦室の机で地図を確認している。


「ラーニャさん。そろそろ到着しますが、この付近にはベースキャンプがありません。どうしますか?」

「そうねえ、どこか開けた場所に着陸できないかしら? 宿泊は飛空船内でさせてもらうわ。マルディン、いいわよね?」


 俺はリーシュの肩に手を置いた。


「着陸しなくても、上空で停泊できるぞ。なあ、リーシュ」

「はい! この飛空船は空中停泊可能です!」


 ラーニャが呆れたような表情を浮かべる。


「空中停泊できる飛空船って、とても高額だって聞くけど……。あなた、凄いわねえ。もう何でもありじゃないの」

「別に俺が凄いわけじゃないさ。とりあえず、目的地付近に到着したら、停泊して打ち合わせをしよう」

「分かったわ」

「そのまま上空から調査だ。日没を迎えたら翠玉の翼(ルーディア)で宿泊するぞ」

「ええ、そうしましょう。ありがとう、マルディン」


 いつものように妖艶な笑みを浮かべるラーニャだが、いつもより優しい笑顔に感じた。

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