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【書籍化決定】追放騎士は冒険者に転職する 〜元騎士隊長のおっさん、実力隠して異国の田舎で自由気ままなスローライフを送りたい〜  作者: 犬斗
第五章 冬の到来は嵐とともに

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第175話 救いきれないもの7

 俺は街外れのスラム街に到着した。

 いくつもの建物が支え合うように密集していて、一つの巨大な建造物を作っている。

 スラム街なのに、皮肉にも聖堂と呼ばれているそうだ。

 高い壁に囲まれたスラム街は、入口に大きな門があり、見張り台まで設置されていた。


 俺は見張りの一人に近づく。


「ここは怒れる聖堂(ナザリー)のアジトか?」

「はあ? 何言ってんだ? お前頭おかしいのかよ。殺されたくなかったら消えろ」

怒れる聖堂(ナザリー)のアジトか?」

「だ、だったら何だってんだよ」

「アジトか?」

「そ、そうだよ」

「お前、今俺を殺すって言った?」

「い、いや……」

「言った?」

「い、言ってません」

「そうか。じゃあいい。俺が門の中に入ったら門を閉めろ」

「い、いや、それは……」

「閉めろ」

「わ、分かりました」

「それと、警報の鐘を鳴らせ」

「そんなことしたら、あんたが……」

「やれ」

「は、はい!」


 俺は門の中に入った。

 すると、門が閉められ鐘が鳴る。

 俺はその場で少し待つ。


「襲撃か!」

「どこだ!」

「殺せ!」


 クズどもが武器を持って集まってきた。


「おい、何もないじゃねーか!」

「誤報じゃ済まされんぞ!」


 何人ものクズどもが、門を閉めた見張りに文句を言っている。


「違う! そこの男だ! そいつが敵だ!」


 見張りが俺を指差した。


「そいつ?」

「え? こいつのこと?」

「おいおい、一人じゃねーか」

「はあ? 一人?」

「昨日の奴みたいにやっちまうか」


 三十人は集まっただろうか。

 俺は人だかりに進み、中心で腕を振った。


 ◇◇◇


 マルディンはスラム街の奥へと進む。


 直後に、けたたましく鳴り響く鐘。

 見張りの男は、木槌を握る指から血が出ていることも気づかず、涙を流しながらひたすら鐘を叩いた。

 なぜならば、三十人の首が一瞬で落ちたからだ。


 マルディンが歩くと、構成員の首が落ちる。

 今のマルディンを探すのは容易だ。

 落ちた首を追えばいいのだから。


 マルディンは自分を中心に、(フィル)を円状に操作。

 それはまるで台風の目だ。

 マルディンの周囲には血の渦が生まれ、歩く災害となり、等しく死を振りまく。


 下っ端で構成されているスラム街の最下層では、もはやマルディンを追う者はいない。

 恐怖に駆られ、ほとんどの者が逃げ出していた。


 マルディンはスラム街の中央通りを進み、堂々と聖堂へ入る。

 木造や石造りなど様々な建造物が増築を重ねた、ツギハギだらけの醜い聖堂。

 これこそがラウカウ最大の犯罪組織、怒れる聖堂(ナザリー)の本拠地だ。


「侵入者だ! 殺せ!」

「殺した者には賞金だ!」


 聖堂内にいる構成員たちは、スラム街に居座る下っ端とは違う。

 社会でまともな生活を送れずに、各地で悪事の限りを尽くした犯罪者どもだ。

 最後に駆け込んだのがこの聖堂であり、これらの犯罪者にとって怒れる聖堂(ナザリー)はまさに救いの場所だった。

 犯罪者たちは、自分たちの居場所を守るためにマルディンに襲いかかる。

 それでもマルディンを止められる者はいない。


「たった一人でここまで来るとはな。貴様何者だ?」


 階段を登り広いフロアに出たマルディンに、一人の男が声をかけた。

 男の手前には、五十人の構成員が半円状に広がり弓を構えている。


「無視とは良い度胸だ。まあいい。ここで死ね」


 男が手を挙げると、一斉に矢が放たれた。

 マルディンは特に焦りもせず、一度だけ腕を回す。


 矢は空中でへし折れ、次々と床に落ちていく。


「バ、バカな! 我らは黒聖歌隊(ナリス)だぞ!」


 目の前の光景が信じられない男。


「ク、クソ!」


 このフロアで唯一生き残った男が剣を抜く。

 男は怒れる聖堂(ナザリー)最強部隊、黒聖歌隊(ナリス)の隊長だ。

 元軍人で、訓練と称して何人もの新兵をいたぶり、苦しめて殺した異常者だった。

 軍から極刑を言い渡されたが、逆に憲兵を皆殺しにして怒れる聖堂(ナザリー)へ逃げ込んだ経歴を持つ。


「し、死ね!」


 この隊長はマルディンによって、あえて生かされていた。

 そのことを知らない隊長は、長剣(ロングソード)を振り上げ、マルディンに切りかかる。

 だが、(フィル)によって拘束され、そのまま床に叩きつけられた。

 上半身から膝下まで(フィル)が巻きついており、立ち上がることはできない。


「ぐうう! ほ、解け!」

「二つ質問がある」


 男に近づくマルディン。


「はあ、はあ。や、やめろ!」

「質問に答えろ」

「はあ、はあ」

「責任者はどこにいる?」

「言うわけねーだ……、ぎゃあああああああ」


 マルディンはここで初めて剣を抜き、躊躇なく男の足首を切り落とした。


「足があああ! 足があああ!」


 男は床に倒れたまま、激痛でのたうち回る。


「左も切るか?」

「う、上だ! 上にいる!」

「上とは?」

「さ、最上階だ! このフロアの奥の階段で行ける!」

「もう一つ、ダムラはどこだ?」

「ダムラ?」

「新入りだ。答えないと足がなくなるぞ?」

「ま、待て! か、幹部のお気に入りのあいつか……。奴もこの先にいるはずだ。頼む。治療を、治療をしてくれ。はあ、はあ」

「痛みを取ってやる」


 質問を終えたマルディンは、(フィル)を巻き取った。

 そしてフロアを進み、階段を登っていく。


 フロアには、倒れた胴体と同じ数の首が落ちていた。

 そして、足首が一つ。


 ◇◇◇


 最上階のひときわ豪華な部屋。

 怒れる聖堂(ナザリー)の支配者イスラの部屋だ。


「イスラ様! 敵襲です!」

「敵襲? はあ? なんだそれ?」

「それが……もうすでに身廊に辿り着いているそうです」

「待て待て。今どき敵襲って……。どこのもんだ? 目的は?」

「それが、何も分かりません」

「は? 何言ってんだよ。相手は何人だ?」

「ひ、一人です」

「はあ? お前ふざけてんのかよ。おりゃ今機嫌がいいから許すけどよ、わけわかんねーこと言ってっと殺すぞ?」

「ほ、本当なんです!」

「おいおい、おめー、俺をからかうなんて、いつからそんな度胸がついたんだ?」

「ち、違います!」

「もしかして、他の組織に寝返ったのか? ああ?」


 配下が説明するも、一向に信じようとしないイスラ。

 だが、それも当然のことだ。

 怒れる聖堂(ナザリー)は、この地方一帯を支配している巨大犯罪組織であり、夜哭の岬(カルネリオ)を作る七つの組織の一つでもある。

 ラウカウ議会や、ラウカウに駐屯する皇軍にも莫大な賄賂を渡しており、咎められることもなければ、逆らう者もいない。

 それに、聖堂内には凶悪な犯罪者や、軍隊上がりの者も多く存在する。

 怒れる聖堂(ナザリー)に襲撃をかける者なぞ、存在するわけがない。


「失礼します!」


 別の配下が入室してきた。


「イスラ様。侵入者はもうすでに袖廊まで来ております」

「おいおい、マジなのかよ。ってか、相手は一人なんだろ? 何やってんだ。殺せよ」

「それが……、立ち向かう者は全員死にました。今や聖堂内でも逃げ出す者ばかりです」

白聖歌隊(タリス)を出せ。全員向かわせろ」

白聖歌隊(タリス)は全滅しました。黒聖歌隊(ナリス)も全滅です」

「は? 黒聖歌隊(ナリス)も?」

「侵入者は奇妙な武器を使い、次々と首が落ちるのです」

「首? ま、待て! それってもしかして……」

「ティルコアのマルディンかと……」

「首落としか!」


 イスラはビッツを使い、ティルコア進出を狙っていた。

 ビッツの製造工場は、息のかかってない皇軍に破壊されたが、ティルコアを落とすだけの量は確保している。

 何も問題はなかった。

 計画通りに進めばティルコアへ進出し、夜哭の岬(カルネリオ)の老師の約束通り、ティルコアの権利を手にしたはずだ。


 だが、愚かな部下のせいで、災害を呼び寄せてしまった。


 ◇◇◇

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