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【書籍発売中】追放騎士は冒険者に転職する 〜元騎士隊長のおっさん、実力隠して異国の田舎で自由気ままなスローライフを送りたい〜  作者: 犬斗
第五章 冬の到来は嵐とともに

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第170話 救いきれないもの2

 西区の外れにある、石造りの小さな家に到着した。

 お世辞にも良い家とは言えない外観だ。


「誰もいないし、扉は鍵がかかってるんだよ」

「そうか……」


 俺は小さな家を一周し観察した。

 窓は三つ、小窓が二つ、扉は一つ。

 侵入するには、扉の鍵を破壊するしか方法はない。


「ジルダ、お前は帰るんだ。ここから先は任せろ」

「そ、そうはいかないさ」

「今からこの家に侵入する。ヤバい橋を渡ることになるんだ」

「やっぱそれしかねーか……。分かった。鍵を開けるよ。俺も同罪だ」

「お、おい!」


 ジルダが扉の前にしゃがみ込み、鍵穴に細長い鉄の棒を突っ込む。


「俺は家を建てるからな。職業柄、鍵の構造は知っている。普段は絶対にやらないが緊急事態だ」


 ジルダが何度か棒を動かすと、鍵が開く音が聞こえた。


「速いな。さすがだ」


 俺も鍵開けはできるが、ここまで速くない。


「じゃあ入るか」

「待て、俺が先に入る」


 ジルダに責任を被せないように、俺が扉を開けた。

 部屋の痕跡を荒らされたくないという理由もある。


 まずは扉を開けた状態で、部屋の中を確認。

 特に不審な点はない。

 狭い家だが、物がないため広く感じる。


 俺はその場に膝をつき、床に頭を近づけた。

 真横から床を見つめる。


「足跡は一種類のみ。ダムラのものか。足跡は砂か? 足跡に埃も溜まってる。しばらく帰ってないな」


 俺は立ち上がり、もう一度部屋を眺める。


「よし、部屋に入っていいぞ」


 俺が先に部屋へ入り、ジルダが続く。

 俺はダムラの足跡についた砂を指ですくう。


「砂、いや乾いた土か?」

「見せてみろ」


 指についた砂をジルダに見せる。


「これは赤粘土だな。しかも、このきめ細かさは……。このティルコアと、北にある都市ラウカウとの中間地点にあるビーラ山で採れる土だ。この粘土は上質でな。壁に塗ったり、陶器に使われるんだ」

「よく分かるな」

「そりゃ、俺の専門だからな」


 石工屋のジルダらしい鑑定眼だ。

 この情報は助かる。


 俺は引き続き、部屋を見て回る。

 例の薬があれば何かつかめると思ったが、ここにはないようだ。


「大きな手がかりはないな。とりあえず、ビーラ山へ行ってみるか」

「今からか?」

「そうだ。麻薬に手を出している可能性があるからな。時間が惜しい。お前は帰るんだ」

「いや、俺も行くよ。だってお前、ダムラの顔を知らないだろ? 説得だってしたいしな」

「分かった。だが、無理はするなよ」

「もちろんだ」


 ダムラの家を出て、俺たちはそのまま街道を北上し、ビーラ山へ向かった。


 ――


 ビーラ山には粘土や鉱石の採掘場があるため、麓まで街道が続いている。

 そのため移動は容易で、夕焼けが始まる前にはビーラ山に到着。

 俺たちは採掘現場の事務所を訪れた。


「マルディン、俺が聞いてくるよ」

「そうだな。俺はダムラを知らないからな。頼むぜ」


 しばらくしてジルダが戻ってきた。


「一ヶ月前に、ここで数日間だけ働いたそうだ。日雇いで給与を受け取ったらしい」

「行方は分からないのか?」

「ああ、仕事は真面目だったが、誰とも話さなかったみたいだ。なあマルディン、ラウカウへ行ってみないか」

「そうだな。街に行けば何か掴めるかもな」


 俺たちはさらに北上した。

 ラウカウへ到着すると、すでに夕焼けが始まっている。


「おい、ジルダ。お前仕事はどうすんだ?」

「明日と明後日は休みなんだよ」

「そうか。とりあえず今日はもう帰れないから宿へ行くぞ。お前金持ってきたか?」

「ああ、もちろんだ」


 厩舎付きの宿へ行き、ライールを預けた。

 時間的に、ちょうど酒場が開く頃だ。


「ジルダ。ラウカウには来たことがあるのか?」

「若い頃はよく来ていたよ。なにせティルコアには娯楽がないからな」

「なるほどね。若い頃はここで遊んでいたのか」

「仕方ねーだろ。当時のティルコアは、マジで何もなかったんだから。今もねーけどな。はは」


 ジルダと話しながら繁華街を歩く。

 表通りは治安がよく、麻薬の売買に繋がるような雰囲気はない。


「ジルダ、少し治安の悪い地区へ行こう」

「じゃあ、裏通りへ行ってみるか。なんかあったら守ってくれよ。騎士様」

「男だろ。自分の身は自分で守れよ」

「お前と一緒にするな!」


 賑やかな繁華街から裏通りへ入ると、徐々に景色が変わっていく。

 道にはゴミが落ちており、早くも酔いつぶれたような男が座り込んでいる。


「おっさん、金くれよう」


 俺の顔を見るなり声をかけてくる男。

 無視して道を進む。


「確かに治安が悪いな。だが、話を聞くにはちょうどいいだろう」

「どうすんだ?」

「俺たちは薬を手に入れるために、この地区を訪れた。いいな?」

「演技すんのか。分かった。演技は得意だ」


 俺たちは一軒の酒場に入った。

 店内は思ったよりも狭く、カウンターとテーブル席が三つあるバーだ。

 ジルダとカウンターに座る。


「麦酒をくれ」

「銅貨二枚だよ」


 銅貨二枚をカウンターに置く。

 金を見て店員は酒を注いだ。

 こういう場所は、金がなくても飲もうとする奴がいるから先払いが多い。


 木樽ジョッキに注がれた麦酒。

 ジルダと乾杯し、一口だけ喉に流し込んだ。


 店内は薄暗く、カウンターに座るのは俺たちのみ。

 テーブル席に二人組みの男が座っている。


「なあ、マスター。ちょっと聞きたいんだが、いいかな?」

「なんだい?」

「あれが欲しいんだよ」

「あれ?」

「ビッツだ。出回ってるんだろう?」


 とりあえず、適当に話を振ってみた。

 薬の名前は以前皇都でムルグスから聞いたものだ。

 実際にダムラが売ろうとしたものかは分からない。


 この店員が知らなければ別にそれでいいし、知っていれば話に乗るだろう。


「一人銀貨一枚出せ」


 店員の表情が変わると同時に、話に乗ってきた。

 俺たちはカウンターテーブルに銀貨を一枚ずつ置く。

 何も知らずに入った店だが、偶然にも、ここは密売の窓口だったようだ。


「向かいの廃墟へ行け」

「分かった」


 俺たちはそのままバーを出た。

 そして言われた通り、廃墟に入る。


 背後から二人組みの男が付いてきていることは気づいていた。

 バーにいた二人組みだ。


「おい、おっさん、どこで聞いたんだ?」

「ダムラって奴からな」

「ダムラ? ああ、あの新人か。あいつは何て言っていた?」


 合言葉だろうか。

 そこまでは分からない。

 下手な回答は危険だ。

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