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【書籍発売中】追放騎士は冒険者に転職する 〜元騎士隊長のおっさん、実力隠して異国の田舎で自由気ままなスローライフを送りたい〜  作者: 犬斗
第五章 冬の到来は嵐とともに

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第153話 ようこそ冒険者ギルドへ6

 俺は総本部へ向かう。

 受付を済ませ、昇降機でギルマス室へ移動すると、オルフェリアが出迎えてくれた。


「ご足労いただき、ありがとうございます」

「とんでもないです。昨日はありがとうございました」

「フフ、楽しかったですね」

「そうですね。あのモンスター肉は、思い出すだけでも涎が出ますよ。あっはっは」


 昨日の話題に触れながら、応接用のソファーへ進む。


「それが新しい剣ですか?」

「ええ、そうです」

「もうローザったら……。とんでもない剣を作りましたね」

「分かりますか?」

「はい。これまでローザの剣は何本も見てますから。彼女は使用者の腕がいいと、すぐに暴走するんです。きっと今回の製作も、楽しくて仕方なかったんじゃないですかね。フフ」

「そうだと嬉しいですがね」


 ソファーに腰掛けると、執事が珈琲をローテーブルへ置き退室した。


「それでは、マルディン。ヴォル・ディルの討伐報酬及び、素材買い取り代金を支払いますね。遅くなってごめんなさい」


 オルフェリアが二枚の書類を取り出した。


「実は今回、二つの支払い方法を用意しました」

「二つ?」

「ええ。選んでいただこうと思いまして」


 オルフェリアが書類を一枚手に取った。


「まずこちらから。ヴォル・ディルの討伐報酬が金貨千枚です」

「え! せ、千枚! 嘘だろ!」


 俺は思わず声を荒げてしまった。


「嘘じゃありませんよ。フフ」

「し、失礼しました」

「お気持ちは分かりますよ。驚きますよね。ですが、これは討伐報酬です。素材の買い取り代金は別ですよ」

「え? これとは別?」

「はい。素材代金は金貨二千五百枚です」

「にっ……」


 俺は言葉が出なかった。

 ネームドを討伐すれば一財産となり、一生遊んで暮らせると聞いていたが、この金額はそれ以上だ。

 あまりにも莫大すぎて想像できない。


「た、たった一頭で金貨三千五百枚ですか……」

「たった一頭でもネームドですよ? それに、今回はマルディン一人ですから多く感じるのです。これが五人パーティーなら、単純計算で一人七百枚です。そう考えたら、それほど多くないでしょう?」


 金貨七百枚でも信じられないほどの高額なのだが……。


「ネームドにも格があります。下位ランクのネームドだと金額はもっと低いですが、Aランクモンスターでも最上位の一角虎(ガーラ)のネームドです。金額も最高クラスなんです」

「し、しかし、そんな金額を支払ったら、ギルドに利益なんか出ないんじゃ……」

「フフ。ご心配いただきありがとうございます。でも、ギルドとしても、しっかりと利益が出るんです。あまりこういうことはお伝えしませんが、例えば開発機関(シグ・ナイン)でヴォル・ディルの素材から剣を作ったとしましょう。一本につき金貨二百枚で販売しても、ネームドの装備は絶対に完売します。百本作ったら金貨二万枚です。マルディンに支払う報酬や人件費など諸々の経費を含めても、大きな利益となるんですね。さらに肉と内臓の販売もします。それに、地域の安全や、研究による学術的な価値まで考えたら、この報酬は安いくらいですよ。フフ」

「な、なるほど。まあギルドに損失が出なきゃいいんですけど……」


 オルフェリアから手渡された書類には、確かに討伐報酬金貨千枚と、買取代金金貨二千五百枚と記載されている。


「き、金貨三千五百枚か……」


 オルフェリアが一旦珈琲を口にした。

 俺を落ち着かせるために、時間を取っているのだろう。


「では、もう一つの支払い方法をお伝えしますね」


 オルフェリアがもう一枚の書類を手に取った。


「こちらは現物支給です」

「現物?」

「はい。正確に言うと、この三千五百枚を支払って、現物を手に入れます」

「金貨三千五百枚を支払うんですか?」

「ええ、そうです。マルディンは金貨にそれほど執着はないと伺ってます。それに今後も、クエストやギルドハンターで高収入を得ることができますから、もしかしたらこちらの方が良いかもしれません」


 オルフェリアの言う通りだ。

 俺は元々金に執着心はない方だったが、財産を没収されてからは、それがさらに顕著になった。


「実は、ラルシュ工業の最高経営者から話をいただいたのです」

「ラルシュ工業最高経営者?」

「はい。アガス・トーマスと申します。ラルシュ工業はこの国の国営企業で、世界で唯一の飛空船造船会社でもあります。アガスはローザの夫です。ローザからマルディンのことを色々と聞いたのでしょうね。そのローザは姪のリーシュから話を聞いてますから。フフ」


 オルフェリアが何を言いたいのか全く分からない。

 とりあえず、珈琲を口に含み、頭を整理する。


 そんな俺の様子を、笑顔で見つめているオルフェリア。


「フフ。アガスは飛空船を発明した開発者の一人なんです」

「そ、そんな凄い人なんですか」

「でも、アガスは私と同じように、数年前まで運び屋だったんですよ? しかも私たちは差別の対象だったから、私もアガスもとても貧乏でした。泥水をすすって、自分で狩りをして……。酷いものでしたよ。フフ」


 数年前まで解体師と運び屋は、冒険者から忌み嫌われ差別されていたそうだ。

 それをこのオルフェリアたちの活躍で、変えていったと聞いた。


「アガスは、マルディンに飛空船を提供すると言ってます」

「ひ、飛空船!」


 驚いた俺はテーブルに足をぶつけてしまった。

 テーブルのカップが倒れ、珈琲がこぼれる。


「あら、驚かせちゃいましたね」

「す、すみません!」

「大丈夫ですよ」


 オルフェリアがとっさにテーブルを拭いてくれた。

 まるで俺の行動を読んでいたかのように。


 そして執事がすぐに対応し、新しい珈琲を用意して退室していった。


「飛空船って驚くほど高いんですよ。購入先は基本的に国や自治体、貴族、商人です。稀に冒険者でも所有していますが、高い収益を上げているパーティーで小型船を一隻持つという感じですね。個人で小型船を持つ冒険者もいないわけじゃないですが、有力なパトロンがついてます」

「お、俺が個人で飛空船を?」

「ええ、そうです。アガスも昔は素朴でまともな人間だったけど、この国に染まったようで、突然突拍子もないことを言い出すようになりました。フフ」


 飛空船を持つなんて考えたこともなかった。

 そもそも俺は操縦免許証すら持ってない。

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