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【書籍発売中】追放騎士は冒険者に転職する 〜元騎士隊長のおっさん、実力隠して異国の田舎で自由気ままなスローライフを送りたい〜  作者: 犬斗
第五章 冬の到来は嵐とともに

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第150話 ようこそ冒険者ギルドへ3

「なんだよマルディン。褒めんなよ。照れるぜ」


 ウィルが俺の皿に、大牙猛象(エレモス)の肉を置く。


「この肉さ、一番旨いところを取ったんだけど、アンタにやるよ。食いな。ヘヘヘ」


 右手の人差し指で鼻先を軽く弾くウィル。


「お、おう。ありがとう……」


 いい話風だが、そもそもこういう一番旨いところは、普通客に出すものだろう。

 だが、突っ込むのはやめておく。


「マルディンさんはお酒も?」

「ええ、飲みます」


 調査機関(シグ・ファイブ)局長、リックが俺のグラスに葡萄酒を注いでくれた。


「ティアーヌの様子はどうですか?」

「彼女は優秀なんてもんじゃないですね。交渉力、政治力、戦闘力、どれも突出しています」

「そうですか。まあ、確かに彼女は飛び抜けて優秀ですけどね。だけど、マルディンさんにそう仰っていただければ、彼女も喜ぶでしょう」

「リックさん。どうしてそれほど優秀なティアーヌを、あの田舎町に?」

「そうですねえ……」


 リックが僅かにオルフェリアへ視線を向けた。

 オルフェリアが頷く。


「正直にお伝えすると、マルディンさんだからですよ。マルディンさんのサポートに関してはヴィート局長とも話して、最も優秀な人材をつけることにしたんです。それでティアーヌを送りました」

「そうだぞ。本来は治安機関(シグ・スリー)から送るべきところだが、うちは人材不足だし、ティアーヌを超える人材はおらんのだ」

「まあ、彼女は南国の勤務も希望していましたしね。はは」


 そんな優秀な人材を俺のために配属したと聞くと、さすがに恐縮してしまう。


「そ、そうだったんですね。あ、ありがとうございます」

「何照れてんだよ」

「う、うるせーな」


 ウィルがニヤついた表情で、俺をからかってきた。


「ってか、オイラから見てもティアーヌは優秀だよ。それに、アイツは相当な修羅場を潜ってる。肝も座ってるだろ?」

「確かにな。滅多に動じないよ」

「だろ? ティアーヌはマジで逸材だぜ?」

「ああ、ティアーヌにはいつも感謝してるよ」


 ウィルが肉を食い、葡萄酒を流し込んだ。


 オルフェリアが笑顔で全員を見渡す。


「フフ。しかしですね、ティアーヌをサポートにつけても、ここまでの成果は出ませんよ?」

「そうですね」

「ああ、確かにそうですな」


 オルフェリアの発言に、リックとヴィートが答えた。


「ギルドとして、本当に助かってます。マルディン、ありがとうございます」

「い、いえ。とんでもないです」

「謙遜なさらないでください。さあ、飲みましょう」


 オルフェリアの合図で、店員が新しい葡萄酒を開けグラスに注いだ。


「皆さん、今日は好きなだけ飲んでください。私も今日は飲みますよ」


 ウィル、リック、ヴィートが一斉にオルフェリアへ視線を向けた。


「「「ほ、ほどほどに……」」」


 三人は額に脂汗をかいていた。

 この雰囲気からして、オルフェリアは酒が強いのだろう。


「オルフェリアさんは飲まれるんですか?」

「そうですね。普通に飲みますよ」


 その発言を聞いたウィルが、呆れた表情を浮かべている。


「……どこが普通だよ」


 この会話から、オルフェリアは間違いなく酒が強いことが分かった。

 うちにも強いのが一人いるから、ウィルの気持ちはとてもよく分かる。


「オルフェリアさんは、もしかして酒豪ですか?」

「違う違う。酒豪とかそういうレベルじゃない。この人は、ある意味人外だよ」

「じ、人外?」


 ウィルが肉をつまみながら、オルフェリアを見つめていた。


「酷いですねえ。……でも、私は古い解体師なので、モンスターの毒に侵されないように様々な毒耐性を上げてるんです」

「毒耐性?」

「ええ、毒を体内に入れるんですよ」

「え?」

「ですから、私はほとんどの毒が効きません。その影響で麻酔薬も効きませんし、お酒にも酔わないのです」

「ラ、ラーニャ以上か……」

「そう言えば、ラーニャ支部長もお酒が強くて有名でしたね」


 ラーニャの酒の強さも信じられないものだったが、オルフェリアは次元が違うようだ。

 オルフェリアと飲むのはやめておこう。


「マルディン。マジでオルフェリアさんとだけは飲むなよ。死ぬぞ。本気で死ぬぞ。過去死人が出たって話だしな」

「そんなわけないでしょう?」

「オイラが過去何度死にそうになったか知らねーのかよ!」

「フフ。ウィル、今日も楽しく飲みましょうね」

「嫌だよ!」


 ここにいるのはギルドのトップたちだが、仲が良さそうで微笑ましい。

 ウィルが食事会ではなく、飯と言っていた意味が分かった。


「ローザさんは?」


 俺は、静かに葡萄酒のグラスを持つローザに視線を向けた。


「私は酒に弱いからな。一杯だけだ。こんな連中に付き合ってられんよ」

「はは、そうですね」

「お前には明日、剣を渡すからな。程々にしておけよ。あの剣は体調が悪いと扱えんぞ」

「確かにそうですね。それに、俺も剣士としてローザさんの剣はずっと楽しみにしていましたから」

「そうか……。ふむ、マルディン。私のことはローザでいい。敬語もいらん」

「いやいや、そういうわけには……」

「気にするな。素のお前を出せ。これからも付き合うことになるしな」

「わ、分かった」


 その後も俺は局長たちとの親交を深めた。

 各機関のトップと親密になっておくことで、今後の活動に活かせるだろう。


 ウィルに視線を向けると、オルフェリアと楽しそうに飲んでいた。


 ――


 さすがに多忙を極めるギルマスや局長たちだ。

 それほど夜遅くまでにはならず、お開きとなった。


 ウィルから聞いたが、ギルドマスターと局長が三人も集まることは滅多にないそうだ。

 それだけでも、俺の歓迎ぶりが分かると言っていた。

 ありがたい話だ。


 しかし、なぜ俺はウィルの肩に手を回し、街を歩いているのだろうか。

 仲が良いからとウィルの介抱を頼まれたのだが、こういうのは客がやることではないのでは?


 まあでも、それはそれで面白いし、後日ウィルをからかうことができるから別に構わない。

 さっきの仕返しだ。


「おい、ウィル。しっかりしろよ」

「ぐえぇぇ」

「ったく。騎士団副団長ってこんなんでいいのか?」

「うちの国は……いいんらよ。平和らし、治安がいいし。ひっく」

「そりゃ羨ましいね」

「らろー。マルディンもこの国に越してこいよ。ひっく」

「アホか。俺はティルコアに住むんだよ」

「じゃあ、オイラがティルコアに行こうかな。ひっく」

「何言ってんだよ。ここはお前の故郷だろうが」


 俺にとって初めての王都の夜は、ウィルを担ぎながら過ごすことになった。

 だが、友と過ごす夜は悪くない。


「しっかり歩けって」

「ぐえぇぇ。もうにろと、オルフェリアしゃんと、のまらい……」


 ウィルの姿を見て、まるでラーニャと飲んだ後の自分を見てるようだった。

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