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【書籍化決定】追放騎士は冒険者に転職する 〜元騎士隊長のおっさん、実力隠して異国の田舎で自由気ままなスローライフを送りたい〜  作者: 犬斗
第五章 冬の到来は嵐とともに

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第149話 ようこそ冒険者ギルドへ2

 日没を迎えると、ウィルが俺の部屋に顔を出した。


「マルディン。飯行くぞ」

「飯? おいおい軽いな。重鎮との食事会だろ?」

「そうなんだが、堅苦しいのは面倒だろ? だから街の食堂へ行く。貸し切ったんだよ」

「そうか。正直そっちの方が嬉しいな」

「だろ? アフラ名物の料理を堪能してくれ」


 ウィルに連れられギルドを後にした。

 馬車に乗り、市街地へ向かう。

 そして一軒の食堂に入った。

 かなり立派なログハウスだ。


「懐かしいな」


 俺の故郷は針葉樹が多かったため、必然的に民家はログハウスが多かった。

 懐かしさから、思わず壁の丸太に触れる。


 ウィルが背後から俺の肩に手を置いた。


「マルディン、ここはモンスター肉を扱う食堂なんだ」

「もう匂いがするよ。楽しみだ」


 すでに焼いた肉の匂いが香る。


 店内を進むと、オルフェリアの他に三人の男女の姿があった。

 その三人が俺の前に並ぶ。


 黒髪の短髪で眼鏡をかけている男性が、手を差し出してきた。


「初めまして。ギルドのサブマスターと、調査機関(シグ・ファイブ)局長を兼任しているリック・ライトです」

「マルディンです。ティアーヌには大変お世話になってます」


 リックと握手を交わす。

 調査機関(シグ・ファイブ)局長はティアーヌの上長だ。


「お役に立てているようで良かったです。はは」


 リックの年齢は五十九歳。

 姿勢が良く、きっちりとした身だしなみで、まるで教師のような佇まいだ。


 続いて、俺よりも身長が高い、体格の良い男性と握手を交わした。

 手のひらは大きくて厚く、とても力強い握手だ。


治安機関(シグ・スリー)局長のヴィート・モアだ。ギルドハンターの活動は大変助かってる。なにせ慢性的な人不足だからな。がっはっは」

「こちらこそ、良い経験をさせてもらってます」


 ヴィートは四十九歳で、元ギルドハンターだそうだ。

 現役は引退しているということだが、太い腕に厚い胸板は、間違いなく今も身体を鍛えているだろう。


 そして最後は女性だ。

 俺の目を真っ直ぐ見つめている。


 身長は小柄で、ウィルよりも拳二つ分ほど小さい。

 薄い緑色のショートヘアは少し癖がかっている。

 瞳の色は驚くほど美しい金糸雀色(かなりあいろ)だが、それを隠すかのように大きめのメガネをかけていた。

 この容姿は、リーシュにそっくりだ。


開発機関(シグ・ナイン)局長のローザだ」

「マルディンです」

「姪が世話になってる」

「いえ、こちらこそ。私の装備もリーシュに開発してもらってますから」

「あの娘はどうだ?」

「一言で言うと……天才です」

「そうか! ククク」


 姪を褒められて嬉しそうに笑うローザだった。

 このローザこそ、世界中の剣士が憧れる神の金槌(シャイオン)だ。


 ローザはイメージとだいぶ違う。

 鍛冶師だし、もっとしっかりとした体格だと思っていた。

 それがまさか、リーシュそっくりの可愛らしい女性だとは驚いた。

 とはいえ、ローザの年齢は四十二歳だという。

 見た目で判断してはいけないという良い見本だ。


 席につき、オルフェリアの乾杯で食事が始まった。

 テーブルには一般的なメニューの他に、モンスター肉の料理が並べられていく。


「こりゃ凄いな」


 オーナーが緊張した面持ちで、一品ずつ説明してくれた。

 猛火犖(バルファ)のステーキ、大牙猛象(エレモス)の炙り焼き、王鰐(ルクコス)のバター焼き、大挟甲蟹(アキュラータ)のスープだ。

 しかも、スープ以外はどれも規格外と言っていいほど大きい。


「どれも大型モンスターの肉ですからね。この店は可能な限り大きな肉の塊で調理してくれるんです。大きくなればなるほど、調理は難しいんですよ?」


 オルフェリアが笑いながら、ナイフとフォークを使い肉を切り分ける。


「世界一の解体師が切ってくれるなんて、贅沢過ぎますね。あっはっは」

「まあ! 嬉しいこと言ってくれますね。マルディンにはサービスしちゃいましょう。フフ」


 オルフェリアが取り分けた肉を皿に乗せた瞬間、ウィルが獲物を狙いすましたようにさらっていった。


「はいはいはいはい。そういうのいいから。早い者勝ちだから。あざーす!」

「お、おい! ウィル!」

「アンタも早く食えよー」

 

 その様子を見たオルフェリアは特に怒るでもなく、いつものことのように笑顔を浮かべていた。


「もう、あなたはいつもはしたないんですから」

「はいはい。今日はただの飯。ちゃんとする時はちゃんとするからー」


 ウィルが元気よく肉に食らいつく。

 局長たちは対照的に、大人らしく静かに味を堪能していた。


 改めてオルフェリアが取り分けてくれた猛火犖(バルファ)のステーキ。


猛火犖(バルファ)か。初めて食べるな」


 俺は恐る恐る口に入れた。


「旨っ!」

猛火犖(バルファ)はCランクモンスターですが、肉の美味しさはモンスターでもトップレベルなんですよ」

「これほど旨いとは。驚きました」

「この肉は最も希少なヒレ肉です。美味しいですよ。たくさん食べてくださいね」


 味が濃縮された赤身肉。

 臭みや雑味は全くなく、噛めば噛むほど口の中に濃厚な肉の味が広がる。

 脂身が少ないから、いくらでも食えそうだ。


「本当に旨い」


 俺の中で、肉の概念が変わったかもしれない。


 オルフェリアが皿を指差した。


「こちらの王鰐(ルクコス)大挟甲蟹(アキュラータ)はアフラ湖で、大牙猛象(エレモス)は北部の草原で狩猟したものです。ギルドからこの店に直接卸したんですよ。フフ」

「狩猟したって……。王鰐(ルクコス)はAランク、大挟甲蟹(アキュラータ)大牙猛象(エレモス)はBランクモンスターですよね?」

「ええ、総本部にはAランクの冒険者もいますから、比較的入手しやすいんです」

「凄いな……。やはり総本部ともなると、高ランク冒険者がたくさんいるんだな……」


 ティルコア支部のBランク冒険者は現在ラーニャ一人だ。

 Aランク冒険者にいたっては、これまで誰もいなかったという。

 俺のAランク取得は、ティルコア支部にとって快挙と言われるほどだった。


「でも総本部にだって、マルディンほどの達人はそういませんよ?」

「いやいや、ウィルだっているし、Sランクのお二人もおられますから」


 その瞬間、フォークを持つ手がウィルの手が止まった。

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