第14話 サルベージと護衛クエスト3
クエスト契約から二日が経過。
俺は朝から港の正面に建つ漁師ギルドへ向かった。
頑丈な石造りの二階建てで、玄関を中心として左右に長く広がっている。
まるで堤防のような形状は、実際に海風や波飛沫から港の市場を守るように設計されているそうだ。
以前はもっと小さな建物だったが、漁が盛んになってから拡張。
今では町役場よりも大きく、この町一番の建物として観光名所にもなっている。
入口で冒険者カードを見せホールへ進むと、すでにオークションは始まっていた。
「白熱してるな」
約百人が椅子に座っており、正面のテーブルに置かれたオークション品に向かって声を出している。
「金貨二枚!」
「三枚!」
「はい! 金貨三枚で落札です!」
壁際でオークションの様子を眺めていると、肩に手を置かれた。
「おはようマルディン」
「お、グレクか。おはよう」
顔馴染みの漁師グレクだ。
「マルディン、見学に来たのか?」
「そうなんだよ。それと、サルベージで引き揚げた商品の護衛クエストを受注したんだ。雰囲気を見ようと思ってな」
「なるほどね。大量の葡萄酒などはすでに売買されているから、調度品や武器類、珍しい商品が出されるぞ」
オークションに次々と出品される品々。
壺や皿、家具類もある。
恐らく沈んだ船の備品だろう。
しばらく眺めていると、武器や防具が出品された。
冒険者として気になるところだが、海に沈んでいた物なんて使い物にならない。
落札した商人は、見た目を綺麗にして、適当な物語をつけて売りさばくのだろう。
武器を見る目がなければ騙される。
世の中善良な商人ばかりではない。
「次は珍しい一品です。素材は不明。糸です。漁にいかがですか?」
「糸だと?」
俺は糸を道具として使用している。
騎士時代は、恥ずかしながら糸使いという二つ名で呼ばれていた。
俺の故郷では珍しい物だったが、釣りや漁が盛んなこの港町では道具屋で容易に購入できる。
係の者が木箱に収納された糸を掲げた。
糸はリング状に巻かれており、確かに素材は不明だ。
「あれは? モンスターの素材か?」
はっきりと分からないが、節足型蟲類モンスターの素材のようだ。
もしかしたら牙蜘蛛が吐く糸かもしれない。
そうなるとなかなか貴重だ。
「銀貨三枚!」
俺は三本指を立て手を挙げた。
入札に参加だ。
「お、マルディン入札するのか」
「ああ、俺は糸を使うからな」
「だが、何人かの漁師が狙ってるぞ」
グレクの言う通り、次々と声が上がる。
「五枚!」
「七枚!」
「九枚だ!」
金額が上がっていく。
「おい、マルディン。次はもう金貨だぞ」
「そうだな。どうすっか」
俺の予算は金貨一枚だ。
これ以上は出せない。
オークションは通貨の単位が上がると、それ未満の単位は使用できないルールだ。
つまり、入札が銀貨から金貨に上がると、それ以降は金貨しか通用しない。
最高通過である金貨になると、あとはひたすら金額が上がっていくだけだ。
「金貨一枚!」
俺は意を決して声を張り上げた。
「二枚だ!」
「え? 嘘だろ……」
俺の入札は一瞬で上書きされた。
「くそ、ダメだった」
「はは。この町の漁師は金持ってるからな。今入札した奴は、昨日バカでかい一角鮪を釣り上げたんだよ。あれだけで金貨数枚はくだらない」
「漁師か……」
「お前も泳げればなあ」
「うるさいよ」
グレクの言う通り、この町は漁師が儲かる。
金を稼ぐだけなら漁師をやった方が良いし、他の地方から出稼ぎに来る者もいるほどだ。
だが俺は泳げない。
それに、金を稼ぐことが目的ではない。
のんびりと冒険者で生きていければ良い。
その後も珍しい商品が出品されていった。




