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【書籍発売中】追放騎士は冒険者に転職する 〜元騎士隊長のおっさん、実力隠して異国の田舎で自由気ままなスローライフを送りたい〜  作者: 犬斗
第四章 迷いと疑惑の秋

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第124話 前例なき討伐試験12

 今日はギルド総本部から迎えの飛空船が到着する日だ。


「マルディン! 来たよ!」


 ギルドの食堂で昼飯後の珈琲を飲んでいると、ラミトワが息を切らせて飛び込んできた。


「早く! 見に行こう! 早く早く! ほら、アリーシャも行くよ!」


 俺とアリーシャは、ラミトワに腕を掴まれ外へ出た。


「うお! なんつーデカさだ!」


 驚くほど巨大な飛空船が、上空で着陸体制に入っていた。

 これほど大きいと、簡易空港には着陸できない。

 そのため、空港外の草原に着陸させるようだ。


「うおー! 悠久の冒険者(ヴェルトルア)だ! うおー! すげー!」


 ラミトワが上空を見上げて、飛空船に向かって両手を振っている。


悠久の冒険者(ヴェルトルア)って?」

「ギルマス専用機だよ! 冒険者ギルドの旗艦だ! すげー! うおー! うおー!」


 一緒に見ているラミトワが、大騒ぎしすぎて死ぬんじゃないかと心配になる。

 だが、俺も内心ではラミトワと同じ気持ちだった。


「これがギルマス専用機か。すげーな……」


 四階建ての大型船が太陽を遮り、日陰を生む。

 巨大な錨が地面に着地すると、振動が広がる。

 同時に船体が垂直に下降し始め、飛空船は着陸した。


 船尾のハッチがゆっくりと開く。

 ハッチも巨大で、超大型モンスターでも、余裕を持って積むことができるだろう。


 職員たちが、手際良くヴォル・ディルの素材を積み込む。

 オルフェリアが今朝、港で購入した大量の魚も運び込んでいた。

 どうやら、土産として持ち帰るようだ。


 オルフェリアは滞在中、町長や漁師ギルドのギルマス、イスムとも会談していた。

 イスムは今日の出荷分を抑えて、オルフェリアに回したという。

 きっとオルフェリアのことを気に入ったのだろう。


 ギルドの扉が開くと、オルフェリアとウィルが姿を見せた。

 オルフェリアは、俺の隣にいるアリーシャの正面に立つ。


「アリーシャ。少しの時間しか教えられませんでしたが、また一緒に解体しましょうね」

「い、良いのですか? ぜひ、ぜひお願いいたします!」


 深々と頭を下げるアリーシャ。


「アリーシャ。あの、もし良かったら……。私の……。えーと。その……」


 オルフェリアの言葉が詰まり、頬を紅潮させ、照れたような表情を浮かべている。

 こんな姿を見るのは初めてだ。

 どうしたのだろうか。


「アリーシャ。私の……で、弟子になりませんか?」


 その言葉を聞いて、アリーシャが固まった。

 一方で、言い出したオルフェリアは取り乱している。


「すみません。やっぱり嫌ですよね。忘れてください」


 アリーシャの身体は固まっているが、瞳から大粒の涙が溢れ出す。


「嫌だなんて! と、とんでもないです! 突然のことに驚いてしまって! 申し訳ありません!」


 突然束縛から解けたかのように動き出し、何度も頭を下げるアリーシャ。


「あの、オルフェリア様。本当に私でいいんですか?」

「もちろんです」

「だけど、私はこの町から出られないというか……。お店もあるし……。この町で活動したいというか……」


 アリーシャの視線が、なぜか一瞬だけ俺に向いた。


「もちろん大丈夫ですよ。お互い時間がある時に行き来できればいいです。これも時代に沿った新しい形です。未来のために、模索していきましょう」

「ありがとうございます。ありがとうございます」

「私がここへ来た目的の一つでしたからね。良かったです。今後ともよろしくお願いしますね」

「はい! こちらこそよろしくお願いいたします!」


 明るい声色で、深々と頭を下げるアリーシャだった。


 安堵の表情を浮かべたオルフェリアが、俺の正面に立つ。


「マルディン、色々とお世話になりました」

「いえ、こちらこそ。しかし、まさか本当にアリーシャを弟子に取るとは。ありがとうございます」

「優秀な解体師を育てるのが、私の使命ですから」

「使命か……。お互い立派な使命を持ちましたね。あっはっは」

「そうですね。フフ」


 オルフェリアが白くて細い手を差し出した。

 この手でヴォル・ディルを解体したなんて信じられないほどの繊細な手だ。

 俺は少しの力で握手を交わす。


「教えてくださったお魚、美味しかったですよ。フフ」

「また食べにいらしてください」

「はい。ギルドの皆を連れてきますね」


 隣に立つウィルが、俺の上腕を軽く叩いてきた。


「マルディン、王都で待ってるぜ!」

「ああ。そん時は美味いものを食わしてくれよ」

「もちろんさ。毎日死ぬほど食わしてやるよ。ハハハ」


 ウィルとは強めの力で、しっかりと握手を交わす。


「では、また連絡しますね」


 オルフェリアとウィルが乗船。

 ハッチが閉まり、錨を巻き上げる。

 そして、悠久の冒険者(ヴェルトルア)が離陸。

 垂直に上昇しながら、船首を西へ向けた。


 西のマルソル内海を越えた先に、ラルシュ王国はある。

 上空で停止した悠久の冒険者(ヴェルトルア)は、ゆっくりと西へ進み始めた。

 いや、巨大故にゆっくりに見えるが、相当な速度が出ているだろう。


 ラミトワが大きく手を振っている。

 俺たちは見えなくなるまで、悠久の冒険者(ヴェルトルア)を見送った。


「行っちゃったあ」


 ラミトワの一言で、この場にいる全員が仕事に戻った。


「ふう、ようやく平穏が訪れたな」

「そんなことないわよう?」

「うわっ! またお前かよ!」


 ギルドに入ろうとする俺の背後から、気配を消して現れた女。

 ラーニャしかいない。


「マルディン! Aランクおめでとう!」


 ラーニャが背後から、飛びつくように抱きついてきた。


「や、やめろ!」

「出張所時代から含めて初のAランクよ! やったわ! 今はイレヴスにもAランクなんていないもの。この地方では唯一のAランクよ! 凄いわ! 快挙よ! 自慢しちゃおうっと」


 大喜びするラーニャ。

 喜んでもらえるのは嬉しいが、俺は腕の力を振り絞り、無理やりラーニャを離れさせた。


「一緒に喜びを分かち合いましょうよ」

「ちっ、お前がAランクを取ったらな」

「もう、意地悪! でも、本当におめでとう。はい、これ」

「なんだ?」

「Aランクの冒険者カードよ」


 ラーニャから冒険者カードを受け取った。

 Aランクと記されている。


「ついにAランクか……」


 ここまで色々とあったが、取得できて本当に良かった。

 これで、この町を守るための抑止力に繋がるだろう。


「マルディン、おめでとうございます」


 アリーシャが俺の正面に立つ。


「ありがとう、アリーシャ。次はお前だな」

「はい。オルフェリア様にご指導いただくので、私はAランクを目指します」

「お前ならできるさ。一緒にクエストへ行こうぜ」

「はい!」


 ラミトワが口を尖らせ、音が出ない口笛を吹きながら、俺の前を素通りしようとする。


「あれ? Bランクのラミトワさんじゃないですか?」

「うっ。マ、マルディン……。その……お、おめでと」


 悔しさと照れが入り交じった表情で、地面に目線を向けながら声を振り絞っていた。


「ラミトワ、ありがとう。お前の一言で、俺は昇格することにしたんだ。感謝してるよ」

「ほんとに?」

「当たり前だろ。お前がいなかったら、俺は今でもCランクだったんだ。だからお前もAランクを取るんだ。一緒にクエストへ行くぞ」


 ラミトワがまっすぐ俺の目を見ていた。


「うん! 私も頑張る!」

「ああ、期待してるぞ」


 この娘たちこそ、国を追放された俺に、新たな使命を与えてくれた存在だ。


 俺はティルコアで、冒険者として生活していく。

 そして、俺の第二の故郷となったこの町を守る。


 そう決心した。


「おっしゃ! やるぜ!」


 俺は気合を入れるように、両手で自分の頬を叩いた。


「ん?」


 ラミトワが意地汚い笑みを浮かべながら、俺を見上げている。


「じゃあ、飛空船買って!」

「なんでだよ!」

「ネームド討伐で報酬出るんでしょ! 買って買って買って!」


 玩具をねだる子どものように騒ぐラミトワ。

 ラーニャとアリーシャは、話は終わったとばかりにギルドの中へ入っていった。


 一人で騒ぐラミトワ。


「買って買って買って!」

「うるせーな! 買わねーよ! ってか、買えるわけねーだろ!」

「マルディンのケチ! ケチおっさん! だからモテないんだ!」


 ラミトワの叫び声が、夕焼けの空にこだまする。


「うるせーな!」


 俺は決心を……早まったのかもしれない。

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