表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化決定】追放騎士は冒険者に転職する 〜元騎士隊長のおっさん、実力隠して異国の田舎で自由気ままなスローライフを送りたい〜  作者: 犬斗
第四章 迷いと疑惑の秋

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

123/243

第123話 前例なき討伐試験11

 ヴォル・ディル解体の翌日、朝からオルフェリアと面談だ。

 ギルドの会議室に入ると、すでにオルフェリアがソファーに座っていた。


「お待たせしました」


 俺はオルフェリアの正面のソファーに腰を下ろす。


「マルディン。この度はご苦労様でした。そして、討伐試験で無理をさせてしまい、申し訳ありませんでした」


 オルフェリアが頭を下げた。


「とんでもないです。町のために、ヴォル・ディルの討伐は必須でしたし、むしろ総本部の達人たちと討伐できて良かったです。我々だけだったら厳しかったでしょうから」

「フフ。ご謙遜を」


 オルフェリアが、笑みを浮かべながら珈琲を口にした。


「ヴォル・ディルに損傷はほとんどなく、解体指導にも使用できました。感謝してます」

「素材はどうするんですか?」

「素材のいくつかは、ティルコアの研究機関(シグ・セブン)に研究用として提供します。その他は総本部に持ち帰ります」

「そうなんですね」

「今回は試験でしたが、クエスト報酬はしっかりお支払いします。素材の買い取りも通常通り行いますので、マルディンには代金をお支払しますね」

「え? いや、それは別に構いませんよ」

「ダメですよ。労働に対する対価は必ず受け取ってください」


 冒険者ギルドには暗黙のルールが存在する。

 そのうちの一つが労働の対価だ。

 俺は騎士時代の癖が抜けきれておらず、つい不要と言ってしまうが、その度に注意されていた。


「ネームドですから報酬は相当な金額になります。それに今回のウィルとティアーヌは、ギルド職員としての参加です。二人の報酬は別なので、全てマルディンが受け取ってください」

「わ、分かりました」


 ネームドの討伐報酬は莫大で、一頭で一財産と聞く。

 いくらになるのか皆目見当もつかない。


「あと、マルディンの剣に関してですが……」

「そのことなんですけど、ネームドの素材を使用させてもらうことは可能ですか?」


 珈琲カップを持つオルフェリアから、意味深な笑みがこぼれる。


「マルディン。剣に関しては、こちらで用意します」

「用意?」

「ええ。共通試験は満点。討伐試験は史上初のネームド。そして見事に討伐成功。ギルドの歴史でも、これは快挙ですからね。それに、ギルドハンターを受けてくださった件もあります。私からのお礼ということで、剣をお送りしますね」

「い、いや。ありがたいのですが、それはさすがに……。今回は報酬がありますし、自分で作りますよ」


 珈琲を口にし、カップをそっとテーブルに置くオルフェリア。


「ネームドの素材で剣を作るには、腕の良い鍛冶師が必要です。未熟な鍛冶師によって、ネームドの素材が無駄になったなんてことも聞きます。ですから、今回はローザに打ってもらいます」

「え? ま、まさか?」

「ええ。神の金槌(シャイオン)のローザです」

「な、なんだって!」


 俺は思わず立ち上がった。

 オルフェリアは予想していたかのように、優しい微笑みをたたえている。


「い、いや、ローザ局長の剣は、一本で金貨数千枚とも聞きますよ?」

「それは素材代も含めてですからね。素材はすでにあります。今回の試験は、私も無理を言いましたからね。受け取ってください」


 こうまで言われたら断ることはできない。

 俺はソファーに座り、頭を下げた。


「わ、分かりました。ありがたく頂戴します」

「フフ。全ての報酬は総本部でお渡しします。ローザの制作時間もあるので、二ヶ月後に総本部へ招待しますね」

「分かりました。お気遣い、感謝します」

「その件はまたご連絡します」


 二ヶ月後に、ギルドの総本部へ行くことが決まった。

 ラルシュ王国を訪れるのは初めてだ。

 建国から数年で、王都は急激に発展していると聞く。

 どんな街なのか楽しみだ。


 ギルド総本部といえば、オルフェリアたちは帰れるのだろうか。


「ところで、飛空船の状態はどうですか?」

「それが思った以上に傷が深くて、本格的な修理をしないと、長距離の飛行が耐えられないんです」

「え? じゃあ、どうやって帰るんですか?」

「総本部から、職員とラルシュ工業の技術者が来てくれることになりました。私たちはその飛空船で帰還して、技術者たちはここに滞在して修理をしてくれます」

「なるほど。ひとまず安心ですね」

「はい。迎えは数日後に到着すると思いますよ」

「それまでは?」

「フフ。アリーシャに色々と伝えるつもりです」

「それはアリーシャも喜ぶでしょう。オルフェリアさんを尊敬してますからね」

「本当ですか?」

「もちろんですよ。良かったらアリーシャを弟子にしてやってください。あっはっは」

「弟子に……なっていただけますかね?」

「当たり前じゃないですか! それに、オルフェリアさんに教われば、アリーシャはすぐにAランクになりますよ。あっはっは」


 突然、オルフェリアの動きが止まった。


「あ、そうだ!」


 珍しく大きな声を出し、軽く手を叩くオルフェリア。


「試験の結果をすっかり忘れてました。ごめんなさい。当然ながら合格です。ですから、マルディンはもうAランクを名乗って構いません。冒険者カードは近日中に発行します」

「ほ、本当ですか!」

「はい。採点は満点です。Aランク冒険者にとっても難しいネームドの討伐ですからね。本当にお見事でした」


 これでついに俺はAランク冒険者となった。

 俺には冒険者の師匠はいないし、ギルドのことなんて分からないことばかりだった。

 だが、ここまで来れたのは仲間のおかげだ。


「マルディン。ギルドハンターのままAランクになった冒険者は初めてです。色々と負担をかけることもあるかとは思いますが、これからもこの地を守ってください」

「もちろんです。俺の第二故郷ですから」

「フフ。国を追われたあなたの……新たな使命ですね」

「俺の……使命」

「元騎士のあなたに相応しい、とても立派な使命です」


 オルフェリアが優しく微笑んでいた。


「さて……マルディン。今日の予定は?」

「休みですよ。というか、剣がないので、しばらくは休業ですね。あっはっは」

「では、お願いがあります」

「お願いですか?」


 また無理難題を言われるのだろうか……。

 俺は少し身構えた。


「フフ。ご安心ください。今日は私も休暇にしました。ですので、フリッターの店に連れていってほしいのです。ウィルが自慢するから、ずっと食べたかったんですよ」

「それならお安い御用ですよ。でも並びますよ?」

「構いません。美味しいものを食べるためなら当然です。フフ」


 冒険者ギルドの頂点に立つギルマスにもかかわらず、行列に並ぶという。

 このギルマスは、俺が知っている権力者たちとは少し違うようだ。

 色々と無茶ばかり言っていたが、俺は嫌いじゃない。

 自ら率先して動くし、なんというか仕事の上司として好感が持てる。


 ギルドのトップがこうなら、俺も信頼して、これまで以上に危険な仕事にも立ち向かえるというものだ。


「オルフェリアさん。ついでに刺し身もどうですか?」

「いいですね。青石魚(イーブーチ)は美味しいですよね」

「あ……」


 オルフェリアは青石魚(イーブーチ)を知っていた。

 ウィルのように驚くと思ったのだが……。


「フフ、私は解体師ですよ? 毒甲百足(アロプレラ)だって食べますもの」

「え? あ、あの蟲類を……」

「一緒に食べますか? 意外と美味しいですよ?」

「い、いや……」


 目論見は看破され、逆に俺が言葉に詰まった。

 オルフェリアの方が一枚も二枚も上手だ。


「フフ。さあ、お魚を食べに行きましょう」


 俺はオルフェリアと繁華街へ向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ