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【書籍化決定】追放騎士は冒険者に転職する 〜元騎士隊長のおっさん、実力隠して異国の田舎で自由気ままなスローライフを送りたい〜  作者: 犬斗
第四章 迷いと疑惑の秋

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第122話 前例なき討伐試験10

 翌日、俺は朝からギルドへ顔を出す。

 オルフェリアがロビーで、ラーニャやトレファスに指示を出していた。


「オルフェリアさん。おはようございます」

「あら、マルディン。おはようございます。早いですね。体調はどうですか?」

「ええ、問題ないですよ」

「あの戦いの後で……。さすがですね。フフ」


 解体師用の厚い革製エプロンをつけたオルフェリア。

 グローブをはめ、腰に終焉の短剣(リカトーレ)を吊るしている。


「これからヴォル・ディルの解体を始めますね」

「見ていてもいいですか?」

「もちろんです。ネームドの解体は珍しいので、ぜひ見ていってください」


 ラーニャが少し焦った表情で、ロビーに戻ってきた。


「オルフェリア様。場所を移動してもよろしいですか?」

「場所ですか? 構いませんよ」

「ありがとうございます。見学者の人数が想定を超えまして……」


 当初はギルドの倉庫で行われる予定だった解体だが、見学者が膨れ上がり、急遽野外の広場へ移動となった。


 ティルコア支部に所属している全解体師、運び屋、研究機関(シグ・セブン)職員が参加している。

 さらに、イレヴス支部の研究機関(シグ・セブン)の職員や、解体師たちも押し寄せたようだ。


 俺は少し離れた位置から解体を眺める。


 オルフェリアが挨拶をすると、終焉の短剣(リカトーレ)を抜いた。

 伝説の解体短剣(メッサー)の登場で、歓声が湧く。


 オルフェリアは解説しながら、ヴォル・ディルの喉元から腹部へ、終焉の短剣(リカトーレ)を一直線で動かす。

 さらに尻尾の先まで切っていく。

 続いて、四本の手足に沿って切込みを入れ、毛皮と肉の間に終焉の短剣(リカトーレ)を入れる。


「す、すげーな。あっという間に毛皮を剥いだぞ」


 あまりの速さに、見学者たちからどよめきが上がる。


「ん?」


 背後から気配を感じた。

 だが、知っている気配なので、特に気にせず視線は動かさない。


「あれが世界最高の解体師だよ」


 背後から聞こえた声の持ち主はウィルだ。

 ウィルが俺の背中を軽く叩き、隣に立つ。


「ウィル、お前身体は大丈夫か?」

「ああ、問題ないよ。鎧に少し傷がついたくらいさ。ハハ」


 ヴォル・ディルに弾き飛ばされても無傷だという。

 ウィルの鎧は相当な高性能なのだろう。

 そういえば、両刃短剣(グラディウス)も凄まじい切れ味だったし、ヴォル・ディルの大爪を弾いていた。


「なあ、お前の剣と鎧って素材はなんだ?」

「一応ネームドの素材だよ」

「そりゃそうか。Aランク冒険者だし、騎士団の副団長だもんな」

「まあね。オイラはネームド討伐の経験があるからね。その素材で作ったんだ」


 今回の戦いで損傷した俺の剣は、どう考えても修復不可能だ。

 ヴォル・ディルの大爪によって、剣身から三日月を切り取ったようにえぐれていた。

 作ったばかりではあるが、新しい剣を用意しなければならない。


「ネームドの素材か……」


 解体場では、オルフェリアが時折手を止め解説している。

 アリーシャは最も近くで、メモを取りながら熱心に話を聞いていた。


 正午を迎える前には、解体が終了。


「すげーな。もう終わっちまったよ」

「オルフェリアさんだもん。あの人以上の解体師なんて見たことないよ」


 オルフェリアは解体師たちに囲まれ、質問攻めだ。


「オルフェリアさんの解体師セミナーは、毎回一瞬で会場がいっぱいになっちまうのさ。金を取ればいいのに、解体師の技術向上だってことで毎回無料なんだよ。それが今回は滅多にないネームドだ。そりゃ人も集まるってもんさ」

「なるほどね。そりゃそうか」


 オルフェリアの隣にいるアリーシャは、いつも以上に真剣な表情だった。


「頑張れよ、アリーシャ」


 俺はウィルの肩に手を置く。


「さて、俺は飯を食いに行く。お前は休みだっけ?」

「そうだよ。せっかくのティルコアだ。美味い店を案内してくれよ」

「そう言うと思ったぜ。んじゃ、行くか」


 俺はウィルを引き連れ、繁華街へ繰り出した。


 一軒の食堂へ入る。

 この町の昔ながらの食堂で、注文方法が面白い。


「ここの魚が美味いんだ。今朝上がったばかりの魚を出すんだぜ」

「いいねー。オイラ、刺し身が食いたい。新鮮な魚を食う機会はなかなかないからな」

「魚は自分で選べるぞ。ほら、あそこに並んでる魚を選んで、その場で捌いてもらうんだよ」

「マジか! メッチャ楽しいじゃん。」


 積み上げた木箱に並べられている魚を選んでいると、ティアーヌが姿を見せた。


「ここにいたんですね」

「お、ティアーヌか。どうしたんだ?」

「私も今日は休暇にしたので、お二人につき合います」

「ここにいるって、よく分かったな」

「こう見えて、調査機関(シグ・ファイブ)の支部長ですからね。調査は得意なんですよ。ふふ」


 両手を腰に当て、得意げな表情を浮かべるティアーヌだった。

 だがウィルは、ティアーヌに目もくれず、集中して魚を選んでいる。


「ウィル様、このお魚美味しいですよ」

「え? こんな鮮やかな魚が? ちょっと怖くない? 毒とか大丈夫か?」

「大丈夫ですよ。すっごく美味しいんですって」

「い、嫌だよ。もっと普通のがいい」

「この町では普通ですよ!」


 ティアーヌが、体長五十セデルトの青石魚(イーブーチ)を指差した。

 名前の通り、宝石のような鮮やかな青色の魚だ。

 俺もこの地に来て、あれを食べるのかと驚いたが、食ってみると確かに美味い。

 特に刺し身は絶品だった。


 美味い刺し身を食いたいと言っていたウィルにはちょうどいい。

 ウィルが希望した通りの選択は、さすが一流諜報員だ。

 事前に調べていたのだろう。


「ウィル様、これにしましょう!」

「おい! ティアーヌ!」


 ただ、嫌がるウィルを楽しんでるようにも見えるが。


 ――


 飯を食い終わった俺たちに、女将が食後の大麦茶を出してくれた。

 さっぱりとした大麦茶を飲むことで、濃厚な青石魚(イーブーチ)の余韻がさらに際立つ。


「あの刺し身、マジで美味かったなー。見た目はアレだけど……」

「ほらー、言ったじゃないですか」


 ウィルの感想を聞いて、ティアーヌが勝ち誇った表情を浮かべている。


 そんなティアーヌに、俺は気になることを質問してみることにした。


「なあ、ティアーヌ。お前の武器はどうすんだ? あの重槌(マルテッロ)はもう使えないだろ?」

「はい。新しく作ります。とはいえ、冒険者でのクエスト予定はないので、しばらくは刺突短剣(スティレット)でも大丈夫ですけどね」


 ティアーヌは冒険者のクエストだと重槌(マルテッロ)を使うが、諜報活動では刺突短剣(スティレット)を使用していた。

 武器を使い分けることは、その分習得にも時間がかかる。

 一般的には推奨されてない。

 それをやってのけたティアーヌは、これまで相当な努力を積んできたのだろう。


 ウィルが口にした大麦茶のカップをテーブルに置く。


「ネームドを討伐したんだ。二人とも素材は使えるはずさ」

「マジか?」

「ああ、ネームドの素材で装備を作ることは、冒険者にとって最大の名誉だからな。オルフェリアさんに相談してみるといいよ」


 その後は、いくつもの店に連れ回された。

 休みだということで、二人ともティルコアのグルメを存分に楽しんでいる。


 ウィルは小さい身体ながら、驚くほど食べる。

 ティアーヌも細身なのに、ウィルに負けてない。


「二人ともよく食うな」

「だって、昨日頑張ったし?」

「ティルコアの料理は本当に美味しいですからね。でも、太っちゃいますね。ふふ」


 最後は馴染みの酒場へ移動し、黒糖酒を楽しむ。


「今日は丸一日、ただ食って飲んでいたなあ。あっはっは」

「まあいいじゃん? 何事もメリハリが大切さ。ハハハ」

「ふふ、楽しいですね。もう一本飲んじゃいましょうか」


 ウィルの言う通り、昨日の激闘の後だ。

 こんな日もいいだろう。

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