第121話 前例なき討伐試験9
日没と同時にギルドへ帰還。
着陸すると、ラーニャを筆頭にギルド総出で出迎えてくれた。
俺たち全員の無事を伝えると、すぐに作業が開始。
作業チームは二つに分かれていた。
一つが解体師と研究機関だ。
支部長のトレファスを中心とした職員がクレーンを操作し、ヴォル・ディルを下ろす。
「一角虎なんて初めて見たぞ」
「そうだな。しかも、ただの一角虎じゃない。ネームドだぞ。通常種とは格が違う」
「うちの支部でネームド討伐なんて快挙だろ」
「これが悪魔の爪か……。恐ろしいな。マルディンさんは、よくこんなモンスターを討伐したもんだ」
「まあ、あいつもネームドみたいなもんだしな。ははは」
作業中の解体師たちの会話が聞こえた。
「おい! 聞こえてんぞ!」
「「「実際そうだろうが!」」」
声を揃えて叫ぶ解体師たち。
「フフフ。皆さんの仰る通りですよ?」
革製のエプロンとグローブをつけたアリーシャが、声をかけてきた。
「マルディン、おかえりなさい。無事で良かったです」
「ああ、なんとか無事に討伐できたよ」
「ええ、そのようですね。本当に……凄いです」
アリーシャの瞳が僅かに潤んでいた。
心配かけたようだ。
「ここからはお前たちの仕事だ。頼むぜ」
「……はい。ありがとうございます」
俺はアリーシャの肩に、そっと手を置く。
「マルディン! おかえり!」
「いて!」
ラミトワが俺の背中を叩いてきた。
「凄いよ! 本当にネームドを討伐しちゃうなんて!」
「だろー。もっと尊敬しろよ」
「うっ……」
俺はここぞとばかりに、ラミトワの真似をした。
「あ、作業しなきゃ。じゃね」
「おい!」
ラミトワが飛空船へ走っていく。
「ちっ、逃げやがった」
「フフフ。あの娘も喜んでるんですよ」
「本当か?」
「もちろんですよ。マルディンは大丈夫かなって、口癖のように言ってましたからね」
ラミトワが向かった先に、もう一つのチームが集合していた。
運び屋と開発機関だ。
「頑丈な船体にこれほどの傷がつくのか?」
「そりゃ、ヴォル・ディルだしな」
「これでよく帰還できたもんだ」
「うちだけじゃ修理は厳しいぞ」
「損傷をまとめて、ラルシュ工業へ連絡します。急ぎましょう」
職員たちは傷の大きさに驚きながらも、リーシュを中心に、すぐに飛空船の整備を開始した。
俺たちは自分たちの荷物を持って、ギルドのロビーへ移動する。
「ウィル。あなたたちはもう休んでいいですよ」
「オルフェリアさんはどうすんの?」
「私はヴォル・ディルの取り扱いについて、これから職員たちに指示を出します」
「そっか。分かったよ。じゃあ、適当にやってるよ」
「今日はゆっくり休んでくださいね。ウィルは明日、休暇でいいですよ」
「マジで! やったね!」
俺とウィル、そしてティアーヌの三人は、ギルドの食堂へ入る。
俺の姿を見たフェルリートが、心配そうな表情で駆け寄ってきた。
「マルディン! 大丈夫だった?」
「ああ、フェルリート。無事に討伐したよ」
「良かったー。ずっと心配してたんだよ」
「そうか。すまんな。ありがとう」
俺はフェルリートの頭を軽く撫でた。
「ご飯食べるでしょ?」
「もちろんだ。そのために帰ってきたんだからな。あっはっは」
全員を見渡すフェルリート。
「皆さんの分も作りますね。ふふ」
いつもの愛らしい笑顔を浮かべている。
クエスト帰りでこの姿を見れば、疲労も吹き飛ぶというものだ。
ウィルが肘で俺の腰を押してきた。
ニヤついた表情が、微妙にムカつく。
「へえ。可愛い子じゃん」
「ああ、フェルリートはうちの看板娘だからな」
「なるほど、この娘が本命か? いいじゃんいいじゃん。歳が離れてるけど、たかが十歳くらいだろ。問題ないさ」
「ん? 何を言ってんだ?」
「またまた、とぼけちゃって。お似合いだぞ」
「は? 何言ってんだお前。俺とフェルリートは別に関係ないぞ?」
俺たちの会話を聞いていたフェルリートが、無言でカウンターへ戻っていった。
麦酒を二杯注ぐ。
「どうぞ。お二人とも、本当にお疲れ様でした」
カウンターに置かれた麦酒。
どう見ても俺の分がない。
「な、なあフェルリート。俺にも……」
「どちら様ですか? 関係ない人ですよね?」
美味そうに麦酒を飲むウィル。
口の周りに白い泡をつけ、俺に視線を向ける。
「あーあー、怒らせちゃったな」
「お前のせいだろ!」
「何でだよ!」
ティアーヌが、両手で抱えた木樽ジョッキをカウンターに置く。
「フェルリートさん。今回のマルディンさんはとても頑張ったんです。それに、帰還したらフェルリートさんのご飯が楽しみだと仰ってました。だから一杯だけも注いでくださいませんか?」
ティアーヌがフォローしてくれた。
上司のウィルとは大違いだ。
「分かりました……。知らない人ですけど、ティアーヌさんが言うなら一杯だけ……。全然知らない人ですけど……」
ティアーヌの説得で麦酒を注いでくれたフェルリート。
改めて三人で乾杯した。
「……おい。あの娘、怒ると怖いな」
「お前のせいだっつーの」
「あのキレっぷり、うちの王妃みたいだったぜ……」
小声で俺に話しかけるウィル。
その後はなんとかフェルリートに機嫌を直してもらい、俺は夕飯にありつけた。