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【書籍化決定】追放騎士は冒険者に転職する 〜元騎士隊長のおっさん、実力隠して異国の田舎で自由気ままなスローライフを送りたい〜  作者: 犬斗
第四章 迷いと疑惑の秋

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第119話 前例なき討伐試験7

 糸巻き(ラフィール)を発射しようとした瞬間、ヴォル・ディルの頭上に人影が現れた。


「マルディンさん!」

「ティアーヌ!」

「っしょ!」


 空中に姿を現したティアーヌは、自身の頭よりも大きな重槌(マルテッロ)を両手で振り下ろす。

 甲高い破壊音が響くと同時に、ヴォル・ディルの右爪の一本をへし折っていた。


「マルディンさん! この隙にトドメを! ウィル様の仇を取ってください!」

「死んでねーっつーの! マルディン、使え!」


 ウィルが両刃短剣(グラディウス)を空中に投げた。


「グゴオォォォォ!」


 ヴォル・ディルがもう一度、俺に向かって左爪を振り上げている。

 視力を失っているにも関わらず、その執念はさすがだ。


 だが、ティアーヌのおかげで余裕ができた俺は、ヴォル・ディルの大角に糸巻き(ラフィール)を発射。

 即座に巻き取り、接近しながらウィルの両刃短剣(グラディウス)を空中で掴み、そのままヴォル・ディルの眉間に突き刺した。


「グゴオオオオォォォォォォォォ!」


 首を振り、咆哮を上げるヴォル・ディル。


「短いか!」


 ウィルの両刃短剣(グラディウス)は、信じられないほどの切れ味だったが、物理的にヴォル・ディルの脳には届かなかった。

 俺は突き刺した両刃短剣(グラディウス)を抜き、頭上の枝に向かって糸巻き(ラフィール)を発射。

 そして(フィル)を巻き取り、枝へ接近。

 両足で枝を蹴り、両刃短剣(グラディウス)を突き刺すように構えた。

 枝を蹴った反動を利用し、ヴォル・ディルの頭部に向かって急降下。


「これで! 終わりだ!」


 もう一度眉間に両刃短剣(グラディウス)を突き刺す。

 先程よりも深く刺さった両刃短剣(グラディウス)は、脳に到達したようだ。


 ヴォル・ディルの身体が、意思とは反したように一瞬だけ大きく動く。

 まるで生きた魚を締めた時の反応だ。


「グゴオオオオォォォォォォォォ!」


 断末魔とともにヴォル・ディルの動きは止まり、そのまま地面に倒れ込む。

 轟く地響きは地震そのものだった。


「俺が見たモンスターの中で、最も強かったよ……」


 俺は剣を抜き、ヴォル・ディルの頭部から飛び降りた。

 ヴォル・ディルの額からは大量の出血。

 そして、両目は切られ、口から舌が出ている。


「マルディンさん、大丈夫ですか!」


 ティアーヌが俺の元へ駆け寄ってきた。


「ああ、俺は大丈夫だよ。ウィル様を見てやってくれ」

「ちっ。オイラも大丈夫だっての」


 ウィルは一人で立ち上がり、俺たちの元へ歩いている。

 俺はウィルの両刃短剣(グラディウス)を返した。


「良い剣だな。ヴォル・ディルの頭蓋骨も突き通したぞ」

「ああ、もちろんさ。ローザさんの剣だからな」

「お前もか」

「まあそりゃね。オイラは一応ラルシュ王国の幹部だもん。頼めば作ってもらえるんだよ」


 ウィルが剣を鞘に納め、ヴォル・ディルの頭部に手を置く。


「さすがだったよ、ヴォル・ディル。強かったぜ」


 呟きながら、ヴォル・ディルに祈りを捧げるウィル。

 俺とティアーヌもそれに倣う。

 僅かな静寂の後、ウィルが拳を握り、俺の上腕を軽く叩いた。


「ヴォル・ディル討伐完了だ。やったな、マルディン」

「必死だったよ。ウィルの犠牲のおかげだ」

「死んでねーっつーの!」


 俺の胸を、鎧の上から殴りつけるウィル。


「冗談はさておき、やっぱりウィル。お前凄いな。さすがだったよ」

「何言ってんだよ。ほとんどアンタがやったんだ。糸巻き(ラフィール)を使った戦闘は革命だよ。マジでスゲーもん見たぜ」


 ウィルの言葉に頷くティアーヌ。

 俺はティアーヌの肩に手を置いた。


「ティアーヌもありがとう。あそこでお前が来てくれたから、討伐できたんだ」

「私もとにかく必死でした。ふふ」

「それにしてもティアーヌ。お前、武器は重槌(マルテッロ)なのか? 以前は刺突短剣(スティレット)を使ってたじゃないか」

「はい。冒険者の時は、重槌(マルテッロ)を使うんです」

「そりゃそうか。諜報活動で、こんな大きな武器は使えないもんな。あっはっは」

「ふふ。仰る通りです。でも、この武器は面白いんですよ。武器の中でも破壊力は随一ですから」


 ティアーヌが握る重槌(マルテッロ)

 槌の先端は人の頭よりも大きく、円柱状で先端が僅かに尖っている。

 素材は希少鉱石のようだ。

 槌には繊細な彫刻が施されており、迫力と美しさを兼ね揃えている武器だった。


 柄の長さは約一メデルトあり、細身のティアーヌが扱える武器ではないと思うのだが、彼女もAランク冒険者だ。


「やはりAランク冒険者という者は化け物揃いだな……」

「何か言いました?」

「え? い、いや。何でもないよ。あっはっは」 

「聞こえてますよ」


 ティアーヌが頬を膨らませていた。


「ティアーヌ。その重槌(マルテッロ)を見せてもらえるか?」

「はい、どうぞ」


 ティアーヌから重槌(マルテッロ)を受け取った。

 右手で持ち、何度か振りかぶる。


「これは……凄いな」


 確かに破壊力は抜群だ。

 モンスターの頭蓋骨すら、簡単に砕くだろう。


「この素材は何だ? 初めて見る石だぞ」

「硬度八でレア度八の隕鉄石です」

「これが隕鉄石か」


 鉱石の硬さを示す硬度と、レア度を示す数値は最高で十だ。

 隕鉄石はレア中のレア素材で、俺も見たことはなかった。


「これ、すっごい高かったんですよ」

「まあ、ヴォル・ディルの大爪だって折るほどだもんな」

「でも、さすがに傷ついてしまいました……。ああ……」


 先端が大きくえぐれている。

 この隕鉄石の重槌(マルテッロ)をえぐるヴォル・ディルの大爪はさすがだ。


「俺の剣も使い物にならなくなったよ……」


 重槌(マルテッロ)を振りながら、この武器も面白そうだと感じていた。

 だが、糸巻き(ラフィール)とは相性が悪い。

 片手で扱うには重すぎる。


「あのー。それ片手で振れるものではないですよ?」

「え? あ、ああ。まあ俺はほら、鍛えてるからな」

「鍛えたって無理なものは無理ですよ。一番の化け物はマルディンさんですね。ふふ」

「うるさいよ」


 俺たちの様子を眺めているウィルは、地面に足を投げ出し座り込んでいた。

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