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【書籍発売中】追放騎士は冒険者に転職する 〜元騎士隊長のおっさん、実力隠して異国の田舎で自由気ままなスローライフを送りたい〜  作者: 犬斗
第四章 迷いと疑惑の秋

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第113話 前例なき討伐試験1

 冒険者の共通試験を受けてから、一週間以上が経過。

 討伐試験の詳細はまだ不明だが、俺は体調や怪我を考えて、クエストへ行かず連絡を待っていた。


「今日辺り連絡があるかもしれんな」


 そろそろイレヴス支部から連絡が来るかもしれないと思い、朝から冒険者ギルドに顔を出した。


「おはよう、ラーニャ。そんなところで、どうした?」


 ロビーに立っているラーニャ。

 珍しく、その表情は笑ってない。

 それどころか、落ち着かず、うろたえているようだ。


「マルディン、待ってたのよ。大変なことになったわ」

「どうした?」

「討伐試験の詳細が決まったのよ」

「お、決まったか。何をやるんだ?」

「それがね……。部屋で話すわ」


 俺はラーニャに案内され、支部長室へ向かった。


 ――


「なんだと!」


 ソファーに座っていた俺は、思わず立ち上がった。


「ど、どうなってんだよ!」

「私も分からないのよ。でも、総本部の決定には従うしかないもの」

「そうかもしれないが……」


 討伐試験の内容を聞いて驚いた。

 いや、驚いたなんてものじゃない。

 理解が追いつかない内容だった。


 まず討伐試験の管轄が、イレヴス支部の人事機関(シグ・フォー)ではなく、ギルドの総本部になっていた。

 そして、試験の対象モンスターは一角虎(ガーラ)だ。

 通常、討伐試験に関しては、受験するランクよりも下位ランクのモンスターを狩猟し、試験官が技術などを採点する。


 Aランクの試験であれば、Bランク以下のモンスターを狩猟する。

 当たり前だ。

 まだAランクになっていない状況で、Aランクモンスターを狩猟できるわけがない。


「Aランクの試験で、Aランクモンスターの討伐なんて前代未聞よ。しかもそれが『王のモンスター』だもの」


 額に滲む汗をハンカチでそっと拭うラーニャ。

 Aランクモンスターの中でも、それぞれの環境で食物連鎖の頂点に立つモンスターを『王のモンスター』と呼ぶ。

 カーエンの森で遭遇した一角虎(ガーラ)は『密林の王』の二つ名を持つ。

 一角虎(ガーラ)は以前、Bランクの大型モンスターである四角竜(クワロクス)を、いとも簡単に狩猟したほどの危険極まりないモンスターだ。

 俺は四角竜(クワロクス)との戦闘で、重症を負ったというのに。


 そして、試験官はウィルで、同行する解体師はギルドマスターだ。

 アリーシャから聞いたが、ギルマスは世界最高の解体師と呼ばれている。


「本当に信じられないわね」


 ラーニャが呟きながら立ち上がった。

 珈琲カップを二つと、ポットを用意。


「ひとまず、落ち着こうかしらね」

「そうだな」


 ラーニャが淹れてくれた珈琲を口に含み、テーブルの焼き菓子をつまむ。 

 状況を冷静に考えると、この判断も分からなくはない。


 ギルド総本部としては、一角虎(ガーラ)は放置できないが、この地域にはAランク冒険者がいないため、討伐パーティーの派遣を考えたはずだ。

 そこへ偶然にも俺のAランク討伐試験が入った。

 試験で一角虎(ガーラ)討伐すれば『一矢で二羽の鳥を射る』ということわざ通りになる。

 そしてウィルの試験官は、俺とのギルドハンター繋がりから指名されたのだろう。


 とはいえ、ギルマスまで来ることは信じられない。

 Aランクの解体師と運び屋を派遣すればいいはずだ。


 それに、討伐試験は原則一人で行うものだ。

 いくら共通試験が満点だったとはいえ、俺一人で一角虎(ガーラ)を討伐できるとは思えない。


「なあ、討伐試験って一人でやるだろ? いくらなんでも、一角虎(ガーラ)は厳しくないか?」

「そうね。だけど今回は試験官がウィル様だもの。もしかしたら、ウィル様も討伐に参加するのかしら」

「まあ、普通に考えたらそうだろうな。やはり、試験を兼ねて、ウィルと一緒に一角虎(ガーラ)を討伐するってことだろう」


 元騎士の俺は、ウィルの騎士団副団長に関しては知識がある。

 だが、冒険者のウィルに関しては知らない。


「冒険者のウィルって実際どうなんだ? 現役のAランク冒険者なんだよな?」

「マルディン。冒険者ギルドにはね、Aランクの上にSランクが設けられているの。でもこれは試験を受けるようなものではなく、ギルド総本部と人事機関(シグ・フォー)が決定するのよ。現在のSランクは三人。冒険者はラルシュ王国の両陛下。解体師はオルフェリア様よ」


 もちろん知っている。

 その三人はギルドの伝説だ。


「そして、ウィル様は最もSランクに近いと言われてるわ」

「つまり、Sランクに片足突っ込んでるってことか」

「そうよ」


 頷きながら、珈琲カップに口をつけるラーニャ。


「なるほどね。ウィルも化け物の一人か」

「あなたも大概だけどね。ウィル様ですら、試験で満点を取れなかったのよ?」

「まあ、俺の場合は運だけどな。あっはっは」

「何言ってるのよ。まったく……」


 ラーニャが呆れた表情で、俺の顔を見つめていた。


 俺は円形状の焼き菓子をつまみ、半分噛み砕く。

 この焼き菓子は、小麦粉と、森鶏(ウルガロ)の卵と、この地方の黒糖で作られているものだ。

 珈琲を口に含み、そして残りの半分を口へ放り込む。


「で、ウィル様たちはいつ来るんだ?」

「それが……、今日の夕方には到着するようなの。パルマが急いで準備をしてるわ」

「なに! 今日来んのか?」

「ええ。飛空船で直接ここへ来るそうよ。簡易空港を作っておいて良かったわ」

「マジかよ。ほんといつも突然来るな……」

「え? どういうこと?」

「あ、なんだ。えーと、あいつは騎士団の副団長だろ。俺が騎士隊長時代に、会ったことがあるんだよ」


 以前ウィルがここへ来たことは内密だった。

 ギルドハンターに関しては、支部にも極秘事項だ。

 騎士繋がりで、なんとかごまかした。


「それよりギルマスが来るんだろ?」


 俺は話題を変える。


「ギルマスの宿泊や警護は大丈夫なのか?」

「特別対応は不要の旨の記載があったけど、ギルマスの来訪は初めてだから、パルマが張り切ってたわ」

「そりゃ、そうだろうな」


 ギルマスが、田舎の支部に来訪するなんて大事件だ。

 だが、ウィルがいれば大丈夫だろう。

 いざとなれば、俺も警護する。

 対モンスターの経験は少ないが、対人であれば問題ない。


「さて、じゃあ準備しておくか。また夕方に来るよ」

「ええ、オルフェリア様にお会いするのだから、それなりの格好をしてきてよ。あ、元騎士様だから大丈夫か。うふふ」

「ちっ。分かってるよ」


 ラーニャの嫌味ったらしい笑顔を睨みながら、ソファーを立ち上がる。

 すると同時に、支部長室の扉をノックする音が響いた。


「失礼するよー」


 気の抜けた声が聞こえると同時に、入室してくる男。


「お前! ウィル!」

「あれ? マルディンじゃん。アンタ何やってんだ?」

「何って。お前こそ夕方に来るんじゃなかったのかよ!」


 まだ朝方なのに、もうウィルは到着したようだ。


「いやー、聞いてくれよ。それがさ、オルフェリアさんの操縦が荒いのなんのって。『気流に乗せます』とか言って、すんごいスピードで来ちゃったんだよ。もう二度とごめんだね」


 ウィルの後ろに、もう一人の人影が見えた。

 二人の接近に、俺は全く気づかなかった。

 気配を消していたのだろう。


「ウィル。勝手なことを言わないでください」


 黒髪の女性が部屋に入ってきた。

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