第11話 納品と打ち上げ
冒険者ギルドへ戻り、受付で薬草を取り出した。
「パルマ、納品だ」
「おお、なかなか良い薬草じゃないか。ご苦労様、マルディン」
「あとさ、森で大爪熊に遭遇したんだよ。恐らくクエストで出ていた個体だろう。討伐したから回収したい。解体師と運び屋を手配してもらえるか?」
「は? 何だって? 大爪熊を討伐?」
「ああ、殺らなきゃこっちが殺られてた」
「わ、分かった。解体師と運び屋を呼ぶ」
ギルド職員のパルマがすぐに手配してくれた。
ギルド所属の解体師と運び屋、そして俺の三人で森へ戻る。
吊るした大爪熊の死骸に到着にすると、解体師がさっそく確認。
「どうだい?」
「良い状態ですね。傷は首だけですから素材として使えます。しっかり血抜きもされてますし、食材としても使えますよ」
「だろ? 遭遇した時はやべえと思ったけど、とっさに熊鍋にしてやろうと思ってさ。あっはっは」
「それにしても、よく糸で拘束しましたね。見事な罠です」
「ああ、運が良かったんだよ」
「それにこの喉の切り口も相当鋭いですよ?」
「ん? それも運だよ運。あっはっは」
糸をほどき大爪熊を地面に下ろすと、解体師が手際良く解体を始めた。
毛皮を剥ぎ、部位ごとに切り落とし、内臓を取り出す。
運び屋が防腐処理を行い、荷車に乗せていく。
「素材はどうしますか? ギルドに売りますか?」
「そうだな。鍋の分だけ貰って、あとは売るよ」
「了解しました。じゃあ、一番良い部位を切り出しますね」
「おお、助かるよ。お前らの肉も取っていいぞ。食べたいだろ?」
「え? 良いんですか?」
「もちろんだ。それに、これほどのベルアなら金貨四、五枚にはなるだろう。お前らには金貨一枚ずつ払うよ」
「え! そ、そんな大金! わ、悪いですよ」
「いいって。俺は生活できる金があれば問題ないし、解体師や運び屋とは仲良くしたいからな。あっはっは」
数年前まで差別の対象だった解体師と運び屋。
冒険者が命懸けで狩ったモンスターを解体して運ぶだけで金が貰える、というくだらない理由だった。
だが、彼らがいないと冒険者は何もできない。
解体師が素材を切り出し、運び屋が迅速に運搬することで冒険者は報酬を得る。
実はたった一人の冒険者が差別をなくし、これまでの風習を変えたそうだ。
そのおかげで、現在の狩猟系クエストは冒険者、解体師、運び屋でパーティーを組む。
人気の解体師や運び屋は引く手あまただ。
――
ギルドに戻り、受付で全ての精算をした。
「マルディン。お前、今日の報酬凄いぞ。やっぱり大爪熊討伐が大きいな。あれほど嫌がってたくせに」
パルマが嫌味っぽくカウンターに金を置く。
「遭遇しちまったんだ。仕方ねーだろ」
「遭遇したからって、普通は討伐できないって」
「運が良かったんだよ」
「まったく……。まあ引き続き頼むぜ」
「腰がいてーよ。もう楽なクエストしかやらねーって!」
今回の報酬は薬草採取で銀貨一枚、ベルア討伐が金貨三枚、ベルアの素材買い取りが金貨五枚。
解体師と運び屋にそれぞれ金貨一枚を支払い、手元には金貨六枚と銀貨一枚が残った。
この町は金貨一、二枚もあれば一ヶ月余裕で暮らせる。
「マールディン!」
「フェルリートか」
食堂から出てきたフェルリートが、小さくジャンプして俺の横で両足を揃えた。
美しい金髪をなびかせ、可愛らしい笑顔を浮かべている。
さすがはこのギルドの看板娘だ。
「ほら、ツケの分だ」
食堂から出てきたフェルリートに銀貨一枚を支払った。
「まいどー」
「さて、帰るかな。今日は疲れたよ」
「ねえ、マルディン。夕食はどうするの?」
「今日は凄いぞ。大爪熊の肉があるから熊鍋だ」
「えー! いいなー、私も食べたい」
「ん? 食いたいのか? じゃあ家に来るか? だけどお前が料理するんだぞ?」
「え! いいの! 行く行く! 料理するよ!」
「むしろ助かる。お前の料理は美味いからな」
「やったー! すぐ支度するから待ってて!」
フェルリートが食堂の事務所へ走った。
「おい! お前らも来いよ!」
「え? 私たちもですか? い、いいんですか?」
俺は解体師と運び屋にも声をかけた。
「もちろんだ! 今日の打ち上げすっぞ!」
「はい!」
「帰りに食材や酒を買っていこうぜ! 金はある! 今日は熊鍋パーティーだ!」
この人数で飲み食いしても半銀貨一枚もいかないだろう。
それに金なんていつでも稼げる。
それよりも、今を楽しく生きる方が大切だ。
「行くぞ!」
俺たちは市場へ向かった。




