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【書籍化決定】追放騎士は冒険者に転職する 〜元騎士隊長のおっさん、実力隠して異国の田舎で自由気ままなスローライフを送りたい〜  作者: 犬斗
第四章 迷いと疑惑の秋

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第109話 地獄の試験再び1

 雲一つない秋晴れの空が広がる。

 秋と言えども汗ばむほどの気温になる南国だが、地平線から太陽が顔を出したばかりの早朝は過ごしやすい。


「祖国に比べたら、ここは本当に天国だな」


 俺の祖国は、短い夏が終わるとすぐに冬を迎える。

 厚い雲に覆われ、太陽が顔を出すことは珍しいとさえ言われるほどの、厳しい冬の始まりだ。


「さて、気合を入れますか」


 昨日の夜からイレヴスに宿泊していた俺は、早朝に宿を出た。

 そして、イレヴス市街地の街道を進み、冒険者ギルドへ向かう。

 目的は冒険者のランク試験だ。

 Cランクの俺は、ついに上位ランクを目指す。


 俺が所属するティルコア支部は特例で支部へ昇格したため、ランク試験を実施する人事機関(シグ・フォー)が設立されていない。

 そのため、試験を行っているイレヴス支部へ行く必要があった。


 冒険者ギルドの試験は高額で知られている。

 現在の冒険者は徒弟制が主流で、試験代は師匠や一門が一部、または全部を負担することが多いそうだ。

 また、高名な冒険者になると、貴族や商人がパトロンになるという。


 俺には師匠もパトロンもいない。

 一人で活動しているため、試験代は全て自分で捻出する。


 俺はバッグから、試験の書類を取り出した。


 ◇◇◇


 ○共通試験 受験料 金貨一枚

 筆記 六科目

 体力 五種目 


 ○討伐試験 受験料

 Aランク 金貨五十枚

 Bランク 金貨三十枚

 Cランク 金貨二十枚

 Dランク 金貨十枚


 ○合格基準

 Aランク 共通九十点以上 + 討伐試験

 Bランク 共通八十点以上 + 討伐試験

 Cランク 共通七十点以上 + 討伐試験

 Dランク 共通六十点以上 + 討伐試験

 Eランク 共通五十点以上


 ◇◇◇


「Bランクを受けるためには、共通試験の結果が八十点以上必要か。まあBランクなら大丈夫だと思うが、油断は禁物だ」


 俺は以前の共通試験で、九十二点を取った。

 今回も同じ得点が取れれば、Aランクの討伐試験を受験できる。

 だが、冒険者ギルドの試験は運にも左右されるため、Bランクだって確実ではない。


「まあ頑張るだけだ」


 イレヴスの冒険者ギルドに到着し、受付で共通試験代の金貨一枚を支払う。


「筆記試験から始まります。二階の会議室に移動してくださいね」

「分かった。ありがとう」


 筆記試験は六科目。

 モンスター、動物、地理、植物及び鉱石、言語、応急救護だ。

 以前と科目が変わっていたが、勉強しているので問題ない。


 試験を終え一階のロビーへ戻った。

 この後、体力試験が行われる。

 ソファーに座り、少しでも身体を休めるために、腕を組みながら瞳を閉じた。


「おい、あいつってティルコアの冒険者だろ?」

「確かマルディンとかいうCランク冒険者だ」

「知ってっか? あいつ糸使いって呼ばれてるらしいぞ」

「は? Cランクで二つ名があるのかよ」

「それがよ、凄腕の元騎士隊長らしいぞ」

「元騎士で冒険者? か、かっこいい……」


 俺のことを噂する声が聞こえた。

 だが噂なんて気にせず、体力試験に集中だ。


「体力試験を行います! グラウンドへ移動してください!」


 職員の案内があり、受験者たちはギルドの裏にあるグラウンドへ移動。

 受験者は百人ほどいるだろう。


 芝生のグラウンドには、楕円形の白線が引かれていた。

 目測だが、恐らく一周二百メデルトだろう。


 俺は一度経験しているから知っているが、体力試験の最後はあの楕円形の外周に沿って走る。

 それこそ、倒れるまで何周もするのがこの試験だ。


 受験者の前に、試験官が立つ。


「これから体力試験を始める! 全部で五種目だ! 今から全員に目隠しをする! 指示するまで絶対に外すな! 外したらその場で試験失格だぞ!」


 職員の手によって、受験者は全員目隠しをされた。


「いいか! この体力試験は各種目、最初の脱落者が最下位、最終的に残ったものが一位となる! 順位によって点数が割り振られる! 少しでも順位を上げるんだ! 最後まで力を振り絞れ!」


 すぐに試験開始となった。


「一種目目は腕立て伏せだ! 用意! 始め!」


 銅鑼の音に合わせて腕立て伏せを行う。

 目隠しをしているので、周りの様子は分からない。

 また銅鑼の轟音が、周囲の気配をかき消す。


「一! 二! 三!」


 回数を数える試験官の声が響く。


「百! 百一! 百二!」


 銅鑼を叩く音のスピードは速く、早くも百回を超えていく。

 その後も銅鑼のペースは落ちず、千回で俺は一種目目をやめた。


「二種目目は懸垂だ!」


 一切の休憩なく二種目目が開始。


「頭上に鉄棒がある。手を伸ばして、その場でジャンプしろ」


 サポートの職員が俺の肩に触れ、立ち位置を調整してくれた。


「よし、始めるぞ!」


 銅鑼の音と同時に懸垂を行う。


 腕立て伏せではまだ余力を残していたが、二種目連続で腕の酷使はキツい。

 ここで腕の力を使い切るか、余力を残すか迷う。

 悩みながらも百回に到達したところで、俺は鉄棒から手を離した。


 ◇◇◇


 体力試験は五種目。

 種目は事前に知らされておらず、何が行われるのか開始の瞬間まで分からない。

 それもそのはず、試験官がその時の受験者の様子を見て決めていた。

 そのため、受験者は特定の種目を狙うことができず、全般的にトレーニングしてこなければならない。


 この体力試験は最初の脱落者が最下位となり、脱落ごとに順位が決まっていく。

 最終的に残った者が一位だ。


 この試験の恐ろしいところは、終わりが分からないことだった。

 周りの状況が不明のため、もし一位になったとしても、やめ時が分からない。

 そして一位が決まると、すぐに次の種目の開始だ。


 無理に一位を取ろうとすると、体力や筋力の回復時間がないまま次の種目に入ることになる。

 わざと脱落すれば、その種目が終わるまで体力を回復する時間は取れるが、目隠しをしているので自分の順位は分からない。

 狙った順位で終わることも、他の受験者との駆け引きもできないのだ。

 さらに受験者のレベルが高くなると、回数はひたすら伸びるという運の要素もある。


 結局、限界までやるしかない。

 ゴールが見えない長距離走を全速力で走っているようなものだ。

 実際にその種目もある。


 これが地獄の試験と呼ばれる所以だった。


 ◇◇◇


「はあ、はあ。キツいぜ……」


 二種目が終わると、息つく間もなく次の種目が始まる。

 俺は可能な限り大きく息を吸い、身体に空気を取り込んだ。


「三種目目は腹筋だ! 膝を曲げ、腕を頭の後ろで組め! 用意! 始め!」


 腹筋は誰もが回数を伸ばそうとするはずだ。

 俺は三千回を目指すことにした。


「四種目目はスクワットだ! 立て! 用意! 始め!」


 四種目目は、筋力トレーニング系の実質的なラストとなる。

 五種目目は持久走が定番だった。

 持久走を前にスクワットは厳しいが、どの受験者もここは全力を出すだろう。

 三千回に到達したところで俺は終了した。


「はあ、はあ。くそ、やりすぎちまったか。でも、ここは外せないだろ。はあ、はあ」


 俺はひたすら深呼吸を繰り返す。


「五種目目は走るぞ! 目隠しを取るんだ!」


 試験官が声を張る。

 ここでやっと目隠しを外すことができた。

 周囲を見渡すと、何人かの受験者は立ち上がれない様子だ。


「一周ごとに最下位の者は終了だ! 周回遅れになった者もその場で終了! これが最後の種目だ! 死ぬ気で頑張れ! 行くぞ! 始め!」


 楕円形の線に沿って全員で走る。

 最下位は即脱落だから全員全速力だ。

 それに、最後の種目ということでペース配分もない。


 一周目を超えたくらいで、その場に座り込む者や、嘔吐する者が出始めた。

 二周目の時点で半数が脱落。

 三周目で、周回遅れが出る。


 この時点で俺は一位だ。

 こうなったら一位を目指す。

 普段から限界まで追い込んでいるトレーニングが役に立つ。


 二十周を超えると、残っている者は俺を含め十人。

 三十周目で二位の受験者が倒れて、俺の一位が決定。

 グラウンドで立っている受験者は俺だけだ。

 

 俺はなんとか走りきり、一位を獲得した。


「はあ、はあ。くそっ、呼吸が……。はあ、はあ」


 以前受験した時よりも、遥かにキツかった。

 冒険者のレベルは、祖国よりもエマレパ皇国の方が高い。


「これで終了だ! この試験の疲労は一週間では取れない! 無理せずゆっくり安め! 試験結果はこのあと掲示板に張り出す!」


 試験は終了した。

 あとは結果を待つだけだ。

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