表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

106/120

第106話 開拓クエスト4

 ベースキャンプから少し離れた場所へ移動した俺とラーニャ。


「ラーニャ。お前は木の上から援護してくれ。狙いやすいだろう?」


 俺はすぐ近くにある大木の太い枝を指差した。


「木の上? あんなところ登れないわよ」

「俺が運ぶ」

「あら、いいの?」


 これからやろうとしていることを理解したラーニャ。

 枝の下へ行き、俺に向かって両手を広げている。


「はい」

「はいじゃねーよ!」

「ほら、早く抱きかかえてよ」

「ちっ……作戦変更するか」

「もう、何言ってるのよ。私のどこに不満があるのよ?」


 ラーニャが俺の首に手を回してきた。


「くそ! しっかり捕まってろよ!」


 左腕でラーニャを抱きかかえ、糸巻き(ラフィール)を発射。

 頭上の太い枝の上に着地した。


糸巻き(ラフィール)は本当に便利ねえ。でも、マルディンにしか扱えないものね。本当にマルディンは凄いわね。どんな鍛え方をしてるのかしら」


 わざと話を長引かせているようだ。


「いいから早く離れろ」

「あ、バレた? 仕方ないわねえ」


 俺から離れると、弓を準備したラーニャ。


「さて、遊びはここまでよ」

「遊んでたのはお前だろ!」


 ラーニャの表情が変わった。

 俺なんかよりランクが高い凄腕の冒険者だ。

 普段は面倒だが、戦いでは頼りになる。

 普段は本当に面倒だが。


「やはりこっちに向かってるわね」


 射手のラーニャは視力が優れている。

 俺は腰のベルトから単眼鏡を取り出し、ラーニャが指差す方向を確認。

 四角竜(クワロクス)の姿が見えた。

 ラーニャの言う通り、このベースキャンプに向かって進んでいる。


「じゃあ、行ってくる。援護頼むぜ」

「無理だけはしないでね」

「ああ、もちろんだ」


 俺は糸巻き(ラフィール)を発射し、別の木の枝に(フィル)を絡ませた。


「マルディン。眉間を攻撃しなさい」

「了解」


 ラーニャに返事をしたと同時に、俺は枝から飛び降りた。

 そして、糸巻き(ラフィール)を巻き取りながら着地。


 俺は慎重に四角竜(クワロクス)へ近付く。

 後方に視線を向けるとラーニャの姿が確認できた。

 ラーニャの腕なら、この距離でも命中させるだろう。


 四角竜(クワロクス)まで約十メデルトの距離だ。

 糸巻き(ラフィール)の射程距離に入った。


「っし!」


 俺は小さな声で気合を入れ、四角竜(クワロクス)の顔面の先端にある大角に向かって糸巻き(ラフィール)を発射。

 (フィル)を巻取り頭部に着地し、すでに抜き放っていた長剣(ロングソード)を眉間に振り下ろした。


 奇襲は成功。

 鱗を切り裂き、血が飛び散る。

 俺は左腕をひねり、返すように剣を振り上げながら、もう一度眉間を切りつけた。

 同じ場所を切ったことで、さらに傷が深くなる。


「ギィヤァァオォォ!」

 

 四角竜(クワロクス)が咆哮を上げながら、前足を持ち上げ、後ろ足で立ち上がった。


「嘘だろ!」


 バランスを崩した俺は、四角竜(クワロクス)の頭部から落下。

 高さは十メデルトほどある。


「くっ!」


 俺は空中で、近くの木の枝に向かって糸巻き(ラフィール)を発射。

 (フィル)を巻き取りながら、振り子のように地面へ着地。


「危ねー! あんな動きもすんのかよ!」


 巨体の四角竜(クワロクス)が前足を下ろすと、地面が地震のように大きく揺れ、周囲の鳥たちが一斉に羽ばたいた。


「ギィヤァオォ!」


 咆哮を上げた瞬間、猛烈な勢いで突進してくる四角竜(クワロクス)

 頭を下げ、大角で俺を突き刺そうとしている。

 突撃に特化した騎兵槍(ランス)を持つ騎士のようだ。


「くそっ!」


 かわす余裕がなかったため、俺は大角に向かって長剣(ロングソード)を振り下ろした。

 火花が激しく散る。

 衝突の反動を利用しながらジャンプし、四角竜(クワロクス)の側面に回った。


 剣に刃こぼれはない。

 この剣は四角竜(クワロクス)の大角を素材としているが、様々な加工を加えている分、硬度はこちらの方が高い。

 その証拠に、四角竜(クワロクス)の大角に傷がついていた。


「ギィヤァァオォォ!」


 突然、首を大きく振りながら叫ぶ四角竜(クワロクス)

 よく見ると、俺が切りつけた眉間の傷に、矢が突き刺さっていた。


「ラーニャか!」


 動く標的に対し、狙った場所を正確に射抜いたラーニャ。

 さすがの腕前だ。


「やっぱ最高の射手だぜ!」


 俺はもう一度大角に向かって糸巻き(ラフィール)を発射。

 走りながらジャンプし、巻取りの勢いをつけ、眉間に剣を振り下ろす。

 手応えは完璧だ。

 (フィル)を巻き取り、即座に離脱。


「ここはもうお前の住処じゃない!」


 四角竜(クワロクス)の性格は獰猛で、獲物を執拗に狙う。

 だが、これほどダメージを与えれば引くだろう。


「ギィヤァァオォォ!」


 さらにラーニャが追撃し、二本目の矢が突き刺さった。


「引け! 引くんだ!」


 眉間から血が流れる。

 住処に戻れないことは理解させたはずだ。

 しかし、四角竜(クワロクス)は引くどころか、さらにベースキャンプへ近付こうとする。


「なぜだ!」


 四角竜(クワロクス)の目を見ると、何かに怯えているようだった。

 それはまるで、肉食動物から逃走している草食動物の目だ。


 その瞬間、俺は全身が凍るほどの殺気を感じた。


「グゴオォォォォ!」


 四角竜(クワロクス)の後方から、巨体のモンスターが突然姿を現す。


「な、なんだ!」


 そのモンスターは巨体にも関わらず、猛烈なスピードで四角竜(クワロクス)に飛びかかり首に噛みついた。

 四角竜(クワロクス)の首が一瞬でねじれ、骨が折れる鈍い音が鳴り響く。

 まるで大木が折れたような音だ。


「ギィヤァァオォォ!」


 四角竜(クワロクス)は断末魔の叫びを上げ、絶命した。


「う、嘘だろ!」


 四角竜(クワロクス)を咥えている四足歩行のモンスター。

 体格は四角竜(クワロクス)と同じで約十メデルト。

 頭部の白い一本角が特徴的だ。

 黄金色の体毛に、黒い縞模様が背中から体の側面にかけて、一定の間隔で並んでいる。

 美しくも禍々しい黒い模様。

 その一本一本が、死神が持つと言われている伝説の大鎌(サイス)のようだ。


「くっ。どうする……」


 目の前のモンスターと視線が合うと、俺の全身から冷たい汗が噴き出す。

 視線を外さずに、剣を構えた。


「グルウゥゥゥゥ」


 喉を鳴らしながら、モンスターは身体の向きを変えた。

 四角竜(クワロクス)を引きずりながら戻っていく。

 俺のことなんて眼中にないようだ。


 俺はその場に立ち止まったまま、モンスターの後ろ姿を視線で追う。

 モンスターは森の中に消えていった。


「助かった……のか?」


 周囲の警戒は解かずに、剣を鞘に納める。


「マルディン!」


 ラーニャが叫びながら駆け寄ってきた。

 あの枝から飛び降りたのだろう。

 膝が汚れている。


「マルディン! 大丈夫!」

「ああ、大丈夫だ」


 ラーニャの息は荒く、乱れた呼吸のまま俺の正面に立つ。

 そして、俺の両肩に手を置くラーニャ。

 怪我がないか確かめているようだ。


「怪我は? 本当に大丈夫なの!」


 珍しく声を荒げている。

 ラーニャの焦りは異常だ。


「ああ、どこにも怪我はない」


 安堵の表情を浮かべたラーニャが、大きく息を吐いた。


「よく無事で……。無事で本当に……本当に良かったわ」


 瞳に涙を浮かべているラーニャ。


「あれはなんだ?」

「……一角虎(ガーラ)よ」

一角虎(ガーラ)って……まさか!」


 突然名前を出されて戸惑ったが、昇格試験対策でモンスターの勉強をしている俺は、その名は知っている。


「ええ。密林の王と呼ばれる最強クラスのAランクモンスターよ」

「通りで……。あの殺気は尋常じゃなかったぞ」

「まさかカーエンの森に、一角虎(ガーラ)が生息しているなんて……」

「これまではいなかったのか?」

「ええ、そうよ」

「なぜ住み着いたんだ?」

「分からないわ。だけど、近年は世界中でモンスターの行動が活発化していると言われているから、その影響があるかもしれないわね」

「ベースキャンプはどうする?」

「そうね……。まずは帰ってアリーシャちゃんとラミトワちゃんに報告して、皆の意見を聞くわ」

「分かった」


 俺たちは周囲の警戒は解かずに、ベースキャンプへ戻った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ