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【書籍化決定】追放騎士は冒険者に転職する 〜元騎士隊長のおっさん、実力隠して異国の田舎で自由気ままなスローライフを送りたい〜  作者: 犬斗
第四章 迷いと疑惑の秋

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第105話 開拓クエスト3

 アリーシャと船内を移動し、二階居住区の各部屋や一階倉庫を見て回る。

 狭いながらもキッチンや仮眠室などがあり、快適に過ごせそうだ。


「そろそろ到着するよ! 着陸するから準備して!」


 船内探検から食堂に戻って来ると、伝声管からラミトワの声が聞こえた。

 早くも目的地に到着するという。

 窓の外を眺めると、太陽はまだ東の空にある。


 俺とアリーシャはテーブルにつく。


「もしこれが荷車だったら、どれくらい時間がかかったんだ?」

「最初の目的地はギルドから最も近い平野部ですが、ラミトワの操縦をもってしても丸一日はかかったでしょうね」

「それが朝出発して、太陽が昇りきる前に到着するのか。凄いな」

「ええ。移動時間の短縮と、さらに移動の安全も格段に上がりましたからね。クエストの効率が上がります」

「そうだな。特にカーエンの森の移動は危険だからな」


 カーエンの森には、様々なモンスターが生息している。

 クエスト本来の狩猟とは別のモンスターに襲われることも珍しくない。


 徐々に下降する飛空船。

 森の中に円形状の開けた場所がある。

 大型モンスターが住んでいた跡地だろう。


「あれは四角竜(クワロクス)の住処だった場所ですよ」

四角竜(クワロクス)か……」


 以前討伐したBランクモンスターの四角竜(クワロクス)

 体長は十メデルトにもなる大型モンスターだ。

 俺は四角竜(クワロクス)との戦いで鎖骨を折る大怪我をした。

 正直、対人戦闘なら自信はあるが、モンスター相手ではまだまだ経験が浅い。


「もっと経験を積まないとな」


 俺は四角竜(クワロクス)の住処を眺めながら呟いた。


「着陸の衝撃があるかもしれないよ。注意して」


 ラミトワから注意があったものの、飛空船は特に衝撃もなく着陸。

 ラミトワの操縦技術はかなりのものだ。


「錨をおろして船体を固定したよ。もう降りて大丈夫」


 俺とアリーシャは一階の倉庫へ移動。

 倉庫の最後尾には大きなハッチがあり、そこから人の出入りや荷物の積み下ろしを行う。

 扉はスロープになり、巨大なモンスターでも容易に積み込むことができる仕様だ。


「よし。じゃあ、資材を下ろそう」

「はい」


 飛空船に設置されているクレーンという滑車を利用した装置を使用し、ベースキャンプ用の資材を下ろしていく。

 このクレーンは開発機関(シグ・ナイン)が開発したそうだ。


 この場所は、巨体を誇る四角竜(クワロクス)の巣だったことで、地面はしっかりと固められている。

 アリーシャが教えてくれたが、四角竜(クワロクス)は比較的柔らかい地面を好むため、一つの場所に長く住むことはないそうだ。

 そのため、一度放棄した巣には戻らない。


「なあ、ラミトワ。もし飛空船で整地されてない場所へ行く時はどうすんだ?」

「飛空船は空中停泊もできるよ。資材の積み下ろしや人の乗り降りがなければ、空中停泊の方が安全だしね」

「マジかよ」

「うん。全ての飛空船に備わってる機能じゃないけど、ギルドの飛空船は空中停泊が可能だよ。もちろん天候次第だけどね」

「飛空船ってすげーんだな」

「そうだよ。だから信じられないほど価格が高いんだよ。でもいつか買うんだ」


 飛空船を見上げるラミトワの表情は明るい。

 そしてその表情から、強い意志を感じた。

 

 俺たちは作業を開始。

 滑車を使いながら柵を打ちつけ、組み立て式の簡易小屋を建てる。


 秋とはいえ汗が吹き出す。

 水分補給をしながら作業を進めた。


「いててて。腰にくるな。ラミトワ。またマッサージしてくれよ」

「ラミトワ。私もお願いしていいですか?」

「ラミトワちゃん、私もお願いねえ」

「ふざけんな! って、あれはマッサージじゃねー!」


 いつものようにラミトワが声を荒げていた。


 朝から始めた作業が終了。

 空は赤く染まり、夕焼けを迎えていた。


「予定よりも早かったわね」


 タオルで汗を拭いながら、ラーニャが話しかけてきた。


「そうだな。当初の予定は二日間だったんだろ?」

「ええそうよ。だけど、開発機関(シグ・ナイン)の皆が資材の準備をしてくれたおかげで、組み立てるだけだったからね。それとラルシュ工業製の組み立て小屋も簡単だったもの」


 飛空船の製造会社であるラルシュ工業は、元々家具屋だったという。

 組み立て式の小屋や、組み立て風呂はラルシュ工業が発明したものだ。


 その日の夜は完成を祝って夕飯を作り、ベースキャンプでそのまま宿泊。

 もちろん、ラーニャに酒は飲ませなかった。


 ――


 翌日から八日間で、五か所のベースキャンプを設営した。

 予定よりも二日早い。

 そして最後の場所となる、カーエンの森の山間部へ移動。


 ここまで来ると手慣れたものだ。

 ラミトワが着陸させた場所に資材を下ろし、全員でベースキャンプを設営していく。

 とはいえ疲労もあり、一日では完成しなかった。


 この日は飛空船の仮眠室で就寝。

 飛空船には二段式のベッドが四部屋あるため、それぞれ一部屋ずつ使用した。


 翌日、朝から作業開始。


「さすがに腰がいてーな」


 腰を伸ばしながら、空を見上げる。

 雲一つない秋晴れの美しい空だ。


「さ、もう少しだ」


 両手で木槌を振り上げた瞬間、ベースキャンプの外で生物の気配を感じた。


「ん? これは……モンスターの気配か? それにしては、気配を隠す様子がないが……」


 徐々に近づくこの気配に記憶がある。


「マルディン」


 アリーシャが声をかけてきた。


「この気配は四角竜(クワロクス)か?」

「そうだと思います」

「ベースキャンプを狙ってるのか?」

「以前ここを住処にしていた四角竜(クワロクス)なのかもしれません……」


 アリーシャが考え込んでいる。

 四角竜(クワロクス)は縄張り意識が異常に強く、踏み込んだものは執拗に追いかけ回し、徹底的に排除するほど気性が荒い。


「でも、この土地は放棄したんだろう?」

「ええ、そうです。事前調査でこの土地は放棄済みと確認してます。四角竜(クワロクス)は放棄した土地に戻ることはないのですが……」


 ラーニャとラミトワも、こちらに駆け寄ってきた。


「マルディン。四角竜(クワロクス)よ」

「ラーニャもそう思うか?」

「ええ。間違いないわね。私が弓で出るわ。マルディンは牽制してもらっていいかしら?」

「おいおい、逆だろう。俺が出る。ラーニャが弓で援護してくれ」

「ちょっと、いくらあなたでも危険よ? 以前だって大怪我したんだから」

「大丈夫だ。一回戦えば理解する。それに武器だって新しいんだ。何よりラーニャの援護があれば問題ないだろう?」

「もう。冗談言ってる場合じゃないわよ」

「冗談なんかじゃないさ。騎士だった俺がこれまで見た中で、お前が最も優れてる射手だ。信頼してるぞ」

「え?」


 ラーニャの動きが止まり、俺の顔を見つめていた。

 ほのかに頬が赤いが、これまでの作業で汗をかいているのだろう。

 何か言われるのも面倒だから、俺は飛空船に戻り、自分のリュックから装備を取り出す。

 剣をベルトで吊るし、右手に糸巻き(ラフィール)を装着。

 そして水筒の水を飲み、大きく深呼吸した。


「ラーニャ! 準備はいいか!」

「ええ。大丈夫よ」


 ラーニャが矢筒を背負い、弓を持ち出した。


「アリーシャちゃんとラミトワちゃん。万が一のために飛空船に避難していてね。場合によっては空へ逃げるのよ」

「分かりました」


 二人に指示を出すラーニャ。

 そして俺とラーニャは、ベースキャンプを後にした。

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