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【書籍化決定】追放騎士は冒険者に転職する 〜元騎士隊長のおっさん、実力隠して異国の田舎で自由気ままなスローライフを送りたい〜  作者: 犬斗
第四章 迷いと疑惑の秋

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第103話 開拓クエスト1

 ギルドの扉を開けロビーへ進むと、知った顔が俺を待ち構えていた。


「おはよう! マルディン君!」

「お、ラミトワか。おはよう」

「待ってたぞ! マルディン君!」


 両手を腰に当て、大股を開き、背筋を伸ばして立っているラミトワ。

 また面倒なことを言い出しそうな雰囲気だ。


「マルディン君。君は我がチームに入れてやろう!」

「チーム? なんだそれ?」

「君を助手として使ってやろう!」


 威張り散らすラミトワを眺めていると、肩を軽く二回叩かれた。


「マルディン。おはようございます」

「アリーシャか。おはよう。なあ、あの子どうしちゃったんだ? いつも変だけど、今日は特にヤベーだろ。頭でも打ったか?」


 ラミトワが怒りの形相で俺に迫る。


「ふ、ふざけんな! おっさん! ぶっ飛ばすぞ!」

「やっぱり、頭打ったか。なあ、レイリアの診療所へ行こうぜ。一緒に行ってやるからさ。大丈夫だ。レイリアは名医だからな」

「てめー!」


 隣で笑っているアリーシャ。


「フフフ。相変わらず仲が良いですね」

「そう見えるか? お前も頭ぶつけたか?」

「もう、ラミトワと一緒にしないでくださいよ」


 今度はアリーシャを睨むラミトワ。


「おい! アリーシャ!」

「フフフ。本当にあなたは可愛いですね」


 アリーシャがラミトワの頭に両手を乗せ、髪を洗うかのように動かす。

 その姿は愛犬を愛でているようだ。


「やめろー!」


 ラミトワの髪が鳥の巣のように広がっていた。


「朝から皆元気ねえ。うふふ」


 声の方向に視線を向けると、笑いながら階段を下りてくる女が見えた。

 ラーニャだ。


「皆揃ったわね」

「揃う? どういうことだ?」

「今から説明するわよ」


 カウンターに視線を向けるラーニャ。


「フェルリートちゃん。珈琲を四つお願いね」

「はーい」


 俺たち四人は食堂のテーブルへ移動した。

 全員席につき、フェルリートが淹れた珈琲を口にする。


「じゃあ、説明するわね」


 ラーニャが地図を取り出した。


「うちが支部になったことで、外部からのクエスト依頼とは別に、総本部からもクエスト依頼が来るようになるわ。素材の採取や、研究目的によるモンスターの捕獲などよ。この地方には、世界有数の汽水域森林であるカーエンの森があるから、素材の宝庫なのよ。それと海に関するクエストも増えるわよ」


 広大なカーエンの森は、大きく三つの地域に分けられている。

 山間部、平野部、汽水域だ。

 それぞれが圧倒的な広さを誇る。

 なお、俺は泳げないから海のクエストは受けることができない。


「今回はカーエンの森でのクエスト用に、ベースキャンプを増設するの。そのために、いくつものチームを作ったわ。私たちは唯一のBランクチームだから、森の最深部へ行くわよ」


 俺はCランクだが、ラーニャの支部長権限でBランクのクエストへ行くことが可能だ。


「マルディンの実力はもう皆知ってるし、私は支部長だもの。Bランククエストを許可するわ」

「ああ、分かってる。とはいえ、来月に試験を受ける予定だよ」

「期待してるわね」


 ラーニャが珈琲を口にして、地図を指差す。


「最深部と言っても、カーエンの森は広大よ。私たちは山間部、平野部、汽水域の奥地にそれぞれ二か所ずつ、合計六か所のベースキャンプを作るわ」

「そんなに?」

「今回はギルド総出で、数十か所にキャンプを作るの。私たちが最も危険な場所へ行くわ」


 俺はラミトワへ視線を向けた。


「なあ、ラミトワ。こんな深い場所へ行くのに、大型荷車で行けるのか?」

「途中までは解体師が作った道があるんだよ。それに森の奥へ行くと、大型モンスターたちが通る獣道がいくつもあって、荷車も通れるんだ」

「なるほど。大型モンスターの体格なんて、大型荷車より大きいもんな」

「そうだよ。あと、ベースキャンプになる予定地は、大型モンスターや超大型モンスターが生息していた跡地だから、開けた場所になってるんだよ」

「じゃあ、その場所まで荷車で移動して、六か所にベースキャンプを設置すればいいのか」

「そうだね。移動に時間はかかるけどね」


 俺たちの会話を聞いていたラーニャが、珈琲カップをテーブルに置いた。


「それがねえ……。ラミトワちゃん」


 ラミトワに視線を向けるラーニャ。


「このティルコア支部に、飛空船を配備してもらえることになったのよ」

「な! なんだってええええええええ!」


 ラミトワが絶叫し、椅子に座ったまま後方へ倒れた。


「ぎゃん!」


 床に後頭部を打ちつけたラミトワ。


「お、おい、大丈夫か?」

「あわわわわ」


 痛みなのか驚きなのか分からないが、目を回しているラミトワ。


「今朝も頭をぶつけてただろう? 死んじゃうんじゃねーか」

「死なねーよ! ってか、朝はぶつけてねーよ!」


 ラミトワが飛び起きた。


「ラーニャさん! それほんと!」

「ええ、本当よ。支部に昇格したことで、クエスト用に一隻配備してくださったのよ」

「す、す、す、すげーーーー!」


 両手の拳を握り、大興奮するラミトワ。

 無理もない。

 運び屋にとって飛空船は憧れだ。

 それにラミトワの夢は、自分の飛空船を持って世界中でクエストすることだった。


「ラミトワちゃんは飛空船の操縦免許証を持ってるわよね?」

「うん。一年前に取ったもんね。規定の飛行回数もクリアしてるから、すぐにクエストで操縦できるよ」

「じゃあ、今回は操縦してね」

「やった! やった!」


 切れのある動きで踊るラミトワ。

 だが相変わらず変な踊りだ。


 ラーニャが全員を見渡し、テーブルに書類を一枚置いた。


「これがクエスト依頼書よ」


 ◇◇◇


 クエスト依頼書


 難度 Bランク

 種類 開拓

 対象 なし

 内容 カーエンの森のベースキャンプ設置

 報酬 金貨二十枚


 編成 【指名】【特別許可】ラーニャ、マルディン、アリーシャ、ラミトワ

 特記 設置におけるモンスター狩猟は可 詳細は契約書記載 冒険者税徴収済み


 ◇◇◇


「パーティーは私、マルディン、アリーシャちゃん、ラミトワちゃんの四人。今回の報酬は四人で均等に分けるから、一人金貨五枚ね。それともしモンスターに遭遇しても、Bランク以下なら狩猟は可能よ。素材の売却代金も皆で均等に分配するわ」


 モンスターの素材代に関しては、パーティーで分配方法が違う。

 最も危険な冒険者の取り分が多いパーティーもあれば、均等に分配するパーティーもある。


「ふむ。いいんじゃないか」


 俺は珈琲を口にした。

 条件に関しては全く問題ない。

 だが、気になるのは期間だ。

 

「いくら飛空船で移動するとはいえ、六か所の開拓だろ? 期間はどれくらいかかるんだ?」

「一か所に二日。予備で二日。二週間を予定しているわ。早く終われば、その分早く帰れるわよ」

「分かった」

「飛空船は明日納入されるわ。ラミトワちゃんの慣熟飛行もあるから、出発は一週間後にしましょう」


 ラミトワに目を向けると、両手を握りしめ、天井に向かってずっと叫んでいる。


「やべー! やべーよ!」


 喜びすぎて瞳孔も開いているようだ。

 大丈夫だろうか。


「良かったな。ラミトワ」


 俺が声をかけると、ラミトワは気持ちを落ち着かせるように大きく息を吸った。

 そして俺を指差す。


「マルディン君。これから私のことを船長と呼ぶがいい。あっはっは」


 俺の笑い方を真似するラミトワ。


「船長? 見張り番の間違いじゃねーか?」

「ふざけんな!」


 ラミトワが叫びながら、俺の肩を何度も叩く。

 しかし、気持ち良いマッサージにしかならない。


「あー、効くねえ。お、そこ気持ちいいぞ」

「いいですね。ラミトワ、私にもやってください」

「あら、じゃあ私もお願いね。ラミトワちゃん」

「ざけんな!」


 その後も大騒ぎしながら、打ち合わせを行なった。

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