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【書籍化決定】追放騎士は冒険者に転職する 〜元騎士隊長のおっさん、実力隠して異国の田舎で自由気ままなスローライフを送りたい〜  作者: 犬斗
第四章 迷いと疑惑の秋

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第102話 新体制のスタート

「夏に比べてだいぶ涼しくなったなあ」


 秋晴れの気持ち良い朝、海風に揺れる草木を眺めながらギルドへ向かう。


「今日から新体制か」


 冒険者ギルドのティルコア出張所が、正式に支部へ昇格。

 それに伴い、ティルコア支部の新しい体制が整った。

 支部長はラーニャ、副支部長はパルマだ。


 そして、九つのギルド主要機関のうち、調査機関(シグ・ファイブ)研究機関(シグ・セブン)開発機関(シグ・ナイン)が設立された。

 この三機関は、ギルドと少し離れた繁華街の建物を借りている。

 いずれは新しいギルドを建設し、同じ敷地内に全機関を設立するそうだ。


 俺はリュックから一枚の紙を取り出した。


「これが全機関か。やっぱり凄い組織だよな。国家並みだろ」


 先日ラーニャが、全機関の簡単な説明を紙に書いてくれた。


 ◇◇◇


 <法務機関(シグ・ワン)

 ギルド規定を制定し、国家や外部組織との交渉を担当する。

 通称『ギルドの心臓』。


 <財務機関(シグ・ツー)

 予算全体を管理し、国からの助成金、貴族や商人からの寄付金、納税を処理する。

 通称『ギルドの金庫番』。


 <治安機関(シグ・スリー)

 規定違反者の制裁や逮捕、治安維持を担う。

 通称『ギルドの剣』。


 <人事機関(シグ・フォー)

 冒険者、解体師、運び屋、及び職員を管理し、下部組織を取りまとめる。

 通称『ギルドの中枢』。


 <調査機関(シグ・ファイブ)

 クエスト内容の調査、および組織内外の諜報活動を行う。

 圧倒的な調査力は、朝食のパンの枚数まで調べると恐れられている。

 通称『ギルドの目』。


 <医療機関(シグ・シックス)

 冒険者を診療し、最先端医療を研究する。

 通称『ギルドの良心』。


 <研究機関(シグ・セブン)

 モンスター事典の発行元で、モンスターの生態を研究する。

 家畜や農作物の研究も行っており、食材への探究心が特に強い集団。

 通称『ギルドの探求者』。


 <格付機関(シグ・エイト)

 クエストの条件や報酬を決定する。

 通称『ギルドの頭脳』。


 <開発機関(シグ・ナイン)

 冒険者用の装備や道具を開発、及び販売する。

 いくつもの国際特許を抱えており、莫大な収入があるため、ギルドから一切の予算を受け取っていない。

 通称『ギルドの暴れ馬』。


 ◇◇◇


「これ以外にも下部組織があるってんだから、世界最大組織ってのも納得できるな」


 先日、各機関の職員たちと懇親会が行われ、責任者とも挨拶を交わした。


 調査機関(シグ・ファイブ)の支部長はティアーヌ。

 すでに一緒に仕事をしており、凄腕の諜報員ということが分かった。

 極秘でギルドハンターのサポートも兼任してくれている。


 研究機関(シグ・セブン)の支部長はトレファス。

 四十歳の男性で、身長は少し低く、体重は俺よりもありそうな体格だ。

 小太りと言っていいだろう。

 人の良さそうな優しい顔つきで、黒縁のメガネをかけており、常に白衣を羽織っている研究者。


 開発機関(シグ・ナイン)の支部長はパルマが兼任する。

 それというのも、驚愕の人事があった。

 思い出しても腹が立つが……。


 先日の出来事だ。


 ◇◇◇


 ギルドへ顔を出すと、ロビーに背の低い少女が立っていた。

 薄い緑色のショートヘアで少し癖がかかっている。

 瞳の色は驚くほど美しい金糸雀色(かなりあいろ)で、それを隠すかのような大きな丸い眼鏡が特徴的だ。


「マルディンさん! こんにちは!」

「お、リーシュじゃないか。久しぶりだな」


 隣街イレヴスの開発機関(シグ・ナイン)の職員リーシュだ。

 年齢は十八歳と若いが、俺の糸巻き(ラフィール)を開発した発明家でもある。


「って、ティルコアのギルドに何の用だ?」

「はい! ティルコアに引っ越してきました!」

「引っ越し? なんでだ? 魚が好きになったのか?」

「私は肉派です!」


 リーシュは肉好きで、妙なこだわりを持つ。

 一緒に飯へ行くと、肉の焼き加減でいつも怒られるほどだ。

 そして、解体師で肉屋のアリーシャを師匠と慕っている。


「それはねえ」

「うわっ!」


 突然背後から俺の耳元で囁く声が聞こえた。

 俺に気配を悟らせないなんて、相当な達人だ。

 だが俺は、この独特な話し方をする人物を知っている。


「なんだよ。ラーニャかよ」

「うふふ。リーシュちゃんはねえ。異動になったのよ」

「異動? まさか?」

「そう、そのまさかよ」

「そうか。開発機関(シグ・ナイン)のティルコア支部に異動したのか」


 妖艶な笑みを浮かべながら、僅かに身体をくねらせるラーニャ。

 こういう時のラーニャは、いつもめんどくさい。


「しかも彼女はねえ、副支部長なのよ?」

「は? 副支部長? おいおい、リーシュは十八歳だぞ?」

「そうねえ、異例の大出世よね。でもね、それだけの実績を残したのよ」

「実績って?」

「あなたの糸巻き(ラフィール)の特許に加え、別の発明でも三つの特許を取ったのよ。凄いわよねえ」

「マジか。天才すぎるだろ」

「そうなのよ。総本部から直々に辞令が来たわ。ね、リーシュちゃん」


 リーシュが右手をまっすぐ挙げた。


「はい! 叔母さんから連絡をもらいました!」

「叔母さんって、開発機関(シグ・ナイン)局長だろ?」

「そうです!」

「まあギルドに限って公私混同はないからな。正当な評価だろう。良かったなリーシュ。おめでとう」

「はい! ありがとうございます!」


 俺はリーシュの頭を軽く撫でた。

 なぜかラーニャも俺に頭を向けてるが、当然無視だ。


「ケチねえ」

「うるさいっての。で、開発機関(シグ・ナイン)の支部長は誰なんだ?」

「パルマが兼任するわ」

「なるほどね。あいつも大変だな」

「いいのよ。パルマは将来的に、ティルコアの支部長になるんだから。頑張ってもらわないと」

「ん? じゃあお前はどうするんだよ」

「私はねえ、結婚して引退したいのよ」

「相手がいないからなあ。無理だな。あっはっは」

「ひ、酷い。うう。酷いわあ」


 突然肩を落とし、目を細め、顔を背けるようにうつむくラーニャ。

 身長の低いリーシュが、ラーニャの顔を下から覗き込んだ。


「あ! ラーニャさんが泣いてる!」

「え? な、なんでだよ!」

「ラーニャさん、これ使ってください」


 リーシュがラーニャにハンカチを手渡す。


「うう。ありがと……」


 涙を何度も拭うラーニャ。


「マルディンに傷つけられた……」

「お、おい」

「酷い。酷いわ」

「ご、ごめん。言い過ぎたよ」

「責任取って」

「せ、責任ってなんだよ」

「私と結婚するの」


 ラーニャが顔を上げ、笑みを浮かべた。


「ふざけんな! 嘘泣きじゃねーか! これだからお前は信用ならん」

「あらあら、酷いわねえ」


 ラーニャとリーシュが笑いながら握手している。

 面倒なコンビが誕生したもんだ。


「さて。マルディンをからかうのは、ここまでにして……」

「ちっ」

「私って冒険者に復帰したじゃない?」

「ああ、このギルドで現在唯一のBランク冒険者だ」

「たまにクエストへ行くのだけど、ちょっと楽しくなってきちゃってねえ。頑張ってAランクを目指してみようかなあ、なんてね」

「マジかよ! Aランクなんて化け物揃いだろ?」

「挑戦してみたいのよ」

「そうか。お前、凄いな」

「笑わないの?」

「それがお前の夢ならな。俺は心から応援するよ」

「あら。じゃあ、マルディンと結婚が夢って言ったら?」

「ふざけんな!」


 悪戯な笑みを浮かべているラーニャ。

 ここぞとばかりに、俺をからかって遊んでいるようだ。


「真面目に答えて損したぜ」

「うふふ。ねえ、マルディン。私と一緒にAランクを目指しましょうよ」

「まずはBランクを取る。それからだな」

「Aランクなんて、隣街のイレヴス支部にもいないもの。自慢しちゃおうっと」


 相変わらず人の話を聞かないラーニャだった。


 ◇◇◇


「ラーニャがAランクか。チャレンジする姿勢に関してだけは尊敬できるよな。うんうん」


 俺もBランク試験を受けるから、ラーニャの姿勢は刺激になる。

 今は試験勉強もしているし、日々のトレーニングも怠らない。


「楽勝とはいえないけど、Bランクなら受かると思うんだよ。だけど、Aランクはマジで運だ。前回はたまたま上手く行っただけだしな。それに共通試験に受かっても、討伐試験がある。まあ、頑張るだけだ」


 呟きながら歩いていると、ギルドの前に到着していた。

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