第1話 追放の騎士
新連載です。
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「月影の騎士隊長マルディン・ルトレーゼ! 国家反逆罪として騎士称号を剥奪! 国外追放とする!」
罵声を浴びせるかのごとく、大声で令状を読み上げる従者。
俺は謁見の間で無言のまま跪く。
「領地財産は没収! 十日以内に国外退去せよ!」
「マルディンとやら、言い残すことないのか! 今なら聞いてやるぞ! くく、くくく」
従者に続いて、新領主が声を上げた。
勝ち誇ったような高圧な態度。
そして、高揚感を抑えきれず嘲笑が漏れている。
「声に出して笑ってるし。このバカが」
俺は誰にも聞こえない声で呟く。
「何か言ったか?」
「いえ」
「貴様は名の通った騎士隊長と聞いておる。泣いて許しを乞えば、下級兵士として使ってやらぬこともないぞ。くくく」
どうせそんな気はない。
ここで俺が許しを乞えば、笑い飛ばしてバカにするだろう。
「偉大なる新領主様に、私の汚い泣き顔を見せるなど無礼の極み。これ以上話すことはございませぬ。これにて失礼」
「き、貴様!」
新領主の顔を一切見ずに、俺は早足で城を出た。
「貴様に仕えるくらいなら死を選ぶわ。バカが」
俺は城外で吐き捨てた。
――
大陸の最北西にあるジェネス王国。
数年前に継承問題から内乱が勃発。
当初は反乱を抑えていた国王軍だったが、国王が暗殺され暗王子と呼ばれていた王弟が即位。
俺は王国騎士団月影の騎士に所属しており、前国王よりこの地方の騎士団隊長を拝命した。
だが王弟による新王政樹立。
この地は特に前王政と繋がりがあったということで、前領主は処刑。
月影の騎士は国王派と王弟派に分裂しており、国王派の首脳陣は死罪や更迭。
俺のような中央の命令を聞いていただけの地方隊長まで処罰がくだされた。
「権力に翻弄されるなんてバカげてる。これからは自分のために生きていく」
誰かに従って、自分の命や人生を無駄にする必要なんてない。
それに出世ももう面倒だ。
騎士隊長なんて偉そうだが、管理職としてストレスが溜まることもある。
俺は自由気ままに生きると決めた。
「隊長! 待ってください!」
「お前らか。今までありがとうな」
隊員たちが城門まで見送りに来てくれた。
いや、引き止めに来たのだろう。
「あなたほどの実力者はおりませぬ! どうか再考を! 騎士団の、いや国家の大きな損失です!」
「そう言ってくれるのは嬉しいが、国外追放は国の命令だからな。命令に逆らうことはできんよ」
「そ、そんな……」
「いいか、お前ら。これから大変だと思うが、仕事はほどほどにな。無理すんなよ」
隊員たちが惜別の声をかけてくれる中、一人の男が高らかに笑っていた。
「くっくっく、早く去らねば殺すぞ」
新たにこの地方の騎士隊長となった男だ。
王都から派遣されたばかりで、絵に書いたような権力バカ。
「見送りに来てくれたのか?」
「あ? バカが! 哀れな貴様の姿を見に来たのだ!」
「あっそ。趣味悪いな、お前。そんなんじゃ下はついてこないぞ?」
「な! 愚弄するか! 決闘だ!」
「俺もう騎士じゃねーし」
「殺す!」
鼻息荒い男に向かい、俺は右手首を動かした。
すると、思惑通り男がその場で尻餅をつく。
「な、何だ?」
「あっはっは、これじゃあ戦いにもならんな」
俺は右手に持つ糸をそっと巻取った。
「じゃあな。お前ら元気でな! 仕事はほどほどに! 趣味は作れよ! 人生楽しめ! あっはっは」
「隊長! 待ってください!」
呼び止められて悪い気はしないが、俺にはもうこの国に居場所がない。
十日以内に出国しないと逮捕されるそうだ。
元部下たちの無事と活躍を祈り、俺は街道を歩き始めた。
「さて、仕事探さねーとな。この歳で転職か」