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If-13.KUDAN-system

「私、正直安心してるんです」


「ん?」


隣りを歩いていた氷室アカネがそう呟く。


「ユウジがどこの馬の骨かもわからない女とくっつかずに済んで」


遠野カエデを駆除してから一週間が経過した。あの後加藤ユウジは行方がわからなくなり、現在は捜索中とのことだ。ギアは放棄されておりこちらはすぐさま発見された。ギアの反応を探知することもできなければ衛星カメラにも引っ掛からない。捜索は難航しているようだ。


「!?アカネちゃんユウくんの事好きだったの!?」


「スゥゥゥゥゥォォォおうですね、はい」


アカネは顔を赤くし小声でどもる。


「なにこの生き物可愛んだけど好き」


私はアカネに抱きつき頬同士を擦り合わせる。


「なあ~もうくっ付いて来ないでください鬱陶しい」


「あぁん❤」


アカネによって私は引き剥がされる。その後なぜか黙りこくってしまうアカネ。


「どしたん?」


「...ユウジは、ちゃんと帰ってくるんでしょうか?」


それはわからない。もしかしたら一生怪異対策機動本部(ここ)には帰ってこないかもしれない。


それでも。


「加藤ユウジは私とナオくんが絶対連れ戻す。だから安心して待ってて」


私はアカネの頭を撫でる。


「なあああもうやめてください」


アカネは私の手を振り払おうとする。私も負けじと執拗に頭を撫でる。


()いやつめ」


そうだ。加藤ユウジは必ず連れ戻す。怪異対策機動本部(わたしたちのいばしょ)に。









薄暗く赤みがかかった電球によって照らされた通路。壁は鉄筋コンクリートで作られており、床は金網でできている。金網の上を俺たちは歩いている。


「もうちょっと歩いたとこで着くでー」


隣で歩いている樋口コウスケとかいう男が口にした。


「ほんとにあいつらを皆殺せる代物なんだろうな?」


「ああもちろんやとも!と言うても、変身者次第なんやけどね」


出会って二日だがコイツの関西弁は癪に障る。俺が関西弁を嫌いなだけかもしれないが。


「この度はご愁傷さまや。わてもカエデさんと仲良くしたかったんやけどなぁ...」


「嘘こいてんじゃねえよ。コトリバコの怪人が目当てだったくせによぉ」


「あらら、バレてもーた?」


バレてもーた?じゃねえんだよ。ニヤつきやがってよぉ。


「でもまあ、そのコトリバコの怪人の手を食べたお前さんはカエデちゃんと同じくらい価値が上がったけどな」


そう、俺はあいつの腕を食べた。呪物や聖遺物を体内に取り込むことで融合体となりそれらの特性を持つことが出来る。俺はコトリバコ怪人態となって全人類を虐殺することを目論んだが結果は失敗。呪いに身体を侵されながら死を待つのみだった。そんな俺に対し提案を持ち掛けてきたのがこの男だ。


「わての最高傑作、アルティメットネオはガヴェイルドライバーと同じ呪いで変身できるようになっとるんやけど、呪いを持たない人間は変身ができへん。そういった意味ではあの残骸を食べて正解やったと思うよ」


そう言ってドーデスは扉の前で立ち止まる。


「着いたで。ここがわての発明品の保管庫や」


樋口コウスケは扉を開け中に入る。俺も続いていく。


「ほんとはカエデちゃんにアルティメットネオに変身してもらうつもりやったけどカエデちゃん嫌がるかとおもてな」


「どういうことだ?」


「少し特殊でな」


樋口コウスケは立ち止まる。目の前には異様な光景が広がっていた。暗い部屋の中たくさんの赤いレーザーが張り巡らされており、中央の台にはガラスケースがありその中に一つのガヴェイルに変身できるベルトが鎮座していた。その光景は怪盗に盗まれる宝石を想起させる。樋口コウスケは手元にあるパネルに暗証番号を入力する。張り巡らされていたレーザーは瞬時に消え中央のガラスケースから鍵の解錠される音がした。樋口コウスケはガラスケースを外し中からそのベルトを取り出した。


「これがわての最高傑作、アルティメットネオドライバーや」


白を基調としたベルトで横にはキーらしきものが差し込まれている。


「性能はどうなんだ?」


「よくぞ聞いてれた!このアルティメットネオは従来のガヴェイルドライバーと同じように呪いで変身できるようになっとるんやけど一番注目すべき点は未来予知が使えるとこなんや。妖怪の「(くだん)」の未来予知能力をシステム化して人間にも扱えるように調整してな。そこで一つの問題が浮上してきたわけよ。それは変身者が未来予知した瞬間にすぐ死んでまうことなんよ。どうやら「(くだん)の未来予知したあとに死ぬ」という特性のせいっていうことがわかってな。そこでわては考えてある結論に至ったわけでや。「他人に死を肩代わりさせればいい」ってな。そしてわては他人と縁を結ぶことが出来る「カートリッジシステム」を開発。これで変身者はデメリットなしに未来予知が使えるわけや。ちなみにカートリッジシステムは誘拐(さら)ってきたトー横のガキや戦災孤児に繋がっとるから安心して未来予知してくれてえ~で~。外見(ガワ)のいい奴はドバイの富豪さんに売ってヤギのお世話でもさせといて。それ以外のやつはカートリッジシステムに繋ぐ。んで死体は臓器売買とかして余った部分はコトリバコの中に突っ込む。近年のSDGsに配慮出来ててえらいなーと思うわけ?これはノーベル平和賞取れるんちゃう?」


樋口コウスケは早口で捲し立てる。なんだコイツ、気色悪い。


「早口でしゃべんなよ、オタクみてえで気色悪いんだよ」


どうやら口に出ていたようだ。


「おや、不満やった?」


「不満に決まってるだろ。俺は性能を聞いたんだよ。てめえの自慰行為(じぶんがたり)なんざ聞いてねえんだよ」


「性能...まあ全体的な機動力や攻撃力はリープロギアを上回ってる。ムラクモとジョワユーズを同時に相手取っても負けることは無いやろうな。加えて実質ノーデメリットでの未来予知、負けるほうが難しい。問題は...」


樋口コウスケは言い淀む。そう、怪異対策機動本部で一番の脅威となるのは


「西園寺リョウか?」


「そうや、未来視(ヴィジョン)よりも早く攻撃されたら終わりや。そうでなくても回避不能の攻撃を仕掛けてくるかもしれへん」


やはり西園寺リョウが最大の壁になるか。さすが地球最強の生物。俺は樋口コウスケに尋ねた。


「何かいい機能はないのか?」


「一つだけある。あとで教えるたるわ」


「わかった」


「それよりもええの?」


突拍子な質問に理解できず俺は返した


「何がだ?」


「罪のない子供を犠牲に出来るんか?っちゅーことですよ。まあわてが言うなって話やけども」


確かに、以前の俺であれば無理だったであろう。だが、カエデの為に世界を敵に回して、その守るべきカエデもいなくなって...もうどうしたらいいかわからない。


───人として、何人(なんびと)たりとも悲しませずに生きる。

───人として、清らかに正しさに従って生きる。

───人として、レールからはみ出さずに真っ直ぐに生きる。


それが人として間違わないで生きることなのか?


復讐をして他人を悲しませることは、人ではない?

不純に正しさに逆らって生きることは、人ではない?

レールからはみ出して歪に生きることは、人ではない?


俺と二人でヒーローになろうとしたカエデを騙すことは、人ではない?


    

  なあ、俺はどうやって在るべきなんだ?

      教えてくれよ、カエデ。


───ああ、そっか。カエデはもういないんだった。








──────────じゃあ俺は、怪物でいいや。



「基地正門にて加藤ユウジが子供を人質にとっています。怪異対策機動本部の皆様は速やかに基地正門への集合をお願いします」


日課のトレーニングをしていると突如として自衛隊員からの緊急通信が入ってくる。


「人質って...」


「そこまで堕ちたか加藤ユウジッ!」


僕とアオイさんはギアを持って基地正面へと向かった。




基地正面にたどり着くと怪異対策機動本部の面々と自動小銃を構えた自衛隊員が複数人、そしてみんなの視線の先には加藤ユウジが子供の首にナイフを突き立てている。


「ユウジ!早くその子を解放しろ!」


加藤ユウジは僕たちを見渡した後こちらに呼び掛ける。


「まだ全員は集まりきれてないみたいだけど..まあぶっ殺し対象は来たからヨシでいいや」


ユウジは子供の首筋からナイフを遠ざける。


「ホラ、行ってこい」


ユウジは子供の背中を叩くように押し出す。子供はこちらに向かって走ってくる。


「心配しなくても、爆弾なんざ巻き付けてませんよ」


八千代スバルさんは子供に駆け寄り問題ないかを確認する。


「大丈夫そうだ。念のためこの子を医務室に連れて行きます!」


スバルさんは子供を抱えてその場を離れる。


「人質というアドバンテージを捨てて...何が目的だ?」


「カエデを殺す指示をしておきながらそれは察しが悪すぎませんかねぇ...ただ人類最強なだけのムエタイモンキーじゃないですか」


「せめて空手バカと言え」


西園寺司令とユウジの会話が繰り広げられる。


「まあ、人類虐殺の前に一回アンタと手合わせしたかったんだよな」


ユウジはポケットからキーを取り出し自身の腰に巻いてあるベルトに差し込む。途端、無数の子供の手が足元からふくらはぎ、膝、太もも、腰、腹、胸へと纏わりつく。ユウジの身体の顔以外を子供の手で覆われるにそんなに時間はかからなかった。


「ガヴェイル...」


ユウジの顔は青色の二つの手、ガヴェイルネオの両手により覆われる。先程までユウジを覆っていた無数の手は黒く変色し重油のように流れていく。黒い粘性の液体の中から白を基調とした強化外骨格のようなものが姿を現わす。その姿は遠野カエデのガヴェイルネオを彷彿とさせる。


「みんな、手出しは無用だ。加藤ユウジは俺が連れ戻す」





西園寺リョウは空手の構えをとる。


西園寺リョウと加藤ユウジの間に数秒の沈黙が流れる。


先に動いたのは西園寺リョウだ。10m程あった加藤ユウジとの距離を瞬時に詰め頭部を目掛けて正拳突きを繰り出す。しかしユウジは頭を傾け拳を躱す。


「なにっ!?」


続けて拳、蹴りを駆使するもすべて躱される。


以前のユウジでは躱せないほどのスピードで攻撃したはずだが...急激に成長を遂げたとは考えにくい.が...ガヴェイルの性能か?さすらば!


西園寺リョウは加藤ユウジの背後に回る。西園寺リョウは加藤ユウジの後頭部に正拳突きを繰り出す。だがユウジは一瞥すらせずに首を傾け正拳突きを躱す。そして振り向きつつも距離をとる。


それからも西園寺リョウは様々な技を繰り出すもすべて躱されていく。


俺の攻撃がすべて躱されていく。背後からの攻撃も目視すらせずに躱していた。音速より早く突きを出しているから聴覚頼りとも考えにくい。だとすれば未来予知か?


「だったらッ!」


回避不能なスピードで攻撃すればいいだけの話ッ!


西園寺は全力の拳のラッシュを叩き込む態勢に入る。


しかし、西園寺リョウは失念していた。ガヴェイルは呪いのエネルギーを物質へと転化して変身している。加藤ユウジが呪いを帯びているということに。


(しゅ)極死領域(ごくしりょういき)ッ!」


(しゅ)極死領域(ごくしりょういき)

遠野カエデがガヴェイルからコトリバコ怪人態へ移行した際に見られた致死レベルの呪いの放出。加藤ユウジの呪いの総量は決して高くないが、一瞬かつ範囲を限定することにより致死レベルの呪いを帯びた領域を展開することができる。リープロギアには対呪防御機構がシステムとして搭載されている。対国レベルの呪いでなければ防ぐことぐらい造作もない。対し非戦闘員には呪いを使用せずとも純粋な徒手空拳で処分することができる。


これは、加藤ユウジが西園寺リョウに対抗するために編み出した戦技である、


ただこの一瞬の為だけに。


「誰が正々堂々やるっつったよオイッ!」


加藤ユウジはドライバーにあるキーを深く差し込み高速機動を繰り出す。西園寺リョウに攻撃を繰り出しては高速機動、攻撃しては高速機動を繰り返す。


西園寺リョウは(しゅ)極死領域(ごくしりょういき)により即死しそうになるも気合で持ち堪える。しかし加藤ユウジの攻撃を防ぐほどの気力は残っておらずただただ嬲られていた。


西園寺リョウの身体が加藤ユウジの攻撃により宙へと舞う。


「終わりだ」


加藤ユウジはサマーソルトキックを繰り出し西園寺リョウは地面に叩きつけられ爆発する。



加藤ユウジが着地する。その背後には爆炎が立ち込めている。


「そんな...」


「西園寺リョウが...負けた...?」


ガヴェイルアルティメットネオがこちらに向かって歩いてくる。



「───さあ、怪物無双(ヒーローぎゃくさつ)ショーの始まりや」



加藤ユウジがこちらへ練り歩いてくる。


「私とナオくんで相手するッ。他は援護お願いします!」


「言われずとも!」


ナオキは短剣を即座に生成し一斉掃射、アオイも尻尾の先端からビームを放つ。ユウジはすべて躱しナオキへと肉薄する。ナオキは加藤ユウジに斬りかかると同時にユウジの側面に短剣を複数展開する。アオイも同時に尻尾を蛇腹剣のように伸ばしユウジの背後から突き刺すように邁進する。ユウジは側面に展開された短剣を瞬時に破壊、残した二本を持ちナオキの斬りかかりを防ぎ受け流す。体勢を崩したところに腹へと蹴りを入れ吹き飛ばす。背後から迫る尻尾を一瞥せずに回避しつつ先程手に持った短剣2本をアオイへと投げつける。アオイは腕の鎧で頭部への直撃を避ける。腕をどけた瞬間目の前にはユウジがおりユウジはアオイの腹部に拳を叩き込む。アオイは大きく吹き飛ばされる。


「未来予知に加えてこの性能、西園寺司令なしじゃキチい!」


ナオキは吹き飛ばされるもすぐに体勢を立て直しユウジを目に捉える。ユウジはナオキに急接近する。ナオキは再び短剣を形成、一斉掃射、そして斬りかかる。ユウジは短剣をすべて躱す。ナオキが斬りかかるも躱される。そのままユウジはナオキを通り過ぎる。ユウジは援護射撃していた宝条に迫る。


「しまっ」


「まずは一つ」


ユウジは宝条の頭部へ蹴りを繰り出す。宝条の頭部はユウジの蹴りにより吹き飛ばされる。


「ッ!?」


ナオキとアオイは宝条が殺害されたことに動揺する。しかしナオキは即座に切り替え短剣を掃射する。田所は舞踊のように回避する。


「アオイとナオキが邪魔だなぁ」


ユウジはアルティメットネオのキーを押し込み、高速で移動しつつアオイとナオキに攻撃を繰り出す。


「トドメだ」


ユウジはアオイとナオキの間に立ちに回し蹴りでそれぞれを真逆の方向へと蹴り飛ばす。二人は吹き飛ばされ爆発しそのまま地面に倒れ込み気を失う。






僕は...何をしていた?

そうだ!加藤ユウジと戦っていたんだ!

気絶している場合じゃない!



ナオキはゆっくりと目を開く。そこには、鮮血のカーペットが広がっていた。頭部の無い宝条ヒトヨシ。右腕の無い天海カズハ。下半身がまるごと無くなっている氷室アカネ。怪異対策機動本部に所属している人間のほとんどが遺体となって横たわっていた。


「てめえッ!拾ってもらったことも忘れたのかこの恩知らずがッ!」


京極シュンスケはアルティメットネオに対して拳銃で応戦するも効いている様子はない。もはやガードする必要もなくそのまま京極シュンスケへに向かって歩いていく。


「てめぇに仁義はねえのかよッ!」


加藤ユウジは蹴りで京極シュンスケの身体を縦方向に真っ二つにする。


「反社がいっちょ前に人の道を語るなよ。一般人巻き込んでる害虫どもが」


許せなかった。はらわたが煮えくり返る。脳が沸騰する。それが比喩ではなく、実際に起こっているとさえ錯覚した。


「加藤ユウジイイイイイイイイイイイイィィィィィィィッ!」


僕は妖刀-参式-を抜刀し全速力で加藤ユウジに向かっていく。


あいつを連れ戻すとかそんなことは関係ない。


ぶっ殺すッ!


今ここでッ!


残り10mッ!


ヤツはまだ背を向けている。


残り5mッ!


まだ振り向かない。


残り1mッ!


まだ振り向かない。


そのそっ首を叩き落すッ!


僕は参式を大きく振りかぶり首を目掛けて降る。ユウジは振り向き急いで後ろへ倒れこみ首への直撃を免れる。参式の切っ先はアルティメットネオの顔面の装甲を斬る。生身にはたどり着いていない!


ユウジに躱されたことにより僕は大きく体勢を崩し床を転がる。即座に体勢を立て直しユウジへ向かおうとするもアオイさんが先に攻撃を仕掛けていた。こちらは想定内と言わんばかりに余裕で躱し蹴りを入れられ吹き飛ばされる。


「ナオキが映った未来視(ヴィジョン)が見えなくてマジで焦ったぜ。もうカートリッジが切れたのかと思ったけどアオイが映った未来視は見えたしなぁ...」


ユウジは僕が持っている参式に目を向ける。


「ああ、そうか。早乙女が持ってた妖刀-参式-か。確か「魂や縁、概念」とか斬ることが出来るんだっけか?その妖刀で俺の未来視(ヴィジョン)を無効化したから見えなくなったってわけか」


そうか、だからヤツは振りかぶる直前まで僕の存在に気が付いていなかったのか。


「こりゃまた厄介なのが出てきたねぇ~。目標は達成できたことだしここらでお暇させていただきますよ」


「オメオメと逃がすわけがね」


加藤ユウジを追いかけようとするもアオイさんに止められる。


「今は負傷者の救助が優先ッ!」


ユウジはアオイさんの言葉を聞いて畳みかけてくる。


「そういうこった。また近いうちに会おうぜ。装者ども」


逃がしてしまった。だけど、今はアイツを追うことよりも救助が優先だ。


「.....クソッ!」


加藤ユウジの攻撃を受け、大半の者は即死、初撃を喰らって生き残っても失血死する方がほとんどだった。氷室アカネは下半身を吹き飛ばされていながらもかろうじて生き残っていた。浅い呼吸を静かに繰り返していた。


「アカネちゃんッ!」


伊吹アオイは氷室アカネに駆け寄り手を取る。


「アオイ...さん...ですか...?ごめんなさい...もう目が見えなくて...」


氷室アカネの目線はずっと青空を見ておりまるで焦点が合っていない。


「うん、私だよ。アオイだよ」


伊吹アオイは涙声になりながらも氷室アカネの問いに答える。


「最期に...いいですか?」


氷室アカネは自身の命がもう長く持たないことを自覚していた。それは周囲の人間が見ても明らかである。腹から下が無くなっており臓腑は零れ血が流れていく。そんな人間が生きていけるわけがない。不可能だと。


「ユウジを...楽にしてあげてください...」


「うん、わかった」


「よかった...安心です」


伊吹アオイが握っているアカネの手から完全に力が抜ける。氷室アカネは完全に絶命した。アオイはアカネの手をそっと地面に置く。


「加藤ユウジは、ちゃんと私たちが殺すから」


2030年8月20日


今回の怪異対策機動本部襲撃事件にて西園寺リョウを含む47名が死亡。


実行犯の加藤ユウジは逃走。現在も捜索中。

本事件により怪異対策機動本部は解体。本部機能を関西支部へと移行。

それに伴い、2030年9月1日をもって


          八千代 スバル

           伊吹 アオイ

           黒田 ナオキ 

                      の三名を関西支部へと異動とする。




「奥多摩町旧倉沢集落近くにてコトリバコの反応を検知!アルテメットネオの反応と推定!」


先の事件でオペーレーターも殺害されてしまったため八千代スバルさんがオペレーターの代わりを務めている。


「行くよ!ナオくん!」


「了解!」


「ちょっといいかな」


オペレータールームから出ようとしたところをスバルさんに引き留められる。


「出撃前に一つだけ...この段階でユウジくんを連れ帰って欲しいなんて言わない。ただ、彼を楽にしてあげて欲しい」


「アイツを楽にするつもりはありませんが、ちゃんと殺します」


敵討ちとして。そしてこれ以上犠牲者を出さないために。


「そっか、わかった」


スバルさんは踵をそろえ敬礼する


「伊吹アオイ、黒田ナオキの両名に命ずる!逆賊、加藤ユウジを討伐せよ!」


僕たちも敬礼し返答する。


「了解!」





奥多摩町の旧倉沢集落の山林をアオイさんと一緒に歩く。少し歩いたところで加藤ユウジの姿が見えてきた。


「よう!ちゃんと来てくれて嬉しいぜ。なんだかんだで信頼してるからな、怪異対策機動本部のことは」


「いい加減大人になれよ。いつまでガキみたいに我儘こいてんだ?」


「急に煽ってきてびっくりしたぁ...血の気が多いっすねぇ...」


アオイさんが先に煽りだし加藤ユウジがそれに反応する。


「たかだかバケモンが一匹死んだだけだろ?」


「...あ”?」


ユウジは先程の態度とは打って変わって神妙な顔になりつつも静かに顔に怒りをにじませる。


「調子乗んなよアバズレ。ナオキ知ってっかぁー!?こいつ俺とか司令に抱かれようとしたんだぜ?まぁ俺も司令も手出さなかったけど。もしかしたら他の男に抱かれてるかもな?」


ユウジはアオイさんへの煽りと僕への精神攻撃も含めて嘲笑ってくる。


「僕はアオイさんにどんな過去があろうが関係ありません。関係なく愛してみせます」


過去なんか関係ない。僕は今のアオイさんを全力で愛する、ただそれだけ。


「そうかよ、まあ頑張れや。メンヘラは大変だぞ?少なくとも俺には無理だわ」


「ええ頑張りますとも。それはそれとしてアオイさんを侮辱したことを謝ってもらえます?」


「やだけど?」


ユウジは即答する。


「そうですか、じゃあ殺してやるよノンデリ(クソ)野郎」


「やってみろよ惚気(クソ)野郎」


ユウジはガヴェイルドライバーのキー取り出しドライバーに差し込む。


「それにさあ?お前ら俺に勝てんの?妖刀-参式-があったところでナオキの技量じゃ俺には勝てない」


「ムラクモ」


「ジョワユーズ」


三者同時の変身によりその場に緊張が走る。


「こっちにも切り札があるんだよね」


「へぇー楽しみ」


ユウジは絶対的な自信を持ちつつ軽い期待を込めて返す。


アオイさんは一呼吸置きその言葉を紡ぐ。


「───始祖開放(セット)限定解除・獣性狂化リミテッド・バーサーク


アオイさんの全身が八岐大蛇の金属によって覆われていく。アオイさんは言語を発さず呼吸とうめき声、そして咆哮を発する。その姿はまるで怪獣を思わせるような変貌ぶりだ。


アオイさんが地面を蹴りアルティメットネオへと迫る。僕たちと加藤ユウジの最後の戦いが幕を開けた。



暴走形態に入ったアオイが獣のような動きでこちらに接近してくる。化け物地味た動きで左右へと振れつつも確実にこちらへと迫る。


なるほど、八岐大蛇の本能を暴走させ肉体の限界を引き出したってわけか


未来視には爪を振りかぶり俺を切り裂いてくるアオイが見える。その未来視をなぞるように暴走形態に入ったアオイがこちらに攻撃を仕掛ける。俺は跳躍しその攻撃を避ける。俺の真後ろにあった檜の木はアオイの爪の攻撃によりまるごと一撃で切断される。またアオイの切り裂きで発生した突風の風圧により枯れ葉や砂利、土などが吹き飛ばされる。


このスピードに加えた、詰めによる攻撃でこの威力、なるほど、これは確かに脅威だな。だが、アルティメットネオの敵じゃあない!


俺は未来視通りに迫りくるアオイの攻撃を躱していく。未来視にソードビットと化した短剣が映りこむ。ナオキか。ナオキの短剣は未来視に映るが妖刀-参式-を持ったナオキ自身は未来視に映らない。つまり警戒すべきはナオキ本体のみ!俺は振り返りナオキを視界に捉える。ナオキは妖刀をこちらにふり降ろす。妖刀を躱しつつ同時に未来視をなぞるソードビットとアオイの攻撃を躱していく。アオイはそのまま連撃を加えてくる。対しナオキはソードビット自体はこちらに向かわせてくるがナオキ本人は一撃離脱の戦法を取っている。なるほどな。アオイとソードビットは未来視に映る。そんなやつらが背後から奇襲を仕掛けたところで未来視に映っているので奇襲の意味をなさない。だが妖刀を持ったナオキは未来視に映らないため奇襲を成功させる確率が高くなる。陽動をアオイとソードビットの連撃に任せその隙に背後から斬りかかる。


これが俺を殺すための策か?いいぜ、そのお粗末な作戦を真っ向から否定してやる


アオイの連撃とソードビット、二つの攻撃が絶え間なく続く。ナオキを警戒しつつアオイの攻撃とソードビットを躱していく。突如としてナオキが木の影から現れ斬りかかってくる。ナオキはまた別の木へと隠れる。そしてまたアオイとソードビットの連撃が始まる。その繰り返しを5回ほど繰り返した後、俺はある仮説を立てた。俺は未来視で連撃を躱しつつも背後から迫りくるナオキの腕を掴む。


「ッ!?」


そりゃ驚くよなぁ...未来視に映らないと踏んで攻撃を仕掛けたらまさか攻撃する前に防がれるなんてな。俺はそのままナオキの腕を引っ張り迫りくるアオイに叩きつける。ナオキはアオイに直撃し二人まとめて転がっていく。二人は立ち上がりナオキは再び姿を消す。アオイはこちらに向かってくる。再び繰り返される連撃の中背後から迫るナオキの攻撃を躱し、すかさず反撃(カウンター)のパンチを腹にぶち込む。


「ガハッ!?」


痛えだろうよ。俺はすかさずボクシングのように拳を木村に叩きこむ。


「なんで未来視に映らないはずなのにって思ってんだろ?アオイの強力だが直線的な動き!それをサポートするかのように全方位から迫るソードビット!」


俺はナオキに叩き込む拳のスピードを上げながら種明かしを続ける。


「だが!テメエが斬りかかってくる直前は一部の方向からのソードビットの攻撃が来ない!」


背後からアオイが斬りかかってくるのが未来視で見えたので回し蹴りで吹き飛ばす。


「おかしいよなぁ!全方位攻撃を徹底してたのによぉ!そこで俺は気付いたわけだ!パズルの最後のピースをはめるように!その隙間からナオキが斬りかかってくるってなぁ!」


拳のラッシュを叩き込みでナオキを吹き飛ばす。リープロギア装備時のラッシュですら相当な威力だ。アルティメットネオによる拳のラッシュはとんでもない威力になってるであろう。ナオキは作戦を変えたのか真正面からアオイと同時に斬りかかってくる。暴走形態に入ったアオイはともかくナオキの動きは...。俺はアオイの攻撃を躱し反撃(カウンター)の蹴りを脇腹に入れ吹き飛ばす。ナオキに拳を複数回叩き込む。


「お前の動きは予想で充分なんだよ」


ヤクザキックでナオキを吹き飛ばす。ナオキの姿が見えなくなりソードビットが全方位から向かってくる。数秒したのちにナオキが未来視に映る。ナオキは両手に短剣をもち高速で斬りかかってくる。


「馬鹿の一つ覚えがッ!てめえの動きなんざッ!未来視で見る必要が無ぇんだよッ!」


俺は複数回拳を叩き込んだ後回し蹴りでナオキを吹き飛ばす。


お前の単調な動きじゃ一生俺に勝てねえよ。格の違いってのを


     待て。なんで今になって木村が未来視に映りこんだ?


その疑問が解消されるよりも早く俺は大きな何かによって背後から腹部を貫かれた。頭だけ動かし後ろを見ると蛇腹剣のように伸びたアオイの尻尾が俺を貫いていた。尻尾の根元には妖刀-参式-が突き刺さっている。そうかそういうことか。アオイに妖刀-参式-をぶっ刺すことで未来視に映らないようにしたんだ。逆にナオキは妖刀-参式-から手を離したことで未来視に映るようになったと。


クソが!


俺はアオイの尻尾を手刀で叩き折る。こんな子供だましみたいな作戦を見抜けなかったなんて!ナオキはアオイから妖刀-参式-を引き抜きこちらに迫ってくる。


クソッ!


腹に直撃くらったせいでまともに足に力が入らねぇ!ナオキが今にも俺に妖刀を突き立てようとしている。


まだだ、こんなところじゃ終われねぇ!俺はカエデの仇をとる!だというのに!


瞬間、カエデの姿が脳内をよぎった。カエデと過ごした思い出、そして、カエデと一緒に送りたかった存未来予想図。


ああ、疲れた。


震災で家族を亡くして、生き残った罪から、贖罪のために、そして死に場所を求めるためにリープロギア装者になった。


けど、そこでカエデと出会って、カエデと一緒に生きていけたら、俺も救われんじゃないかと思って。だけどカエデは奪われて、報復も今この瞬間に阻止されようとしている。


生きるのに疲れた。


もういいかな、カエデ。


心臓に、何かが突き刺さる音がした。


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