表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

If-12.奥出雲

「...ユウジさんはどう思いますか?」


「俺は...」


俺は、どうしたいのだろうか?


世界を選んでカエデを殺したら、きっと、いつまでも(あと)として残るだろう。


何年も、何十年も。


俺を、過去(のろい)から解放してくれるかもしれないカエデ。


俺の人生(いきかた)を変えてくれるかもしれないカエデ。


多分、今後もカエデ以上に俺を救える人間に出会うことはないだろう。


(あね)さんやナオキ、司令ですら俺を過去(のろい)から解放することは出来なかったのだから。


だからきっと後悔する。


選択肢はもう一つある。


今ここで、仲間を、組織を、世界を裏切って。


そして、これまでの生き方(じぶん)否定し(うらぎっ)て、カエデの味方になる。


ああ、これは間違っている。


ろくでもない結末が待っている。


それでも俺は、自分の心を否定したくない。


愛した人の味方になって何が悪い?


暗闇の中で、家族の幻が現れる。


「みんなごめん、俺は罪悪感の操り人形にはなれない。生まれて初めての反抗期(ワガママ)、許してほしい」


3人の冷ややかな視線に耐えきれず背を向けてしまう。


「俺もすぐそっちに行くよ、その時に謝らせてほしい」


俺は歩き出す。家族の幻影が消えたような、そんな気がした。


「ああ。俺は、自身の生き様を否定するッ!」





「俺は...」


俺はカエデに向かって歩き出す。


「ユウくん?」


俺はカエデの前に立ち止まり、カエデの顔を見つめる。


「カエデ言ってたよな?ふたりきりのヒーローになるって」


「ユウジさん?」


俺は振り返り(あね)さんとナオキを視界に捉える。そして宣言する。


「俺は、怪異対策機動本部を辞める。そしてカエデと、最期まで一緒に生きていく」


「何言ってるんですか、気でも狂っちゃいましたか?」


ナオキの言うとおり、正常な人間であれば化け物と一緒に生きるなんて選択はしないだろう。


「...」


俺は意思表示として無言を貫き通す。


「ユウジさん?」


「惚れた女のために世界を敵に回す、ロマンチックで最高にかっこいいと思う。でもね、その先は終わりの未来しか待ち受けてない」


(あね)さんの言葉は正しい。カエデと共に生きていったところで、カエデの呪いで5年以内に俺が衰弱死するのは想像に難くない。


「わかってます。それを承知の上での行動です、ここでカエデを殺すより、一緒に逃げて、共に生きて、最期は心中するかもしれません」


「だったらッ!」


「それでもッ!俺は、最悪な最適解より、最良な不正解を選びたいんです」


恋愛脳(ノロケ)が...だったら私たちはアンタの首根っこ引き摺ってでも連れ帰ってやる。一緒に戦ってきた仲間だからな、ムラクモ」


「ジョワユーズ」


「ドラウプニル」


「ガヴェイル」


俺たち4人はほぼ同時に変身する。俺とカエデ、アオイとナオキはお互いを牽制し合うかのように睨み合う。


曇天の砂浜にて、4人の硬直状態が続いている。


鳥の飛び立つ音によって、戦闘は開始された。



ナオキは短剣を生成し、俺とカエデに向けて掃射する。俺は躱しながらアオイに接近。カエデはガヴェイルネオに装備されているニードルガンやブレードで撃ち落とし、弾いて短剣を無効化する。俺はアオイへ近接戦を挑む。


「俺がいない間に随分とまぁパワーアップしちゃってぇッ!一度全力で手合わせしたかったんですよねぇッ!」


「ユウジがその気なら私も答えないとねッ!」


俺は拳や蹴りを繰り出すもアオイの腕と足の金属の鎧に防がれる。


「だったらッ!」


俺は拳のラッシュを叩き込むが腕の鎧で防がれる。アオイは俺の拳のラッシュを腕で防ぎつつも背中から生えた尻尾の先端で薙ぎ払おうとする。俺は尻尾の初撃をバックステップで躱す。尻尾が蛇腹剣のように伸び即座に追撃、俺は2、3、4回目の追撃を同様にバックステップでアオイから距離をとる。


なるほどですねぇ、今ので大体把握した。あの金属の鎧は相当固い。俺の拳のラッシュで壊せなかったほどだからな。だから鎧を壊す策は無し。そしてあの尻尾。飾りかと思いきやなかなかに厄介。素早い攻撃に蛇腹剣のように伸びるからある程度の距離も対応できる。とりあえず距離は取ってみたけどさっき確認した長さは10m程度、しかし、見た感じでは伸びる長さに余裕があった。だからあれ以上伸びると考え半径25mは尻尾の攻撃範囲ってわけだ。あとは、尻尾からビームを吐き出さなきゃいいんだが...。近中距離で戦える(あね)さん、どうやって無力化すればいいか。


俺は勝機を見出すため再度アオイに接近する。





同時刻。





僕はカエデとブレードと短剣で鍔迫り合いを繰り広げていた。


「怪異制圧法第十二条に基づき、あなたの生命活動を停止させていただきます」


「もう少しだけ待ってもらえませんかッ?ユウジさんが私の呪いで衰弱死するまではッ!そのあとはちゃんと自害しますからッ!」


勝手なことを。アンタが生きてたら多くの人が死ぬ。


「許可できませんねッ!ユウジさんをどう誑かしたかは知りませんけどッ!あなたを殺して洗脳を解かせてもらいますッ!」


「洗脳はした覚えはありませんッ!ユウジさんは本心で私の味方になってくれるって言ってくれましたッ!ユウジさんのために、そして、生きるために!私は負けるつもりなんかありません!」


「最初に言いましたけどあなたは危険な存在ですッ!生きる災厄なんですッ!だからここで殺します!」


「交渉の余地はないってことですねッ!」


僕とカエデは鍔迫り合いの状態で突き放すように武器を押し合いそして互いに離れる。僕は短剣を何本か空中に展開しカエデへ掃射する。カエデは1本目をニードルガンで撃ち落とし僕の方へ接近。2本目を躱し3本目をブレードで弾く。カエデは僕にブレードで斬りかかる。対し僕はこれをしゃがんで躱しカエデの足を目掛けて回し蹴りを繰り出す。カエデはジャンプで回避する。僕はすかさず回し蹴りをした足とは逆の足で直線的な蹴りを繰り出す。カエデは腕でガードするが吹き飛ばされる。


「一筋縄では行かないかッ!」


やはりそこいらの雑魚とは違う。一人で奥出雲の悪霊を狩っていただけのことはある。


「他の怪異と一緒にしないでもらいたいですねッ!」


カエデが着地する瞬間、カエデを中心とし全方位に短剣が円状に展開する。


「着地狩りッ!?」


「貰ったッ!」


「やられるッ!?」


無数の短剣は同時にカエデに向かって邁進する。刹那、遠野のガヴェイルネオの装甲から蒸気が噴き出し触手が現れる。触手は全ての短剣を弾き落とす。


「なんで...いや、私の本能に反応したのか」


怪人態化したかッ!?いや触手が生えただけでそれ以外は特に変化はない。


僕は短剣を展開しカエデへ一斉掃射する。短剣は先刻と同様に触手によってすべて弾かれる。


「最悪ですね」


「自分の死に方くらい自分で決めたいです。だから戦いますッ!私とユウジさんは、あなたたちには負けませんッ!」


無数の触手を生やしたカエデが僕へと向かってくる。



俺たち4人が戦闘を開始してから数分が経過。


戦闘開始してからしばらく経ったが未だに打開策が見つかってない。俺は内心焦りつつもアオイの尻尾の先端から放たれた熱線を躱す。


ついには怪獣映画みたいにビームまで出すようになっちゃってよ...近、中、遠距離をすべてカバー。隙が無いんだよな。俺はアオイを観察しつつ何度も熱線を躱す。


いや、隙ならある。


俺はアオイに接近する。アオイは腕の鎧から生えた鉤爪で攻撃する。俺は左手の鉤爪が振り下ろされる前に右腕で止めもう片方の腕でアオイの頭に裏拳を喰らわす。当たった。やっぱ隙なんすねぇ。


アオイは蹴りを繰り出そうとするも先に俺が太腿に攻撃を喰らわせる。


「チッ」


(あね)さんが舌打ちする。アオイは鉤爪で突きを繰り出す。俺はその突きを掴み肘打ちを腹筋のみぞおちに目掛けて繰り出す。肘打ちはみぞおちに直撃する。アオイはよろけながら後退する。


やっぱりな、近中遠がすべてカバーは出来ている。だが、そのバカデカい腕と脛の鎧が邪魔になって超近距離がカバーできてないんだよなぁ。対して俺は超近距離~近距離が得意なリーチ。このまま勝ちに行く。


(あね)さん、お腹痛くないすか?早退して病院行った方がいいんじゃないすか?」


「ほざけノンデリ」


心外だな〜。俺はレディに配慮できるナイスガイなんだぜ?


「さいですか、じゃあ強制的に病院送りにしてやるよッ!」


俺はアオイの超近距離まで接近し背後に回る。そして尻尾の根本を掴みジャイアントスイングでアオイを振り回す。アオイは背後への攻撃を試みるもジャイアントスイングによる遠心力で攻撃できずにいる苦戦する。尻尾で攻撃するもジャイアントスイングのせいで方向感覚が狂わされている。俺は手を離し、ナオキのいる方へ放り投げる。




同時刻。




例の触手が生えてからやりにづらくなった。短剣は全て弾かれる。遠野カエデ自体はこちらを殺す気などないかもしれないが触手で切り刻まれれば死ぬ可能性だってある。だったらこっちも切り札を出す!


僕は妖刀-参式-を鞘から抜刀する。妖刀-参式-の刃先が白く輝く。僕は遠野に接近、迫りくる触手を参式で防御する。触手は見事に切断されていく。


妖刀-参式-は刃先で分解して斬ることをコンセプトに作られている。(アルベド)フェイズはこの世の物質全てや魂、概念も斬ることが出来る。それはコトリバコの触手とて例外ではないってことか。


僕は跳躍し一気にカエデとの距離を詰める。カエデは無数の触手で迎撃してくる。僕は滅多切りですべての触手を切り刻みカエデの首へと参式を振り下ろす。カエデは後ろへ倒れこみ何とか回避する。カエデは後転する。僕は横向きに回転しつつも着地を決める。


「その刀、ただの刀じゃないですよね?妖刀ですか?」


「これから殺す相手に話す必要とかあります?」


「そうですよね、殺すつもりですもんね。ならこっちも本気でやります」


カエデの触手が再生し元に戻る。


参式の(アルベド)フェイズに斬られた者は斬られた状態がその人間の魂の形として定義される。腕が斬られれば腕が無い状態がデフォルト状態となるように。その状態で腕を生やすことは無理だ。だけどこの触手は簡単に再生している。魂とは関係ないということか。


カエデの触手は先程よりも素早く僕に迫りくる。僕は参式で捌きつつも回避行動をとる。


さっきよりスピードが速い。だったら隙を作る!


僕は短剣多数を空中へ展開、ビット兵器、ソードビットのように全方位から攻め入る。ソードビットは触手に弾かれるもすぐさま元の態勢に戻り再び攻撃を繰り返す。


「自立稼働型ッ!?」


カエデが僕のソードビットの挙動に驚いている。初見ならば無理もない。


僕とカエデの戦いはほぼ互角である。僕は遠野に向けて短剣を4本投擲する。


「今更そんな攻撃!」


カエデは触手で迎撃する。4本の短剣はすべて砕け破片がカエデへと飛び散る。短剣の破片は急速に成長しソードビットとなる。急遽成長したソードビットをカエデに向かわせる。カエデはソードビットをブレードで弾き無力化する。僕は残りの破片を再結合させカエデの目の前に壁を作る。


「壁!?いやこれは!」


目くらましだッ!


僕は短剣でできた壁を参式で突き刺す。参式はカエデの首を掠める。僕はそのまま参式で横に薙ぎ払う。カエデは必死に薙ぎ払いを回避し触手で壁を壊す。僕は参式で切り払いつつも後退する。


「クソッ!仕留めそこなった!」


その瞬間、僕は投げ飛ばされてきたカエデさんに直撃し一緒に大きく吹き飛ばされる。







ナオキとアオイは仲良く転がっていく。俺はカエデの元へ駆け寄る。


「カエデッ!ここで決めるぞッ!」


「はいッ!」


俺とカエデは助走をつけてジャンプしライダーなキックの態勢をとる。


俺はアオイを、カエデはナオキをライダーなキックで吹き飛ばし、アオイとナオキは吹き飛ばされ変身が解除される。


「遠野ッ!逃げるぞッ!」


「はいッ!」


俺とカエデはその場から離脱した。





二人で走り続けること数十分。リープロギアとガヴェイルの脚力であれば隣町までは移動できているだろう。


「はぁ...はぁ...ここまで来たら追ってはこれませんね」


カエデが息を切らしながら俺に聞いてくる。


「そうだな...。わりぃ、考えなしに飛び出しちまった」


「あの、ありがとうございます。私なんかのために」


「気にすんな」


それに、カエデをあそこで殺していたら、きっと俺は、一生引きずったまま生きていたと思う。


「だからってユウジさんまで追われる必要は」


カエデの言葉を遮るように俺は言葉を挟み込む。


「もう終わったことだ、それよりも未来のことを考えよう...これからどうするか...」


少しの沈黙の間、カエデのガヴェイルに通信が入る。


「誰からでしょう?」


「スピーカーモードにしてくれ」


カエデはスピーカーモードにして応答する。


「こちら遠野」


「おっ、出てくれて感謝感激やわ~」


スピーカーから関西弁の男の声が聞こえてきた。


「テメェは誰だよ」


俺は威圧感を与えるためにわざと荒い言葉を使う。


「これはこれはリープロギア装者の加藤さん、そんで遠野さん。初めまして、ワイはパレイーズ結社の樋口コウスケっていうもんです」


「樋口コウスケッ!?」


早乙女アキラに東京タワーの事件、黒田トオルの殺害を指示した男だ。


「その反応やとワイも有名人になってもーたみたいやな」


「...思い出しました。私にガヴェイルドライバーをくれた方ですよね?」


「記憶喪失治ったんか!?嬉しいな~ワイのk」


「要件は何だよ?昔話しに来たんじゃねんだろ?」


樋口コウスケの騙りを遮るように別の話題を振る。


きっとカエデと樋口の関係はドライバーを渡しただけの関係。だが、そんな些細な昔話を話されることすら嫌がってしまう。俺の嫉妬だ。


「いやあ、ちょっとな~。手助けしたろっかな~って思ってな」


「「手助け?」」


カエデとタイミングが被ってしまった。


「おうそうや、さっきの見たで~。愛する者の為に世界を敵に回す、ロマンチックで最高やわ~感動した!」


さっきの戦いを見ていたのか。


「感想ならレビューの項目に書いといてくれよな。通信してくるなよ暇人」


「さすがにワイらもそこまで暇ちゃうよ。そろそろ本題に入ろか、アンタらの逃げ場所を提供したい」


「何が目的ですか?」


俺はカエデの問いに問いを重ねる。


「「コトリバコの怪人」であるカエデが目的か?」


「それもある。それもあるんやけど、一番の目的は人生(ものがたり)や」


「は?」


似つかわしくない言葉が出てきたことにより思わず困惑してしまう。


「ワイが好きなんは二つ、一つは商売(あきない)、もう一つは物語や。君ら二人の愛の物語にとても感動した!もっとこの物語を見てみたいと思った。やから逃げ場を提供する!この愛の物語をここで終わらせるわけにはいかんのや」


「勝手に物語にしないでください!今ので確信しました。私たちはあなたと協力できません!」


「いや、待てカエデ。こいつの提案を受けるべきだ」


「ユウジさん?」


カエデの言いたいことはわかる。が。


「たしかにこいつは信用ならないしパレイーズ結社は倒すべき敵だ。だが、俺たちには身を潜めるための場所が必要だ。一般の民家ではカエデのコトリバコの呪いで他人に被害が及ぶが、パレイーズ結社の施設なら大丈夫だ。仮にカエデの呪いがあってもパレイーズ結社のやつらに被害が及ぶのなら何も問題はない」


「ワイらの扱いひどない?」


俺は樋口の言葉を無視して話を進める。


「敵はパレイーズ結社だけじゃない、今や怪異対策機動本部も敵になった。敵の敵は味方だ。ここはパレイーズ結社を利用しよう」


「ってユウジはんは言っとりますけどどないする?」


少しの沈黙の後、カエデは口を開く。


「わかりました。一時的な停戦協定を結びましょう。ですが、あなたたちが怪しい動きをしたらその時点で停戦協定は破棄させていただきます。ユウジさんもそれでいいですか?」


「ああ、それで構わない」


「よかった。なら合流地点を教えるわ。場所は「島根県鹿足郡津和野町相撲ケ原」。到着次第パレイーズの施設に案内するわ」


「了解した」


「ほな、お待ちしと~で~」


樋口コウスケからの通信が切れる。


コトリバコ怪人であるカエデは脅威となる存在だ。奴らにとってそんな好都合な兵器、見過ごすわけがない。是が非でも手に入れたいはずだ。


───だから、俺がカエデを守る。

────最期まで守り切ってみせる。


パレイーズからも世界からも。誰にも奪わせはしない。




ユウジさんとコトリバコの怪人を逃がしてしまったあと、怪異対策機動本部で緊急会議で開かれた。僕たちはリモートでの参加だ。


「よし、みんな集まったな」


西園寺司令は加藤ユウジ以外の全員が出席していることを確認した。


「アオイとナオキは欠席か?」


「私たちはリモートでの参加です」


宝条さんの問いにアオイさんが答える。


「そういうことだ。さて、早速本題に入ろうと思う。今朝、ドラウプニルのリープロギア装者こと加藤ユウジがコトリバコの怪人と一緒に逃亡した」


「馬鹿が、駆け落ちしやがって...」


京極さんが小声で呟いたのが微かに聞こえた。


「これは怪異制圧法第十二条に反する違反行為だ。遠野カエデは即刻排除、そして加藤ユウジは拘束し重罰が科せられる」


当然の結果ではある。駆除しなければいけない怪異を見逃した挙句、僕たちに危害を加え一緒に逃亡したのだから。少しは反省してもらいたいものだ。


「それが規則通りではあるんだが...」


司令が途端に口どもる。


「先程内閣府から通達があった。遠野カエデと加藤ユウジ、両名の排除をしろとの命令が下った」


「なっ!」


全員が司令の言葉に驚愕する。


「待ってください!ユウジはまだ更生の猶予があります!殺す必要なんてありません!」


アオイさんが反論する。


「俺も再三排除命令の取り下げを要求したが聞き入れては貰えなかった。政府は遠野だけでなくユウジも脅威と判断したんだ」


コトリバコの怪人ならともかくユウジさんを脅威判定する理由がわからない。遠野カエデを駆除した後、ユウジさんの報復を恐れているのか?


「そして遠野カエデと加藤ユウジの排除にあたって「指向性エネルギー派照射型害獣駆除用狙撃銃」を使用せよとの命令も下った」


指向性エネルギー派照射型害獣駆除用狙撃銃


指向性エネルギー波を照射し対象内部で水蒸気爆発を引き起こす。肉体は水蒸気爆発に耐えきれず爆発する。たとえて言うならば、卵を電子レンジで温める行為が一番わかりやすいだろう。


2020年以降、急増したクマ被害。これを防ぐべく2026年に自衛隊によるクマ駆除が推しはかられるも難航する。そこで2027年に開発されたのがこの狙撃銃だ。クマの分厚い毛皮を無視して駆除できるという優れものだったが、


しかし、市街地での使用制限、取り扱いの悪さ、クマ駆除反対派の声などにより、一度も実戦で使用されなかった経緯がある。


「そんなものを一個人に向けて発砲するなんて...」


「正気の沙汰じゃないな」


天海さんと宝条さんに同意する。明らかに過剰戦力すぎる。


「この後、京極と宝条はヘリで狙撃銃を持って島根に向かってくれ」


「...了解」


京極さんと宝条さんには今までにはない覚悟の声色が伝わってくる。


「アオイとナオキは京極宝条と関西支部からの二人と合流してコトリバコの怪人とユウジの排除にあたってくれ。作戦立案はアオイに任せる」


作戦立案を任され面食らった顔をするアオイさん。


「...いいんですか?」


「ああ、ユウジを頼んだぞ」


「了解」


「これにて会議を終了する、解散!」


リモートの会議は終了し画面には退出しましたの文字が表示されている。


「アオイさん、どうしましょうか」


僕は作戦立案者であるアオイさんに問いかける。


「私はユウジを殺すつもりはない」


「それだと内閣府の命令に反しちゃうんじゃ...」


「うっかり拘束して無力化したのならわざわざ殺す必要もないよね?」


「まあ、そうですけど...」


うっかり拘束することなんてあるのだろうかと思いつつ話を聞く。


「ごめんねナオくん...これは私のエゴだ。仲間を殺したくないという」


「今まで二人で装者をやってきたんですよね、情くらいは湧きますよ」



「ユウジがエゴでコトリバコの怪人を救うなら、私はエゴで仲間を助ける。たとえコトリバコの怪人を殺してユウジに恨まれることになっても、私は加藤ユウジを殺したくない。協力してくれる?ナオくん?」


「ええ、付き合いますよ」




島根県益田市の林の中を二人の男女が歩いている。加藤ユウジと遠野カエデだ。


「目的の場所までもうちょっとだ。だから頑張ってくれ」


「はい!」


加藤ユウジの声に答える遠野カエデ。しかし、二人は前方の光景を見て立ち止まってしまう。その視線の先には伊吹アオイと黒田ナオキが立っていた。





「熱烈な追っかけどうも。あいにくファンサはできねえよ?」


ユウジさんが軽口を叩く。


「詰めが甘いんですよ。ユウジさんのドラウプニルの反応を検知して先回りしたんです」


「衛星カメラで探索しても良かったんだけどね、ムラクモ」


アオイさんが変身しギアを纏う。僕たちも続くように変身する。


「邪魔するつもりですか?」


「無論そのつもり」


ユウジさんの問いにアオイさんはそう答える。


「重たいと男に逃げられますよ?」


「大丈夫、ナオくんは逃げないから、ね?」


アオイさんが僕に目配せしてくる。僕は一回頷く。


「へぇ~~~~~~~~~~~~~~」


ユウジさんは感嘆している。しかし、それに加えてどこか蔑んでいるような、そんな意図を感じられた。


「だから私たちはッ!遠野カエデを殺してユウくんを連れて帰るッ!」


僕は二人に向けて短剣を投擲する。二人は即座に躱す。これは想定内だ。僕は地面に突き刺さった短剣を巨大化させ二人を分断する。


「壁ッ!?」


「剣ですッ!」


アオイさんは遠野カエデと、僕はユウジさんと応戦する。僕とアオイさんのリベンジマッチが幕を開けた。



私はガヴェイルの装甲を吹き飛ばし触手を生やす。無数の触手でアオイさんを攻撃するも金属の鎧によってすべて防がれる。アオイさんは爪を駆使して触手を切り裂いていく。



私の触手とあの金属の鎧じゃ相性が悪すぎるッ!距離をとって飛び道具で攻めないとッ!


私はバックステップで距離をとる。中距離程度まで離れる。しかしアオイさんの蛇腹剣のように伸びた尻尾の薙ぎ払いが迫りくる。やむを得ずさらに距離をとり遠距離まで離れる。


ここまで距離をとれば大丈夫なはず!


しかし、アオイさんは尻尾から縦方向に熱線の薙ぎ払いを繰り出す。なんとか間一髪で避ける。熱線が掠った装甲が熱で溶け赤く発光している。


遠距離まで対応できるのか!?


アオイさんは地面を蹴り私との距離を一気に詰める。


「しまっ!?」

アオイさんの爪による引っ掻きを身体を反らして躱す。そのままバク転し距離をとる。


どうする!?怪人態に変身するか!?いや、それはパレイーズの人達と同じだ。

私は体は怪物でも!心まで怪物になるつもりはないッ!






「今日はお前とかぁ、なあ?ナオキ。とっとと倒してカエデの救援に向かわせてもらうわ」


「甘く見ないで貰えますかね!」


ナオキは短剣を空中に複数展開する。


「行け!ソードビット!」


ソードビットは俺に向かって直線的に飛ぶ。俺はすべて躱してナオキに接近する。躱された短剣は空中で高速回転し再び目標を俺に定めて飛翔する。短剣の音に気付き回避行動をとる。


「追尾機能搭載かよッ!?」


俺は回避しつつも確実に短剣を砕いていく。


同時操作可能な短剣は8本程度、それも細かい動作は難しいと見える


俺は短剣をすべて砕きナオキに接近する。


「それになぁ!ファンネル持ちの相手には接近戦ってのが筋なんだよなぁ!」


俺はナオキにパンチを繰り出す。ナオキは短剣で防ぐ。


「ファンネルじゃなくてソードビットです!」


ナオキは短剣をもう片方の手で持ちながら切り付ける。俺はバックステップで離れる。さらに上空から短剣が降り注ぎ後退する。


例のソードビットで中遠距離はカバーできている。だが、(あね)さんほど完璧じゃあない。だから容易に俺の間合いに持ち込める!


俺はナオキとの間合いを一気に詰め拳のラッシュを叩き込む。ナオキは短剣で防ぎきる。


「近接戦では俺の方が上ってこと!再認識(わから)せてやるよッ!」


「それは格闘技だけの話ですよね!」


ナオキは背後で形成していた複数の短剣を俺に向けて掃射、俺はバックステップですべて回避する。


「やるじゃん」


ナオキは短剣を2本掃射、俺はそれを避ける。続いて4本掃射、合計六本の短剣は同時に砕け散る。砕け散った短剣の破片同士が結合し、蜘蛛の巣の網目状のドームを形成し俺を囲い込む。


「それで俺を捕まえたつもりか?」


だとしたらナメられたものだ。この程度のドーム俺の拳であれば。


「その檻に触れない方がいいですよ。表面をチェーンソーの刃のように動かしてますから。無傷ではいられません」


「そうかよ」


「ですが、念には念を入れて短剣複数を即座に一斉掃射できるように待機させておきますね」


ナオキはドームの全方位から短剣を16本程度待機させる。


「そこでおとなしくしておいてください。これはアオイさんの願いでもあるんですから」






ナオキが通信でアオイに話しかける。


「こちらナオキ、アオイさん、ユウジさんを捕らえました。あとは作戦通りに」


「こちらアオイ、了解」


「こちら宝条、いつでも狙撃可能だ。行動不能にして自分のタイミングで離脱してくれ」


「了解」


伊吹アオイはカエデの触手を防ぎつつも背後に回り、爪でカエデの足のアキレス腱を斬りつける。


「ぐっ!」


カエデの機動力が落ちる。続いて太腿、ふくらはぎを爪で引っ掻く。


「ぐあっ!?」


カエデは態勢を崩し後ろへ倒れこむ。


「カエデッ!?」


檻の中から見ていたユウジ。しかし加藤ユウジの制止は伊吹アオイには届かない。





ここで黙って見ていられるやつは男じゃねえ!


俺は傷つきながらもチェーンソーの刃に切り刻まれながらもパ檻を完全に破壊する。


「何ッ!?」


俺はナオキを蹴り飛ばしカエデの元へと走っていく。




「アンタの気持ち、痛いほどよくわかる。でもさ、私もナオくんと一緒に生きていきたいからさ、ここで死んで」


アオイさんの尻尾の先がこちらに照準を定める。怪人態へ変貌しようか考えていたとき。


「カエデエエエエエエエエエッ!」


ユウジさんがナオキさんの蹴り飛ばすやいなや全速力でこちらに向かってくる。視界の端でナオキさんが森の中に入っていくが見えた。なんでユウジさんを追いかけない?それに先程まで私の目の前にいたアオイさんの姿が見当たらない。


撤退?このタイミングで?なぜ?悪い予感がする、考えないと!あの調子で戦えばアオイさんは私を殺すことが出来たはず。ユウジさんはナオキさんの相手で手一杯、尚更アオイさんが私相手に苦戦する理由がない。私の怪我の状況はどうだ?主に太ももやふくらはぎ、アキレス腱。脚部に集中している。私が怪人態になることを危惧して脚部に攻撃を集中させた?いや、これはおそらく機動性を封じるため。


動けなくなった私を餌にしてユウジさんが釣られる。ユウジさんから聞いたことがある。スナイパーは敵の一人を敢えて殺さずに負傷させるだけに留める、こうすることで負傷した人間を助けるために別の敵がおびき寄せられるといった考えだ。狙撃...そう考えると辻褄が合う。私の機動性を奪った上でユウジさんが私を助ける、一ヵ所に集まったところで狙撃すれば纏めて屠ることが出来るといったことか。アオイさんとナオキさんが避難したということはそれほど高威力だということ。だとしたらユウジさんが危ない!


「ユウジさんッ!逃げてッ!」


ユウジさんは聞く耳を持たずにまっすぐ向かってくる。駄目だ!止まらない!だったらユウジさんには悪いけど私の我儘に付き合ってもらいます!私はガヴェイルネオの装甲を吹き飛ばし先輩に目掛けて吹き飛ばす、同時に無数の触手を鞭のように扱い、ユウジさんに直撃させ思い切り吹き飛ばす。


「カエデ何をッ!?」


ユウジさんの困惑した叫びが聞こえる。ごめんなさい。私は性格が悪いから。この後、ただ一人残されたユウジさんがどんな感情を抱くかなんて百も承知だ。それをわかったうえであなたに生きることを強要する。ここで二人一緒に死ねたら、私たちは幸せに終われる。でもそれは嫌だ。私はユウジさんに生きていてほしい。


これは私の我儘なんだ。

私に「喜び」を教えてくれた。

私に「好き」を教えてくれた。

私に「楽しさ」を教えてくれた。

私にいろんなことを教えてくれたユウジさん。

そして、人類の敵(わたし)とふたりきりのヒーローになることを選んでくれたユウジさん。


そんなユウジさんに生きていてほしいという私の我儘。


「さよなら、ユウジさん」


はにかみながらそう呟いた声は、ユウジさんに聞こえたかどうかはわからない。でも、もう言い残すことはなくなった。


ああ、来世でも、ユウジさんと巡り合えたら嬉しいな。



そして、私の身体は、光と熱を帯びた衝撃となった。









カエデが何かを呟いたが聞き取れなかった。けど、今はそんなことよりもカエデに駆け寄ることが最優先だ。カエデは負傷している、手遅れになる前にここから離れるんだ。でないと、あの二人に嬲り殺される。一刻も早く!俺はカエデに手を伸ばした。


瞬間、閃光と爆風によって俺は大きく吹き飛ばされた。


地面に叩きつけられ数秒、うつ伏せの状態から顔を上げると辺り一面の焼け野原と、直径20mほどのクレーター、そして所々ガラス化した地面が目の前に広がっていた。そこにカエデの姿はない。


「カエデ!どこに行ったカエデ!」


しかし呼びかけには応じない。何とかして立ち上がって呼びかける。


「早く逃げないと!だから隠れてないで出て来いって!」


返事はない。視界の端で、青い何かが落ちているのを見た。


何か。

その何かは辺り一面に散らばっている。

散らばった何かの中で一番大きなものを手に取る。

それは何かの「手」に見えて、「人の手」に見えて、「見慣れた手」に見える。


理解することを拒んでいた脳が、それが「ガヴェイルネオに変身したカエデの手」だと理解する。


「───ぁあ、ああああ─」


思考が澄み渡る。脳が次第にすべてを理解していく。辺り一面にカエデだったものが散らばっている。


「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”」


カエデの手を抱えて慟哭する。カエデっカエデカエデっカエデっカエデカエデカエデカエデ!さっきまでそこにいた!健気にも戦っていた!未来のために!生きるために戦っていた!たしかにカエデは危険な存在だったかもしれない!だから俺は!カエデを人里離れた地に連れて行こうとした!そこで最期までカエデの隣にいられればそれでよかったのに!


ああ、世界は俺から何もかもを奪っていく。ふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんな!誰だ?誰がカエデを殺した?怪異対策機動部の奴らか?あの二人で俺たちを足止めして悠々と安全圏から狙撃しやがったのか?


許さねえ(殺す)許さねえ(殺す)許さねえ(殺す)許さねえ(殺す)許さねえ(殺す)許さねえ(殺す)許さねえ(殺す)許さねえ(殺す)許さねえ(殺す)許さねえ(殺す)許さねえ(殺す)許さねえ(殺す)許さねえ(殺す)許さねえ(殺す)許さねえ(殺す)許さ()



───決めた、人類(おまえら)鏖殺(みなごろし)だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ