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小人の神様の世界

じゃない方はヒロインの友達

作者: 白井夢子


「レリアナ」

名前を呼ばれて思わず振り返ってしまった。

いつもならばこんな時、絶対に振り返ったりしないのに。



「ウィル?どうしたの?」

呼びかけたウィルに、隣に立つレリアナが小首をかしげて可愛く尋ねた。

レリアナ。――同じ名前の私の友達だ。






レリアナは、前世流行ったネット小説のヒロインだ。


それは『星祭りの夜、手を取り合った男女が流れ星を一緒に見ると運命の恋になる』という星祭りの伝説を持った世界を舞台に、ヒーローとヒロインが結ばれる、前世で爆発的人気を誇ったネット小説だった。


『星降る夜にあなたと永遠の愛を』――通称ホシアイは、あまりの人気ぶりに、『ホシアイワールド』としてシリーズ化され、様々なストーリーが展開されていった。



ヒロインがレリアナのホシアイは、初期の頃の作品で「可愛くて優しいヒロインが、たくさんの素敵な男子に愛された末に運命のヒーローと結ばれる」という、王道中の王道ラブストーリーだった。

その中には虐げられた過去も、悪役令嬢も、嫉妬に燃え狂う女子の姿もない、安心安全な美しい世界が広がっている。


ネット上の評価では、「山も谷もない、つまらない話」と酷評の嵐だったが、前世のレリアナはそのホシアイのストーリーが一番大好きだった。

そこに登場するヒロインも、とても賢くて優しくて、前世のレリアナが「なりたい女の子」の理想の形だったからだ。


だからこの世界に生まれ変わって、幼い頃にこの世界がホシアイの世界だと気がついた時は、本当に嬉しかった。

『絶対に私も前世で大好きだったレリアナのように、素敵な女の子になってみせる』と意気込んで、勉強にもオシャレにも力を入れて、人にも優しく接してきた。


レリアナは「誰よりも可愛い」という訳ではなかったが、オシャレをすればそれなりに可愛かったし、確かストーリーの中でもレリアナの容姿については細かい描写がなかったので、それはそれで納得していた。

―――もう一人のレリアナに会うまでは。




スターダスト学園の中等部の時、同じクラスになった彼女は、同性であるレリアナさえもドキドキしてしまうくらい可愛い女の子だった。

彼女はおっとりした性格のようで、何かと出遅れる彼女が気になって面倒を見ているうちに、「ダブルレリアナ」とクラスの中で呼ばれるようになり、同じ名前同士で比べられるようになった。


そして気がついてしまう。

彼女こそがヒロインだったのだ。




彼女は目立つ。

それはそうだ。

出会ったもう一人のレリアナは、流れるような淡い金髪に、澄んだ湖のような緑色の瞳を持ち、透明感のある白い肌に華奢な身体つきの、まるで物語の世界から抜け出したお姫様のようだった。

すごく頑張って、やっと少しの「可愛い」を引き出せる私とは違う。



彼女を一目見た瞬間から、『私はホシアイのヒロインじゃなかったのかも』とすでに感じていたが、それが確信に変わったのは、クラスの男子達が話している言葉を偶然聞いてしまったからだった。


「あーあ。クラス委員なんて面倒くさいもんに当たっちまったよ。『じゃない方』のレリアナと一緒だしさ」

「まあまあ。『じゃない方』真面目だし、なんでもやってくれそうじゃん」


そんな会話を聞いてしまって、自分がただ同じ名前の『ヒロインじゃない方』のレリアナに過ぎなかった事に気付かされたのだ。



もちろん傷付かなかったはずはない。

同じクラス委員になった男子は、話が合って少し気になっている子だった。

家に帰って泣きに泣いて、泣き腫らした顔で鏡を見て、あまりの酷い顔に『それはそうか。当たり前だよね』と諦めに似た気持ちで現実を受け入れた。


現実を受け入れるしかなかった。

こんな事でヤケになって腐りたくはなかった。


友達のレリアナに八つ当たりして悪役令嬢の役割を担いたくもなかったし、頑張ってきた勉強も、ここで投げ出して今までの努力を無駄にしたくはなかった。

「将来はレリアナも仕事を手伝ってくれるかな?」と笑いながら尋ねてくれる、外国に事業を展開している叔父もいる。

自分の人生を「ヒロインじゃなかったから」というだけで諦めたくはなかったのだ。


「中等部の委員の仕事ぶりは、高等部への進学時への評価にも繋がる」と割り切って、レリアナを『じゃない方』扱いした同じ委員の男子にも普通に接して、レリアナはクラス委員の役割を全うした。

幸いその男子も、レリアナだけに仕事を押し付けるような者ではなかったし、教師にも委員としての仕事ぶりを高く評価されたようだし、悪くなかった経験だと思っている。



成績でクラス分けされる高等部では、首席のレリアナは勉強が苦手な友人レリアナとはクラスは別になったが、彼女はいつもレリアナのクラスに遊びに来る。

どうやら彼女は自分のクラスで浮いた存在になってしまっているようだ。


無理もない。

こんなに美人なのだ。みんな近寄り難いのだろう。


美人のレリアナが私のクラスに遊びに来ると、クラスの男子達が色めき立つのが分かる。

少し離れた席にいるにも関わらず「レリアナ」とわざわざ呼びかけてくる、あの男子もそうだ。


今日は思わず名前を呼ばれて振り返ってしまった。

いつもならばこんな時、絶対に振り返ったりしないのに。





「ウィル?どうしたの?」

呼びかけたウィルに、レリアナは小首をかしげて可愛く尋ねる。


ウィルとは中等部の最終学年で、レリアナと友人レリアナと三人同じクラスだった。

彼はレリアナを『じゃない方』扱いした、同じクラス委員だった男子だ。



振り返ったレリアナと、可愛く尋ねた友人レリアナに、ウィルが笑う。

「同じ名前だからややこしいよな。呼び方変えたらどうだ?レリアナ、これからレナって呼んでいいか?」


その言葉は私に向けられた言葉だった。

「……別にいいけど」


「じゃあ決定な。これで間違えないだろう?」

私の言葉に、楽しそうにウィルが笑った。


「レリアナ。今度の星祭り、ロイドらと行くんだって?僕も混ぜてくれよ」

「もちろんいいわよ。お昼ご飯の時に、会う日の予定を決めようって話してるの。一緒に食べましょう?」

「おう。じゃあまた昼にな」


友人レリアナとの約束を取り付けて、ウィルが機嫌良さそうに去っていく。


「ねえ、レリアナ。私もレナって呼んでいい?」

「いいよ」

「良かった!じゃあレナ、お昼休みにね」


軽い足取りで教室を出ていく友人レリアナを見送りながら、『ヒロインのレリアナは誰を選んだんだっけ?』とレリアナは考えた。



実はレリアナは、ホシアイのヒーローの名前も、ヒロインの取り巻きの男子達の名前も覚えていない。

いや、正確に言えば忘れてしまったのだ。

幼少期にあれだけハッキリと覚えていたホシアイストーリーは、年を重ねるにつれ記憶が曖昧になっていった。

特に自分が「この世界のヒロインではない」という事に気づいてからは、あまりホシアイの事を考えないようにしていたせいか、ストーリーはいまやおぼろげなものとなってしまっている。


誰がヒロインを愛するのか分からない今、レリアナは誰かを好きになりたくはなかった。

ストーリーの中のヒロインを愛する男子たちは、とても一途にヒロインを想っていた。そんな男子をウッカリ好きになっても、辛くなるだけだ。


『こんな事なら、記憶がハッキリしているうちにストーリーを書き出しておけばよかった』と思わなくもないが、知らないからこそ気を引き締めて、将来のための勉強に集中できているともいえる。

『今は勉強を頑張って、将来を切り開こう』とも思えていた。



レリアナがガリ勉生活を送っている間に、友人レリアナは、多くの素敵な男子との出会いをいつの間にか果たしていたようで、学食でのグループを作っていた。

そして私も友人レリアナがちょくちょく誘いに来てくれるので、その学食グループにちょくちょく参加して一緒に食べている。

だけどそこは正直面倒くさい集まりだった。




「レナ、今度の休みにまた勉強会しようぜ」

「レナ、明日までの授業の課題、放課後手伝ってよ」

「今度のテストやばいんだ。レナ、試験勉強に付き合ってよ」


ウィルが私を「レナ」と呼ぶので、学食グループのみんなも私を「レナ」と呼びだした。

彼らは確かにイケメン達だけど、課題を頼られるだけの私としては、イケメン度合いなど関係がない。

勉強会と称して集まる会は、私に課題を押しつけて、レリアナ手作りのお菓子を楽しむ会だったし、そんな経験は一度で十分だ。


彼らは悪い人たちではない。

だけど友人レリアナの付属品として、時間を無駄にしたくはなかった。

「家の手伝いが忙しくって。ごめんなさい」と無難に断りを入れておいた。



「え、でも星祭りは一緒に行くだろう?」

ロイドに聞かれて、レリアナは少し考えた。


星祭りは夜始まるお祭りなので、「高等部に入るまでは」と前年までは家族に反対されていた。

今年からは、あまり遅くならないなら参加する事はできる。だけど、このメンバーで参加したところで、友人レリアナのモテっぷりを見せつけられるだけだろう。


『本当に。たくさんのホシアイストーリーがあったけど、ヒロインの友達って立場の人は、ヒロインをどう見ていたんだろう?』とレリアナは思う。


自分だけが選ばれない。

その現実をどう受け止めていたのだろうかと考える時がある。


ヒロインだけの素敵なラブストーリーを、心から一緒に祝っていたのだろうか?それとも嫉妬ややり切れない思いで苦しんでいたのだろうか。


そんな事を考えていて、少しぼんやりしてしまったようだ。



「レナ?大丈夫?」

ロイドの声で思考の中から戻り、「あ、ごめんね」と謝って、改めて返事をした。


「いくら星祭りでも、夜の外出は危ないって両親に反対されたの。だから私の事は気にしないで、みんなで楽しんできてね」


星祭りは前世でホシアイを読んだ時からの憧れだ。

初めての星祭りくらいは特別な人と行きたい。

少なくとも、「同じ名前だからややこしい」と、レリアナをレナ呼びする男子達だけはゴメンだった。


彼らが私を『じゃない方の』レリアナと見るように、私だって彼らは『じゃない方の』恋愛対象者なのだ。








そんなふうに山も谷もなく、何も変わらない学園生活を過ごし続けて、首席で卒業をしたレリアナは、叔父の仕事を手伝うために外国に渡った。


卒業時になっても友人のレリアナは恋人を絞り切れなかったようで、誰とも付き合うことなく学園生活を終えたようだが、あれだけの美人だ。

きっと卒業後に素敵なヒーローと出会っているに違いない。


もしかしたら前世のストーリーも、学園で運命の恋人と出会えたのではなくて、もっと大人になってからの話だったのかもしれない。

今ではもう『前世だと思い込んでいたものは、夢だったのかもしれない』とも思えてきていた。

そのくらい曖昧なものになっていたが、たとえ夢だったとしても、その夢があったから子供の頃から努力する事が出来たのだ。

今こうして広い世界を見れているのは夢のおかげだと感謝したいくらいの思いでいた。







「レナ!」

仕事が終わって家に帰る途中、名前を呼ばれてレリアナは振り返った。



「あら?ウィルじゃない。すごい偶然ね。ウィルもこの国に来てたのね。仕事?」

「ああ、僕も仕事だ。なあ、この後時間ある?ご飯食べに行かないか。ゆっくり話がしたいんだ」


思いがけない場所で懐かしい顔を見て、レリアナは頷いた。

「そうね。美味しいお店を紹介するわ」と答えると、ウィルは嬉しそうに笑った。


「僕の誘いに頷いてくれたの初めてだよな」

「まあ……学園時代は勉強に忙しかったから」


本当は「忙しかった」というより、友人レリアナを愛する男子達と距離を取っていただけだが、今のレリアナはあの頃よりも広い世界にいる。

『じゃない方』の自分という、どこか重苦しかった思いに、もう縛られる必要はない。



お店に入って料理を待つ間に、レリアナは尋ねた。

「この前レリアナから手紙が届いたわ。レリアナは卒業してから小料理屋さんで仕事をしてるみたいだね。ウィルは行ってみた?」

「レリアナは小料理屋さんで仕事してるんだ。知らなかったよ」

「会ってないの?」

「全然だよ」


『そうか。ウィルはレリアナのヒーローになれなかったのね』と、ふうんとレリアナは頷いた。



「あのさ、レナ。ずっと昔の話なんだけど……」

ウィルが少し緊張した様子で話し出した。


「何?」

ウィルが言葉を続けないので、レリアナは先を促す。


「あ、いや……。その……。ああ!もう!レナ、あの時、あのクラス委員が決まった時、僕の話してた言葉って聞いてた?」

「え?『じゃない方』の私が同じ委員になって、残念に思ってた話?」

「ああああ………やっぱり……」



ガツクリとウィルが肩を落とす。

絶望だ、と書かれたような顔をしたウィルに、プッとレリアナが吹き出す。


「別に気にしなくていいわよ、そんな昔の話。そりゃ聞いた時はショックだったけど、レリアナはあれだけ美人なんだもの。当たり前の反応じゃない?」


あははと笑いながら話したが、ウィルは俯いたままだ。

ウィルが今でも罪悪感を持つほどには、学生時代の自分達の関係は良かったという事だ。



「本当に気にしないで。あの言葉があったから、助けられた事もあるもの。それにこの国に来て、私にもモテ期がきたみたい。最近は私もよく声をかけられるのよ。だから大丈夫よ。素敵な人と出会ったら、ウィルにも手紙を送るわね」


そうだ。あの言葉があったから、「自分がヒロインだ」なんて甘い考えを消すことが出来たし、勉強に集中する事も出来た。

それに最近は仕事を通じて出会った人に声をかけられる事が何度かあって、素敵な出会いに期待もできるようになった。

だから今こうして改めて話す過去が、むしろ良い思い出にも思えてきて、ふふふと笑った。



「え!待って、違うんだ!いや……確かに言ったけど、本当に違うんだ。レナ、君を『じゃない方』だなんて思った事はない。

………あの時嬉しかったんだ。レナと同じ委員になれて浮かれてたところに、友達に「嬉しそうだな」って声をかけられて。あの頃は自分の気持ちを自覚したばかりで、気持ちを言い当てられた事が恥ずかしかったし動揺もしてしまって、思ってもない事を言ってしまったんだ。

あの時、あの後からどこかレナに距離を取られてるような気がしてさ。もしかしたらあの時話してた奴がレナに余計な事を言ったのかも、って不安になったんだけど、レナに確かめる勇気もなくて……」


「相手が誰だったか知らないけど、その子は何も言ってないわよ」


焦ったように当時の事情を説明したウィルに、レリアナはウィルの友人の濡れ衣を晴らしておく。


「レナ……君が優しいのは知ってるけど、出来ればそいつの事じゃなくて、僕の気持ちの方を気にしてくれると嬉しいんだけど」


「あ……そうね。あの時は私もあなたの事が気になっていたから、当時あなたの気持ちを知っていたら嬉しかったわね」

「え!」


「自分を気になっていた」というレリアナの言葉に一瞬喜んで顔を明るくしたウィルは、「当時は嬉しかっただろう」という過去になった言葉に顔色を変えた。



そんなウィルを眺めていたレリアナは、おかしくなって笑い出す。

「ウィルがそんなに表情豊かだったって知らなかったわ」


「レナが僕の事を見てくれてなかっただけだろう?僕だけじゃなくて、誰の事も見てなかったじゃないか。あんなにみんなに「レナ」「レナ」って呼ばれて誘われてたのにさ」


不貞腐れたように話すウィルに、『確かに誰の事も見てなかったかも』とレリアナは思った。だけどあれは誘いではない。


「課題を助けて、って言葉しか聞かなかった気がするけど」


レリアナが肩をすくめると、ウィルが呆れた顔になる。


「課題を理由にしなきゃ、すぐに帰っちゃうからだろう?だいたい学食グループだって、元々はみんながあの子に「レリアナを紹介してほしい」って頼んだ事から出来たグループだったのに……本当に気づいてなかったわけ?」

「うーん……」


それは全く真実味がない話だ。

あれだけの美人を差し置いてレリアナの方を望むなんて、レリアナにヒロイン補正みたいなものがかからない限り無理な話じゃないだろうか。


「でもまあ……私をレナ呼びする男子だけは好きにならない、って決めてたしね」

「え!……なんで?」


ウィルがあまりに驚いた顔をするので、レリアナの方が驚く。


「レリアナと区別するためにレナ呼びする人を、好きになる訳がないでしょう?」

「反対じゃないか!レナの方が愛称呼びで近い感じがするだろう?」

「……そうかな?」

「そうだよ、レリアナ」

「そこはレリアナ呼びなんだね」


突然にレリアナ呼びになったウィルに、『こんな面白い人だったっけ?』とレリアナは吹き出した。


しばらく惚けたようにレリアナを見ていたウィルが、ゆっくりと噛み締めるように話し出した。


「レリアナ、君が好きなんだ。……ずっと好きだった。僕の迂闊な言葉を謝らせてほしい。本当にごめん。

レリアナはいつも「学園を卒業するまでは恋愛はしない」って言ってただろう?やっと卒業して、いざ告白しようとしたら、卒業したその日に、行き先も言わないまま外国に行くなんて酷すぎないか?」


「え……でもレリアナはどうするの?」

「彼女は関係ないだろう?」


そうだ。ウィルは私が好きだと言ったんだった。

あまりに長くウィルは友人レリアナの事を想ってると思い込んでいたから、動揺してよく分からない事を言ってしまった。

ウィルが話した、思わず言ってしまったとはこういう感じだったのだろうか。


「彼女は関係ない。レリアナ、君だけだ。どうしてかは分からないけど、君だけに惹かれるんだ。君に受け入れられなかったとしても、僕は一生君への想いは変わらないと思う」


――ウィルの思いが重い。

『だけどこれがもし、ヒーロー所以のものだとしたら』とレリアナは考えた。


もうホシアイの記憶は薄れてしまったけど、前世のレリアナが好きだったホシアイは、山も谷もない安心安全なストーリーだった。


そこにヒロインの容姿についての描写もなかったはずだ。友人のレリアナがヒロインだというのは思い込みで、ウィルの気持ちは本物かもしれない。

だったら、ウィルの告白でドキドキし出したこの気持ちに向かい合っても良いような気がする。



「えっと……すぐに答えは出ないかもしれないけど、ちゃんとウィルの事を見ていくわ。

ごめんなさい。いい加減な返事はしたくないから、今はこれだけしか答えられないけど……」

「十分だよ」


はあああと安堵の息を大きくついたウィルが、嬉しそうに笑った。


「実はどんな結果になってもレリアナの近くにいようと思って、この国で仕事を見つけたんだ。これからは毎日レリアナを誘うよ」



――やっぱりウィルの思いが重い。

それでもその言葉が『嬉しい』と思ってしまうのは、早くも気持ちがウィルへ向き始めているからなのだろうか。


あまりにも長い間恋愛に慎重になり過ぎて、自分の気持ちの動きのひとつひとつを確認してしまう。

レリアナは、山も谷もない安心安全な恋愛が理想的だと思っている。できれば自分の気持ちを間違えたくはない。



「次の星祭りこそレリアナと一緒にいきたいな」と、まだまだずっと先の星祭りを楽しみにする言葉を話すウィルを眺めながら、『ウィルと一緒に行く次の星祭りが自然と想像出来てしまうのは、ウィルに惹かれ始めてるからなのかしら?』とまたレリアナは自分の気持ちを確認する。


星祭りはレリアナにとって、前世でホシアイを読んだ時からの憧れだ。初めての星祭りは特別な人と行こうと決めている。

「星祭り楽しみだわ」という言葉は、今はまだ返すことはできないけど、返す未来は何となく近いような予感がする。

そう思うだけでドキドキするこの気持ちに間違いはないだろうか。




「適当に私の好きな料理を頼んじゃったけど、嫌いなものはなかった?ウィルはどんな料理が好きなの?」


『星祭りの事は未来の自分が考える事だわ』とひとまず流して、レリアナは急に気になってきた事をウィルに尋ねた。







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― 新着の感想 ―
このお話が好きで、定期的にもう10回以上は繰り返し読んでいます。 レリアナが過去のことを謝られて、あっさり気にしてないと返す場面が大好きです。 強くかっこよく成長したレリアナに、ウィルはかなり物足りま…
自分の足で歩き始めたレリアナと比べてウィルは子供っぽいし他責思考なのが鼻につきますね^^; 相当頑張って成長しないとレリアナとは釣り合わなさそう^^;
これは誰とも好感度が上がらなくてくっつかずにノーマルエンドになってしまったお話だなと感じました 山も谷もないストーリーでもエンドを迎える期限はありますから、すぐに外国へ行って接触がなくなるあたり卒業が…
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