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2039年11月 真昼に差す影

 職員室は落ち着かない。叱られているわけでもないのに、無駄に緊張してしまう。

 教材やプリントが乱雑に並んだデスクの前に座る担任教師は、腕を組んでじっと考え事をしていた。担任はため息を吐いて、ゆっくりと口を開く。


「竹田、本気で志望校変えるのか」

「はい。親にも言いました」

「親御さんはなんて?」

「好きにしたらいいって」


 担任は渋面になったが、僕は嘘をついてない。両親は進路に関して割と放任主義で、僕に意見しことはほとんどない。まして今回は僕から受験したい高校があると申し出たので、反対される要素はなかった。

 最初から難色を示すのは担任だと想定していた。なにせ僕が進路先に選んだ城南高校はそれまで志望していた桃井第三高校よりも偏差値が上で、今の成績だと不合格になる確率の方が高い。十二月という時期に危ない橋を渡るのは普通に止めるだろう。


「親御さんの理解があるのは良いことだ。でも先生は少し心配でな。お前もわかってると思うが、城南を目指すには今の成績だと心許ない。二月下旬の一般入試までに仕上げられるのか?」

「正月休み返上で頑張ります。寝ずに頑張ります」

「簡単に言うがなぁ……しかし、なんでまた城南に? 確かにあそこは部活も課外活動も力を入れてるし、名門大学の合格率も高い。それでもお前が選んだ志望校だって悪くはないんだぞ」

「わかってます。でも、どうしても諦めきれなくて。自分に何ができるか、試したいんです」


 担任は薄くなった頭を撫でた。


「心意気は立派でも、行けるかどうかは別問題だぞ竹田。安全牌を選べとは言わんが、無謀な挑戦をする必要だってないんじゃないか?」

「無謀かどうかはこれからの努力で決まると思います。それにまだ二ヶ月くらいは時間ありますし、挽回できるかなって」


 担任はじっと僕を見つめてきた。値踏みするような視線には、僕に対する迷いがある。きっと心配もしてくれているんだろう。

 だけど僕は決めた。自分の可能性を広げることを。

 勉強という面では全員にチャンスがある。もちろん勉強の分野にも天才はいるだろうが、知識が増えれば単純に選択肢も増える。

 それに、順調にステップアップして名門大学を出たら、きっと真昼の隣にいても遜色ないはずだ。学歴を重視する奴は嫌いだけど、やっぱり真昼と比べられることを思うと、ちょっとでも見栄えを良くしておきたい。

 どうしたって僕は普通の人間だから。


「――よし、わかった」


 吹っ切れたように言って、担任が膝を叩く。


「お前がその気なら先生も応援しよう。頑張れ」

「ありがとうございます」

「冬は入試対策を兼ねた補習をするから参加しなさい。もちろんわからないことがあったらいつでも聞きにきていいから」


 僕はもう一度礼を言って頭を下げる。それから職員室を出て、拳を握りしめた。

 これで障壁はなくなった。もちろんこれからが大変だけど、気兼ねなく進められる。


 ――とりあえず苦手科目に集中しないとな。


 頭の中で今後の受験対策を練りつつ教室に戻ろうとしたとき「あっ」という声が聞こえた。

 視線を向けて、幼馴染の姿を確認する。


「なんだ、お前も職員――」


 いつもと違う様子に声が詰まった。

 真昼の目が腫れていた。まるで泣き腫らしたみたいに充血している。


「どうしたんだよ、その顔」


 声をかけると、近づいてきた真昼が自分の目元をこすった。


「え、あ、これ?」

「なにかあったのか」

「えーと……実は、感動系の映画を見てて、夜通し泣いちゃって……えへへ」


 真昼は誤魔化すように頭を掻いた。何となく歯切れの悪い感じだ。

 訝しんでいると真昼は僕の横に来て片眉を上げる。


「あれ、春ちゃん。今回はどんなオイタしたの」

「今回どころか一回もないっての。ちょっと進路相談にな」

「受験のこと?」


 頷くと、真昼は「頑張ってね」と微笑する。


「僕の用は終わったけど、真昼は?」

「あたしは、留学の手続きを、先生に相談に……」


 言いながら真昼が俯く。やっぱり少し変だ。

 僕は廊下に誰もいないことを確かめてから、真昼の頭に手を置いた。


「気になることがあるなら遠慮なく言えよ? 話くらい聞くし」

「……うん。ありがと、春ちゃん」


 頭をわしわしと撫でると真昼がはにかむ。

 やっぱりいつもと違う。普段はこうすると髪型が崩れると言って怒るのに。

 手を離すと真昼はささっと髪型を整えて、職員室のドアに手をかけた。釈然としなかったが職員室の前では聞きにくい。

 僕が一人教室に戻ろうとすると「春ちゃん!」真昼が呼び止めてきた。

 振り返る。真昼はなにかを言いたげに口を開いているが、そのまま固まっていた。


「どした?」


 促すと、真昼はにへらと笑って首を振った。


「ごめん。なんでもない」


 真昼は手を振って職員室に入っていった。

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