六、朝の物語。
…いい朝だ。
異世界に召喚されたものの、屈辱的な仕打ち等すっかり忘れて、疲れた体を休ませる事ができた。
隣のベッドで眠っている美しい女神カグヤ様のあられも無いひどい寝相にも全く腹は立たなかったし。
父上様、母上様、光太郎は幸せです。
光太郎はもう、悲しみません。
さて、これからどうするか。
「おはようさん、ダーリン」
「おはようございます、カグヤ様」
「なんじゃ、お主は『ハニー』と呼んでくれんのか」
…相変わらずブレない方だ。
「ではハニー、そろそろ出発しましょう」
「ええー…もうひと眠りしようぞ…ワシはまだまだヤリ足りんぞ」
「誤解を招くような言い方しないで下さい。何にもしてないでしょうが」
「ワシはあんな激しい夜を過ごしたのは生まれて初めてじゃったな」
「寝相の事ですか?」
「あんな体勢にさせるとは…」
「だから寝相の事でしょう」
「何度イッたか全く覚えとらんぞ」
「寝言ですね」
…なんで異世界で女神相手に漫才をせないかんのだ。
「出発するのは良いが、これからどうするつもりなんじゃ?」
「とりあえず昨日ダンジョンで見つけた魔石を売ってギルドのオネーサンに相談してみるつもりです」
「結婚の?」
「違いますってば。これからの事をです」
「やっぱり結婚の事では無いか」
「ブレませんね…そうじゃなくて、この国を出る為にはどう行けばいいかとか、何日かかるかとです」
「なんじゃ、お主は魔王討伐の旅には行かんのか」
「言ったでしょ。レベルゼロの僕が魔王を倒すより勇者君に任せた方が早いって。だから僕はその間、目立たず騒がず、安全な場所でひっそりと過ごしていたいんですよ」
「欲の無い男じゃのう、お主は」
「僕には魔王を倒す力も、魔王に匹敵する力も全く無い一般人以下の存在ですから」
「そんな事は無いぞ、少なくともわしにとっては」
「ありがとうございます。さ、行きましょう。僕たちの新居を見つける旅に」
「おう❤️」
なんとも情けない冒険記ではあるが、僕には勇者を凌駕するチート能力もない。
モンスターに慕われて未開の地に王国を築く術を持ち合わせているわけでもない。
…ただこの後、とんでもない大事件に巻き込まれる、いや…巻き起こしてしまっていた事に僕はまだ気付いていなかった。