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四、女神の物語。

何故だ。


何故モンスターに出くわさない?


いくら僕がレベルゼロだとしても、一匹くらい現れそうなもんだろう。


なのにダンジョンを進めども進めども、モンスターに遭遇しなかった。


ギルドのおねーさんはこのダンジョンにモンスターが出ると言ってたのに。


一方、おそらく価値のそんなに高くない魔石はすぐに見つかった。


これならモンスターを倒さなくてもしばらくは生活できるだろう。


それと、考えれば分かる事なのだが、ダンジョンには宝箱は無かった。


そりゃそうだ。


冒険者が一度開けてしまえば、誰かが補充してくれるはずが無いのだから。


どれくらい進んだ事だろう。


奥から誰かがやってくる声が聞こえた。


(ヤバ…)


別に隠れる必要は無いのだが、僕は咄嗟に脇道に潜んだ。


声が近付いてくる。


でも、僕には気付いていないようだ。




「いやあ、さすが勇者さまだ」


(勇者…?)


それは僕と同じ召喚者、勇者中野幸太朗様御一行だった。


中野幸太朗君はどうやら僕より先にこのダンジョンに来ていたらしい。


彼はごっつい戦士と物知りそうなじいさんと、可愛らしい魔法使いのパーティーを組んでいるようだ。


いいなぁ…本当の勇者様は。


これならきっと魔王を討伐してくれる日も決して遠く無いだろう。


「それにしても、何故今日に限ってモンスターが現れ無いのでしょうか?」


「きっと勇者様に恐れをなしているのでしょうや」


…なるほど。


合点がいった。


モンスターはこのレベルゼロの僕に怯えていたのでは無かった。


勇者様に怯えて身を隠しているのだ。


「さあ、急いでダンジョンを出ましょう!」


彼らの姿が見えなくなってから、僕はダンジョンを再び進み出した。





…別に悔しくなんかないんだからねっ!


そう自分に言い聞かせて。




(おっ?ここか?)


そこは巨大な石が五つ並んだ広場だった。


その巨石には火、土、水、風、雷の紋章が刻まれていた。


ここで、貰った紙に書かれている言葉を唱えればいいのだな…。


フフ…。


実は僕にはとある考えが浮かんでいた。


この世界の人にはわからないだろう。


読んだ事が無い人にはネタバレ御免。


これはシャーロック・ホームズの『マズグレーヴ家の儀式書』だ。


つまりこの紙に書かれている事は単に唱えるのでは無い。


行動にうつすという訳だ。


まず火の岩の前に立ち、次に土の岩へと向かう。


そして今度は水の岩に向かって歩き出し、次に風の岩へ。


最後に雷の岩の前に立つ。


これは五芒星、つまり一筆書きの星形である。


ゴゴゴ…。


思った通り。


奥にあった岩壁が開き、通路が現れた。


きっとこの中にはすごいレアアイテムがあるに違いない。


期待に胸膨らませ、中に入った。


だが、そこに待っていたのはレアアイテムでは無かった。


一人の可愛らしい女の子だったのだ。


「なんじゃ…100年ぶりに客が来たかと思っておったらまさか今日2人目がやってくるとは」


2人目…?


あっ‼︎


そうか、勇者幸太朗君もここに来ていたのだ。


だから仲間が『さすが勇者様』と言っていた訳だ。


くそ…勇者様、本当にスゲーな…。


「どうした?若者よ」


「ああ…あのえーと…貴女さまは…一体?」


「わしはカグヤ。知恵と力と美貌を兼ね備えた女神じゃ。若者よ。何でも好きな願いを一つ、叶えてやろうぞ」


おお!


自分でよく言えるなとは思ったが機嫌を損ねては困る。


とにかくそれはありがたい事だ。


ではレベル1…いや2にしてもらおうか?


…何をしみったれた事を言っとるんだ、僕は。


勇者様は召喚された時にもうすでにレベル5だったんだぞ?


「ちなみに…先程の勇者様は何を望まれたのでしょうか?」


「最強の武器が欲しいと願っておったな。なので最強の剣を与えてやった」


最強の剣か…。


僕には必要の無いアイテムだ。


いくら剣が最強でも腕が伴わなきゃ意味がない。


しばらく考えていた僕の頭に閃いた。


駄目だ、と言われるかも知れないが、この女神様に僕と一緒に旅に同行してもらう訳にはいかないだろうか?


女神様なら強いだろうし、僕一人では心細い。


僕にも仲間が欲しい。


ただ問題があるとすれば、この美貌を兼ね備えた女神様に僕自身が免疫がない事なのだが。


「どうした?早く望みを言わんか」


急かされた僕は慌てて言った。




「あの…僕に付いてきては頂けませんか?」





女神様の顔がみるみる真っ赤になるのがわかった。




やばい。


怒らせてしまったか。


「お前…本気で言っておるのか?」


今更否定してはどうなるか分からない。


「ハイ、本気です。僕と一緒にいて欲しいんです」


しばしの沈黙の後。


「まさか…100年ぶりに現れた人間にプロポーズされてしまうとは…」


プロポーズ⁉︎


あっ⁉︎


まさか僕の仲間になって欲しいという願いを勘違いさせてしまったのか?


「えーと…あの…女神様!そういう意味じゃ無くてですね」


「照れなくとも良い。わしの美貌に見惚れるのは仕方のない事じゃ」


やばい。


聞いてくれやしない。


「あいわかった。人間よ。お前と夫婦になってやろうぞ。どうせまたここに人間が来るのは何百年後になるかわからんしな」


そう言うと、僕が告ってしまった女神カグヤ様は僕と腕を組むと、何やら呪文を呟いた。


シュン!


一瞬にしてダンジョンから外に出た。


ゲームなんかでは当たり前の呪文だが、さっきの勇者様御一行は歩いてダンジョンを出たのだから、この世界ではすごい呪文なのかも知れない。


こうして僕は初めての冒険で、最強の女神の奥さんという宝物を見つけてしまった…。


クサッ…。


















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