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記憶を見る鍛冶屋  作者: 湿気
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プロローグ

…よくあの日の夢をみる。


数年前、魔王が世界を滅ぼそうとした戦争の記憶。

目の前で死んだ妻、村の人間、魔物達の優越に満ちた顔。

思い出すだけで胸が苦しくなる。

毎回、どれだけ足掻いても妻は死んでしまう。そして最後には「あなたは悪くない」そう言って私が罪の意識に苛まれないようにと優しい笑顔で私を見つめている。夢の中ですら何も変えられない自分。酷く惨めで、死んでしまいたくなる。


そんな夢だ。


 今日もあの夢を見て目を覚ました。カーテンの隙間からうっすらと光が差し込んで部屋の中を照らす。時間は夜明けくらいだろうか。体を起こし少しぼんやりしてみると、冬の寒い空気がすぐに全身を包む。寒さに耐えながらベットから出て顔を洗う。井戸から汲んでおいた水も当然冷たく、思わず声が出る。

 着替えて家の前に出ると、外はまだ太陽が顔を出したばかりのようで、冷たい空気と人気のない静かな町並みがあった。

「あら、ヴンシュさんおはよう。いつも早いわね」

家から出てきた隣のおばさんと軽く雑談する。この街の人間は優しい人が多く、何かと気遣ってくれる。素性の知らない私が店を開けているのもこの街の人々のおかげのようなものだ。

 家に戻る時にドアの前の看板をひっくり返し「open」の文字を見えるようにする。カウンターを抜けて、暖炉と溶鉱炉に簡易魔法の詠唱をして火をつける。勢いよく音を立てて燃え上がり、店の中が明るくなった。エプロンをつけて、最後に店の奥に大切に飾ってある鞘にしまわれた1本の剣を撫でる。

「今日も頑張るから、見守っていておくれ」

 そう言って私はカウンターの席に座った。空はどんどん明るくなり、外が騒がしくなっていく。1日が始まったのだ。


 この鍛冶屋は街の王都の中心から少し離れたところにぽつんとある店で知名度も低く、客足も少ない。たまに客が入ってきたかと思えば、私の作った剣をみてから鼻で笑って帰るか、私に文句を言ってくる。

 ガチャリと勢いよく扉が開く音がなり、ガタイの良さげなスキンヘッドの戦士っぽい人が入ってくるなり大剣に目を通した。1本の大剣をとり、鞘を抜いてすぐ戻した。

「おい兄ちゃん」

スキンヘッドは手に取った大剣を持ってズカズカとカウンターに向かってきた。

「はいお客さん、どうかなさいましたか?」

私は得意な営業スマイルで返事をすると

「こんな刃先ぐにゃぐにゃな大剣売ってて大丈夫か?」

「はぇ?」

自慢の営業スマイルが崩れた。

「いやはぇ?じゃなくて…こんなんどう見ても切れ味悪いだろ!てか刃先ボロボロじゃねぇか!」

「お客さんそんな訳ないですって、私の作る剣はよく切れるし長持ちするんですよ」

そう言ってムキになった私は自信満々に試し斬り用の人形を取り出す。さすがに切れ味を確かめるものなので柔らかめの木で作ったものだ。

「そんなに疑うならこの人形で試して見なさいよ!」

「よし!見とけよ!」

スキンヘッドは大剣を構える。私が可愛く作ったくまさんの人形を切るのを躊躇ったのか優しめに剣を振った。すると、コツンという軽い音とともに、大剣が木っ端微塵になった。くまさんは元気そうだ。

「ほーら言っただろ!この大剣は切れ味も耐久力もないって!てか脆すぎだろ…」

「あー!店の商品壊したー!頑張って作ったのにー!あーあ!」

ちょっと大袈裟に言ってみると

「いやいやいや!お前がやってみろって言うから…!」

スキンヘッドが大慌てする。面白い。

「あーあ!これは衛兵さんにお世話にならなくちゃかなー!」

そう言うとスキンヘッドは「クソっ」と吐き捨てて帰って行った。やはりいくら強くても法律には勝てないのだ。

 店の中がまた静かになり、私はちりとりとほうきをとり、木っ端微塵になった剣であったものを片付けた。やってる事がしょうもない自覚があるので何となく、天国から見てるであろう妻にちょっと申し訳なく感じた。

 片付けが終わるとまたガチャリと扉が開いた。今度はゆっくりと静かに開かれた。入ってきたのはまだ成人したばかり位の少年だった。皮の軽鎧と短剣といういかにも駆け出し冒険者って感じだ。少年は真っ直ぐカウンターへ歩いてきた。

「あの、すいませんこの鍛冶屋って…魔石を加工できるって聞いたんですけど」

「…できるけど高くつきますよ?」

 そう言うと少年はパンパンに金貨が詰められた袋と1個の紫色の魔石を出した。しかも片手で掴む位の大きさの魔石だ。そこそこ大きい。少年が倒したモンスターのだとすると、彼はかなりの強者かもしれない。そんなことを考えながら、私は魔石を手に取り少年に言った。

「君、この魔石って結構大きめのモンスターのだよね?君強いんだね」

「いや、これは…」

少年は何か言おうとしたがそこから言葉が出なくなり沈黙が続いた。

「…お金は足りてるし作るけど時間を貰います。夕方くらいにまたこの店においで。短剣でいいですかい?」

「…少し長めの、軽い剣でお願いします。…なるべく壊れない、ずっと持っていられるようなものをお願いします。」

少年は少し悲しそうに言って店を出た。私は扉の看板を「close」に戻して奥の作業所へ向かった。


 机の上に魔石を置いて、手をかざし、少量の魔力を送る。すると魔石は光出して魔力を通じて情報を見れるようにする。

 魔石は全ての生きる生物の中にある魂のようなもの。人間も例外なく魔石を持っている、基本的に使い道がなく、ほとんどは墓に死骸と共に飢えられる。私は神から授かった力でこの魔石に込められた記憶を読んだり、魔石を武器に取り込ませたり、自分を一時的に強化したりすることができるのだ。

 


 魔石の光は増していき、次第にこのモンスターの記憶が、私の中に入ってくる。


 これは、そんな鍛冶屋ヴンシュの見る、魔石達の物語である。

 


最後まで読んで頂きありがとうございます。

今回から小説を書かせていただきます。この物語のメインは主人公のヴンシュですが、記憶の中の人物視点で描かれますので、話によって主人公が変わっていきます。ほぼ短編集見たいに書けたらなと思っています。

アドバイス等頂けると嬉しいので沢山お願いします。

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