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『じゃあ取り敢えず!
広いイイ感じのマンションに
引っ越しちゃいましょう!』
「けど、夜だよ?
無理じゃない?」
『あ~、確かに。
んじゃあ明日かな。』
「そうしよっか。
今日どうする?
僕の敷布団でいいなら貸すけど…」
『え、いいの?』
「いいよ?星藍がいいなら。」
『でも、茜兎は?』
「ん~、床で寝ようかな…」
『え゛、それはダメ!!
私が床で寝る!』
「いや駄目でしょ。
星藍が寝て。」
『やだ!
茜兎が床で寝るなら私も床で寝る!
……や、寝ない!』
「なんで!」
『嫌なものは嫌!』
「……じゃあ一緒に寝る?」
『…え…?』
「んはは、何その反応。
僕が床で寝るの、ヤなんじゃないの?」
『や、だ、けど、茜兎は、良いの?』
「何が?」
『いっしょに、ねるの。』
「良いよ?一緒に寝たい。
だって星藍と会えたの久しぶりだし、
もう少し星藍と居たい。
星藍は居るんだって、存在してるんだって事、
もっと感じたい。」
『そう、だよね。
っじゃ、あ、寝よっか。』
「ん。じゃあ布団出すから、
ちょっと待ってて。」
『っ分かった!
待ってる!』
布団出すといっても、広げるだけなんだけど。
昨日コインランドリー行って
洗濯しておいて良かった。
「はい。枕無いけどごめんね。」
『ありがと…』
「じゃあ、入って。」
僕が先に布団に入って、
手で布団を持ち上げて手招きをする。
何時の間にか翼と輪を仕舞っていた星藍は
ギクシャクしながら布団に潜った。
心臓がきゅ〜、って、した。
「ね、星藍。」
『な、に?』
僕には背中を向けていて顔が見えないから、
どんな表情してるか分かんない。
「抱き締めてもいい?」
『んぇ!?』
「わ!びっくりした…」
『あ、ごめ…』
「ははっ、いいよ。
ね、いい?」
『…いい、よ。』
「ん、ありがと。」
星藍のお腹に手を回して抱きつく。
細い、けど健康的な細さだったから安心した。
あったかい。
背中から心臓が動く音がする。
僕のも、共鳴してるけど。
『ふ、んふふ。』
「ちょ、何笑ってんの?」
『んや、茜兎の心臓、めっちゃどくどくしてて、
んははは!』
「んなっ…!
なら星藍もじゃん!!
凄い速い、しかもうるさい…」
『ごめん、ごめん?
ん?』
「ねえ頭回ってなさすぎでしょ、っはは!」
『へへ、むり、ねむい…』
「いいよ、今日はもう寝よ。
明日もっと話そ?」
『んー、ありがと…おやすみ…』
その言葉を境に、すう、すう、と
規則的な呼吸音が声の代わりに星蘭から流れた。
ああ、落ち着く。
誰かと寝るなんて久しぶりすぎて、
忘れていた。
こんなに暖かいんだ。
こんなに嬉しいんだ。
こんなにも、愛おしいんだ。
あ、ご飯食べてない。
まあいっか。
重力に絆されて、
涙がシーツに染み込んでゆく。
いつか、一緒に居ることが当たり前と化して、
このシーツが今のような涙で染まるくらい、
星蘭に相応しい僕に為れるのかな。
静かな部屋、役目を果たした電球、
半開きのカーテン、漏れる月明かり、
静かに鳴り響いた、互いの心音、呼吸音。
いつか訪れる未来の、あなたの笑顔のために。