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15.最後の対話

 部屋に閉じこもって、ぼんやりしていた。私は眠っている女のことを思い出していた。彼が捕らえられてしまったら、あの女はどうなるのだろう? そんなことを考えていたが、私にはどうすることもできなかった。私は命じられるままに沢村巧と<エモーション・ジェネレーター>の調査を行い、報告を終えた。その報告に基づき彼が排除されるのであれば、私にも相応の責任はあるに違いなかった。だがそんなことを気にしていたら仕事にならなかった。それに彼にしても、あの女を目覚めさせるために私が大切にしていた思い出を利用していたようだった。それはとても腹立たしいことだった。だが、そこまでして尽くそうとする彼のことを考えると、私の思い出が何かの役に立つのならという寛大な気分にもなった。よろしい。認めよう。私はあの人たちのことが気になって仕方がなかったのだ。私はすぐに出掛けることにした。

 都会の喧騒から逃れた施設では次の研修が始まっているようだった。今回も<エモーション・アナライザー>で不利益を被ったと考えている人々が自然と集まって来ているようだった。そして沢村巧は、集まって来た人たちが心の奥底に大切にしまい込んでいる話を聞き出し、眠っている女に語り掛けるに違いなかった。研修室の一番後ろの席に座っている私を見つけて、彼は少し驚いていた。講義が終わり、人々が去って行った研修室に彼と私は残っていた。

「<エモーション・アナライザー>はあなたを許さないようです」

彼の眼をじっと捉えたまま私は言った。

「そうですか」

彼はぽつりと言った。特に驚いた様子はなかった。こうなることは前からわかっていたという様子だった。

「あなたが去った後にわかったことですけどね。恵の部屋にカメラと盗聴器が仕掛けられているのがわかったから、そういうことかと思っていました」

「すぐに逃げてください」

そんな言葉が出て来るなんて自分でも驚いた。彼はじっと私を見つめていた。

「ご忠告ありがとう。そうですね。仰る通り、逃げた方が良さそうですね。でも逃げ切れるものでしょうか? 逃げても私が同じことを続ける限り、私は追いかけられるということですよね? それだと同じことです。私は止める訳にはいかないのです」

「あの女のためにですか?」

彼を問いただす私の言葉には少し嫉妬が混じっていたかもしれなかった。

「そうです。私は<エモーション・アナライザー>から逃れたいという人を集めて、その人たちの記憶の中に留まり続けている大切な体験について聞きだしていただけなのです。もちろん感情を読み取られたくないという目的は果たしていますので、まるっきり騙していたという訳ではありません。でも、私はもう疲れてしまいました。もう一度、彼女の笑顔を見たいと思って続けて来ました。でもどんな言葉も、どんな体験も彼女を目覚めさせることはできませんでした。あなたに聞いたことも彼女に話して聞かせました。すみません。あなたの大切な思い出を私は自分のために利用していました」

いまさらそんなことはどうでも良かった。そんな思い出なんていくらでもくれてやると思った。

「すみませんが私がいなくなってしまったら、彼女を病院に運んでもらえませんか? お金はあります」

彼はまもなく捕まってしまうだろう。その時、あの女をそのままにしては置けないのは確かだった。

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