14.報告
セキュリティカードをかざしてエレベーターホールに入る。白い大理石の廊下。ブロンズの彫刻が飾ってある。閉じた扉の横に立ち、上層階行きのボタンを押す。扉の上にある数字が次第に減って来て、やがて一階で止まる。小さなベルの鳴る音がして扉が開く。誰も乗っていない。商業施設とは違って、ここに用事のある人間は極めて限定されている。エレベーターに乗り込み、最上階のボタンを押してから扉の閉ボタンを押す。観音開きの扉が閉まり、空高くそびえたつ建物の中をエレベーターは静かに昇って行く。その国の経済発展のレベルを誇示するような高層ビル街。こんな場所にはろくな連中が集まらない。地位と権力を求めてやって来るあさましい連中ばかりやって来る。やがてその傲慢が神の怒りに触れて高層ビルは破壊され、人々は互いのしゃべる言葉がわからなくなり世界は混乱に陥るかもしれない。きっとあの話は何処かで本当にあった話に違いない。そんなことを考えていると、また小さなベルの鳴る音がした。空想の中にいた私は我に返る。扉が開く。エレベーターを降り、フロアを抜けてしばらく歩き、会議室の扉の前に断つ。カメラに視線を向け、生体認証をクリアする。すでに数人が着席している。正面に大きなスクリーンがある。スクリーンの画面は分割され、リモートの参加者を映し出している。私もリモートで参加したかったと思いながらしばらく待つ。
「定刻になりましたので始めたいと思います。それでは江田さん、よろしくお願いします」
司会者に促されて私は報告を始める。
「それでは<エモーション・ジェネレーター>の調査結果について報告いたします」
私は潜入捜査で得た情報について説明を始めた。
「表情は現在の身体の状態を反映しているものですが、<エモーション・ジェネレーター>は<エモーション・アナライザー>の存在を検出すると感情と深く結び付いた記憶を表情と直結させてしまいます。そうすると<エモーション・アナライザー>は本当の感情を読み取ることができなくなります」
「そういうことでしたか。<エモーション・アナライザー>が機能を発揮できなくなるというのであれば、早急に対策を打たねばなりません」
私はただ指示に従うだけだった。プライバシー侵害という事実に躊躇することなく、<エモーション・アナライザー>を使いたいと考えているどこかの偉い人たちの意向に沿って、障害になるようなことは排除するのが私たちの仕事だった。
「私たちに敵対する者の存在を許す訳にはいきません」
会議室は憤りの声で溢れていた。だが私は、あの部屋で眠っている女に語りかけている沢村巧のことを知ってから、彼が私たちに敵対しようとしているとは思えなくなっていた。「あなたの報告によれば、その沢村という男を排除してしまえば、<エモーション・アナライザー>を妨害することはできなくなってしまうと考えられます。調査はこれにて完了とします。ご苦労様でした。あとのことは処置しておきます」
司会者は言った。今回の私の任務はこれで終了だった。いつもながら達成感とか充実感のようなものはなかった。




