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三題噺もどき

おにぎり

作者: 狐彪

三題噺もどき―ひゃくじゅうご。

 お題:懐中時計・泣く・コンビニおにぎり




 薄暗い雲が空に浮かんでいた。

 その雲は所狭しと蠢き、空の青を覆いつくしていた。

 どこまでも青く広がるあの空を、その不穏な暗いくらい色で隠していた。

 まるでお前には、この美しさなど分かるものかと、見せてなるものかと言わんばかりに。

「……、」

 天気予報ではどこかから台風が近づいて来ていると言っていたから、その影響だろう。

 過ぎればまた、あの美しい青を見せてくれる。

 薄暗い雲という名のヴェールに包まれたあの姿を。

「……、」

 しかしホントに雲行きが怪しいな…。

 もうすぐ雨でも降るのだろうか。

 今日は特にすることもなく、家でゴロゴロしていたのだが、さすがに食欲には抗えなかった。

 リビングのソファで寝そべっていたところに、お気に入りの懐中時計モチーフの時計が昼時を教えてくれたのだ。

 それとほぼ同タイミングで腹の虫が鳴いたので、昼飯にでもと動き出したのが、数分前の事。

 我が家の冷蔵庫の中に大した食材が入っていなかったため、作る気にもならず、コンビニでも行こうかと、外に出たのが今。

「……、」

 しかし、見上げてみれば空は御覧の通りの雲。

 しかも今にも雨が降り出しそうな。

 若干雨独特の匂いが鼻をついている。

 これが蛙や蝸牛であれば歓喜しただろうが、あいにく人間で、かつ雨というものがあまり好きではない。

「……、」

 どうしたものかと少し逡巡したものの、やはり三大欲求である食欲には勝てぬようで、早くしろと鳴いている。

 寝てしまえば割とどうにかなるのだが、そもそも腹がすでに減っている状態であれば、ろくに眠れもしない。

 以前同級生に、寝てれば食べなくて済むからいいと言われたこともあるが、そもそも前提が違うので、今回は適応されない。

「……、」

 キュゥ―と可愛らしい音を立てる腹を落ち着かせるために、コンビニへと向かう決心をした。

 車のキーを探し、家の鍵を閉め、車に乗り込む。

 エンジンをかけながら、どこのコンビニに行こうかと考える。

 ありがたいことに、近所には三か所ほどあり、それぞれが異なる店舗のため、コンビニ選びには悩まない。

「……、」

 よし、今日はあそこのおにぎりと、味噌汁でも食べることにしよう。

 そうと決まれば早い。

 ハンドルを操作しながら、目的地へと向かう。

 道中腹の虫が喚き続けたが、到着したころには大人しくなっていた。

 そしてついでに、雨もポツポツと降り始めていた。

「……、」

 たどり着くや否や、エンジンを切り、そそくさとコンビニに入る。

 自動ドアをぬけ、そのまま真っすぐにお弁当のコーナーへと向かう。

 働き者の社会人が来るよりも、ほんの少し早い時間だったのか、種類は豊富に取り揃えられている。

「……、」

 インスタントの味噌汁にしようと思っていたのだが、温めて食べる豚汁があったので、それを手に取る。

 ここの豚汁は具沢山でなかなかに腹が満たされるのだ。

 自分が豚汁好きということもあるが。

 あと、外に出たら存外寒かったので温かいものが食べたい。

 と、考えつつもカップアイスを見ること数秒。

 いつものお気に入りを手に取る。

 おにぎりは、高菜とおかかの二個。

 ツナマヨという選択肢もあったが、ここ最近味が濃ゆいと感じるようになってしまい、以降口にしていない。

 同じような理由で、数々ある変わり種は食べられない。

「……、」

 そういえば、おにぎりといえば、かの有名な神隠しの長編アニメ映画を思い出すのは自分だけだろうか。

 よくあんなにも美味しそうに見えるものだと思うのだが。

 ただの塩握りだと思うが、自分が主人公の立場だとしても…泣くな、あれは。

 それはもうボロボロと泣くだろう。

 私は案外涙もろいのでよく泣くのだ。

 昔はそうでもなかったような気がするのだが、きっと年を取るごとに涙腺が崩されていったのだろう。

 昔は泣いたことなかったような映画などの再放送を見ても、泣くことが多くなった。

「……、」

 あれがこのコンビニおにぎりだったら、泣くに泣けなそうだけどな…。

 そう考えると笑えて来てしまう。

 あの笹で包まれたものを開いたら、ビニールに包まれたおにぎりが出てくる。

 裏面にはおにぎりに使われている材料とか化学調味料とかの詳細、カロリー、賞味期限とかがびっしりと書かれている。

 表面には三角形のシールに「おかか」とか「高菜」とか、なんとか産とか書かれてあったりするかもしれない。

 戸惑いながらペリペリビニールを取り外しながら、海苔がうまく巻けなかったりしてもたもたしてしまっているー所を横で微笑ましように眺めている人間が1人。

「……、」

 泣けるわきゃないな。

 館内が笑いに包まれてしまいそうだ。

 主人公に対して、可愛いという感想は浮かびそうだが、あれは握り飯だからこその感動があるのだろう。

 ―とまぁ、どうでもいいことを考えながらコンビニの中を取り合えず一周する。

 特にこれと言って追加で欲しいものもなかったので、そのままレジへ。

「……、」

 レジ前にある肉まんとかってなんでこんなにおいしそうに見えるんだろう…とまた余計なことを考え始める前にさっさとレジを済ませてしまう。

「袋はご入用ですか?」

「あ、1枚お願いします。」

 財布を取り出し、支払いを済ませる。

 袋を尋ねられる前に弁当の温めも頼んでいたので、ほんの数秒の待ち時間。

「……あ、ありがとうございます」

 手渡された袋を受け取り、大変なお仕事をしている店員さんにお礼を告げ、車へと向かう。

 自動ドアをぬけると、案の定雨が本格的に降り始めていた。

 さっさと帰って、昼ご飯を食べて、寝るとしよう。


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