第七話 『聖界』
白久が制服に着替え、寮から出て1-2の部屋に行くと、既に陸とみつきは既に制服でソファに座り、さらに陸の横には桐谷が座っていた。
真っ先に白久に気が付いたのはみつきだ。
「おはよう~。」
その声に
「おはよう。」
白久はいつもより少し元気のない返事をした。
それもそのはずだ。
数か月前のこととはいえ、陸とみつきには、一生治らないケガをさせてしまっている。それの自分に戦う力がありながら。
そんなことが頭の隅にあるというのに、「手伝ってよ!」なんて言えるはずがない。
その様子を見た陸が言う。
「おはよう。宵街、お前今日元気ないな。悪い夢でも見たか?」
「ああ、もしかしてなんで斯波君がいないか気になった? 彼はね、副担任みたいなもんだから。それとも、やっぱり悪い夢を見たのかい? そういう時はね、朝紅茶を飲んだ方がいいよ。落ち着くからね。まぁ適当だけど。」
桐谷はテレビの方を見ながらもそう言った。
白久は黙る。
その様子を見たみつきは腰を上げ、白久に近づく。
「どうしたの?」
そのみつきの声に、白久は下を向きながら、いいずらそうにしながらも言う。
「少し……言いたいことがあって。」
***
みつきの勧めで白久はソファに座り、桐谷がテレビを消し、この部屋にいる皆が白久方へと視線を向けた。
白久がいいずらそうにしていうのには、申し訳内の他にも訳はある。それは、戯言として受け止められるのではないかという心があったからだ。
実際、スミリが調べるということなんて証明のしようがないことだ。
そんなことを思考に入れながらも、白久は口を開く。
「実は、悪魔を完全に滅することのできる策が、わたしに一つあって。それは、わたしの[斬れないものを斬れる]魔法で、悪魔のいる空間とわたし達のいる空間を断絶するっていう方法なの。」
そして少し間を開け、こう言う。
「それで、でも、わたしとスミリの魔力だけじゃどうにもならなくて。だから触れれば魔力を無限にできる『聖界』が必要なんだけど、『聖界』杉並さんが言っていた通り、強欲の魔女が持ってる。だから、それに触れるのに協力してほしい。」
白久は大切なことを言わなかった。
それは、自分が死ぬこと。
なぜなら、もしもみんなが自分の言うことを信じてくれたとして、自分が死ぬと言えば協力はしないと思ったからだ。
白久のその話を聞いた桐谷は言う。
「『聖界』の場所、つまり強欲の魔女の居場所は?」
白久は言う。
「スミリが調べてくれます。」
月の悪魔の魔法に『コピー』があることを知る桐谷は、それも不可能ではないと考えたうえでこう言う。
「では仮にそれが分かり、僕や、陸やみつき、他にもこの魔法特別課に属している魔法使いをかき集め、何とか『聖界』に触れたとして、君は空間を隔絶させそちらに悪魔たちの世界を作らせ、もう二度とこちらの世界に悪魔が生まれなくなる。なんてことができるのかい?」
白久は頷く。
「できます。[斬れないものを斬れる]この魔法なら。」
それを聞き、彼は微笑みこう言った。
「わかった。」
そうしてそこを立ち、こう続けた。
「2日後、作戦を決行できるようにしよう。僕は上に言って来るよ。」
~2日後~
会議室。全員が正方形に座っていた。
集まった人の名簿とこの部屋にいるたくさんの人を見て、白久は驚いていた。
[名簿]
Sランク一位・風斬瑞人
Sランク二位・杉凪桐谷
Sランク五位・斯波透真
Sランク七位・霧島章
Aランク・逆海陸
……等
と蒼然たるメンバーだったからだ。
と、そんな名簿を眺める白久に声がかかる。
それは隣の席に座った緑のマントで服装は見えないが、見た目からして荒々しい、風斬瑞人だった。瑞人は言う。
「ある程度作戦は聞いてる。さっさと浚え。ここは最終確認の場だぞ。26人がてめーのために時間を割いてんだ。」
「あ、は、はい……。」
白久は委縮するが、大きく声を張り上げて言う。
「えっと、作戦の最終確認をします。」
そして少し間を開けてから話し始める。
「まず、今回の作戦の目的としては、わたしが魔法具『聖界』に触れ、魔力を無限化して、わたしの魔法によって悪魔の世界とわたし達人間の世界を分断するというものです。
また、作戦が決行されるというのは敵にばれていると考え、進行します。」
ここで、一人のオレンジの薄手の半袖に黒のズボン、白のジャージを羽織った男の隊員が手を上げる。
白久は名簿で名前を確認し、そして言う。
「霧島章さん、ですよね? なんでしょうか?」
章は満面の笑みでこう言う。
「なんで敵に作戦がばれてるって仮定すんだ?」
白久は頷いた後でこう返答した。
「それは、敵が強欲の魔女だからです。彼女は、言ってしまえば何でもできます。作戦が行われることくらいは知っていてもおかしくはないかと思いまして。」
その返答を聞いた章は、笑顔を崩さずに
「なるほどな! お前、頭いいな!」
そう言って手を下げた。
それを見て、白久はほかに手が上がっていないかを確認し、話題を戻す。
「では、作戦内容の最終確認です。これについては、桐谷さんが説明するとのことなので、よろしくお願いします。」
白久が、横の席の桐谷の方へ視線を移すと、桐谷は席から立ち、その場で話し始めた。
「はい、桐谷で~す。えー、ここからは白久君よりも僕が話すのが適任かと思って、僕に話させてもらうことにしましたよ。では早速。まず、今回作戦を決行するにあたって注意点が2つ。一つ目は、交戦は免れない。二つ目は……。」
桐谷はそう言うと、少しの間を開けてからこう言った。
「今日この日、確実に死人が出るよ。その二つだけ。」
それを聞き、一部の隊員はざわめく。
しかし、それを一切無視し、桐谷は話を進める。
「じゃ、本題に移ります。え~、まずは暴食の悪魔の居場所について。まぁ、手元の資料をみりゃ分かるだろうけど、渋谷の廃ビルでーす。詳しくは資料を参考にしてくださいね。そんでそのビルなんだけど、どうやらそこに向かうにはルートが三つあるらしい。ということで、三つの別動隊に分かれてもらいます。」
そう言うと、桐谷はどこからかホワイトボードを持ってきて、そこに図を描き始めた。
図には正方形に書かれたビルと、そこにつながる道としてT字に道路が書かれた。
そこで、瑞人が手を上げ、こういう。
「おい、図には書かれてんのは全部道路。路地が含まれてねぇじゃねぇか。」
それを聞き、桐谷は微笑みながらもこう言う。
「僕もね、それは気になっていて調べたんだが、このビル周辺の路地は全て行き止まりにつながってるよ。」
「なるほどな、なら袋小路にできんじゃねぇか。」
そう言って手を下げた瑞人の声を聞き、桐谷は
「まぁ、逆もまた然りなんだけどね。」
静かにそう言うと、本題に入った。
「まず、このT字路を上から見たときに、右側の道から攻めてもらうのは、透真君。君とAランク魔法使い5人、Bランク魔法使い5人だ。そして左から攻めてもらうのは、章君とAランク魔法使い5人とBランク魔法使い5人だ。」
桐谷はそう言うと同時に、ホワイトボードの図の左右の道に一つずつの矢印を書き、右は透、左は章の字をまるで囲った。
それを終えると、桐谷は再び口を開く。
「それで、真ん中の道だ。真ん中の道からは、僕と瑞人君、そして今回の主役の白久君、それと陸君に来てもらう。」
ホワイトボードの真ん中の道には、僕という字がまるで囲まれ、矢印と共に書かれた。
そこで章が満面の笑みで手を上げる。
「なんで真ん中の道に戦力を固めないんだ?」
桐谷は微笑みながら答える。
「それは、人数が多いと機動力に欠けるという問題と、もしも強欲の魔女が『聖界』を持って建物から逃げ出し、左右の道へと向かった場合、逃げられてしまうだろ?だから君たちには左右の道で刺客と出くわした場合、そいつらを対処したうえで、建物近くの各々の道で待機をしていてほしい。」
それを聞いた章は笑顔を崩さずに言う。
「桐谷、お前、頭いいな!」
「そりゃどうも。」
桐谷はそう言った後で、十分に間を開けたうえで、微笑みを崩し、声を張り上げた。
「ではこれで作戦最終確認を終了する! 一人一人が生きて帰ってくることを願うよ。では持ち場へ付け! 作戦開始!」
その声と同時に、会議室にいる全員が動き始めた。
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