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7/23

その気持ちは

【登場人物】

宮迫(みやさこ) 予久(かねひさ)

174cm 61kg

自身の問いに対する選択肢を導き出し、その答えまでも導く異能、《ゴッドノウズ》を使う少年。

便利な能力ではあるが、自身の能力に悩まされることもしばしば。

その能力のせいか、他人に興味を持つことなく育ってきており、交友関係はかなり狭い。


泉沢(いずみざわ) 未散(みちる)

149cm 39kg

B/W/H 83(E)/55/84

予久の幼馴染で天真爛漫な天才スプリンター。

騒がしくも予久と一番長く付き合ってきた腐れ縁もあるが、少し仲が拗れている。


宮近(みやちか)七実(ななみ)

152cm 39kg

B/W/H 91(G)/58/86

未散より前に知り合った予久の幼馴染。

超が付くお嬢様で、昔は屋敷を抜け出しては予久に会いに行っていた。

予久とは将来を誓った間柄ではあるが何やら秘密があるようで…?


天川(あまかわ)詩織(しおり)

155cm 41kg

B/W/H 89(F)/59/87

誰も詳細は知らず謎に包まれている少女。

予久が何かを感じ取ったようだが…?


桟道(さんどう) 凌太(りょうた)

175cm 62kg

中学時代から予久と未散と付き合いがある陸上部員。

交友関係が狭い予久の数少ない親友。


鹿目(しかめ) 美月(みつき)

153cm 41kg

B/W/H 84(E)/57/87

凌太と幼馴染で予久と未散とは中学時代からの付き合いがある吹奏学部部員。

学園の理事長の孫で金持ちではあるが、あまりそういった雰囲気はなく凌太たちとバカをやって同じ学園に進学した。


七実が転校してきて数日が経った。

文武両道で完璧にこなし、人当たりもいい七実は人気者になりすぐにクラスに馴染んだ。

だが……


「な、七実離れてくれないか?」


「そうだよ! 予久だって困ってるじゃん!」


「予久は拒否してませんわ。ね、ダーリン?」


「何がダーリンだぁぁぁぁ!! あたし予久から離れろぉぉぉ!!」


休み時間の、0分の合間でも七実は俺にべったりだった。

それに加えて未散がそれに噛みつく形で端から見ればハーレムのように見えるのだが……


(皆の視線が痛い……)


中身はどうにしろ容姿はいい未散、容姿も中身も完璧な七実に囲まれている俺は両手に花、と言えばそうなのだろう。

だが、この現状も『耐えねば』ならない。

昨日の放課後、教室で未散と七実と話し合っていた時の事だった。





「凌太も鹿目さんも何も知らない、か……。いよいよ天川さんの存在自体が謎になってきたな……」


「完全に詰んでるよねー」


「ですわね……」


「でも何で二人は協力してくれるんだ? 特にメリットがないように思えるけど」


「だってゴッドノウズで分からないことがあるって、めっちゃ面白いじゃん! これって絶対何かあるって!」


「泉沢さんの言う事も一理ありますが、私は予久の力になれれば何でもいいのですわ。許嫁ですので」


「そこ許嫁関係ある?」


「ここぞとばかりにアピールしてみましたわ」


七実が転校してきて事態が動くかと思ったがそれも無く、次の手段を考えているところだが具体案が浮かばずにいた。

しかし、その均衡を破ったのは七実のアイデアだった


「一つだけ手がないわけではありませんわ」


ななみん(七実)、何かあるの?」


「今までは情報収集、こちらからのアプローチ、相手の行動を待つの三択でしたがやっていない事がまだあるということですわ」


「難しいことは分かんないから一行でよろしく!」


「あちらから動くように仕掛けるということですわ!」






そして今は七実が俺の膝に乗って、未散はそれに食い下がる様な構図になっている、というわけだが……。


「はーい、予久~。あ~んですわ」


「いや、早弁過ぎるだろ。まだ10時だぞ……」


「もうっ! あたしだって予久のために弁当作ってきたんだから!」


「未散のそれはただのおにぎりな。それも顔面サイズの」


「だ、だって寝坊しちゃって、それでも予久に食べてほしくて!」


「だったらもう少し小さくしてくれよな……」


そう、仕掛けてもダメなら相手が何かアクションを起こしたくなるような動きをすればいいのだ。

隣の席でこんなことをされれば嫌でも目に付き何か物申したくなるもの、確かに今までないアプローチだったが……。


(動いたっ!)


流石に何か思うところがあったのか、天川さんがその黒の長髪を耳元で弄り始め、視線をチラチラとこちらに寄越す。

間違いなく意識がこちらに向いている証拠だ。


(効果抜群だね!)


(続けてみます?)


効果ありと判断したのか七実は俺の腰に腕を回してその豊満な胸を思い切り俺に押し付ける。


「ほ~ら予久の大好きな(わたくし)のおっぱいですわよ~。公園で巨乳グラビア本を拾って大事にしていた予久の大好きなおっぱいですわよ~」


「予久!!?」


「七実……何年前の話だよ」


「きぃぃぃぃこのおっぱい星人!! 性欲魔人!!」


「今は目の前に本物のおっぱいがあるんですのよ? さあ遠慮なく!」


「さ、流石にここじゃまずいって……」


「………予久、ここじゃなきゃいいってこと?」


未散は割りと本気で抗議の意思を視線で向けており、冷ややかな視線はまるで凍てつく冬国のよう……。

だが、このやり取りが思いのほか効果があったのか、天川さんがついに席を立って俺の前に来た。


「や、やあ。どうしたんだい?」


「………そんなにハーレムが嬉しい?」


明らかに不機嫌そうだが、ようやく相手から動きがあった。

これを好機と思い、接触を図るがここでひとつ重大なミスを犯していることに気が付いた。


(いざ天川さんが接触してきたときの対処法を考えてない!!)


ゴッドノウズを使えば正解が出たのだろうが、焦っていた俺はとんでもないことを口走ってしまうのだった。


「HAHAHAHA! 当り前じゃないか! こんなに美少女に囲まれたら嬉しいよ!」


「………間違いだったみたいね」


天川さんは酷く冷え切った視線、ゴミを見るような目で俺を射抜くとその場を立ち去って行ったのだった。



――――――――――間違い?








「完全に失敗だな!!」


昼休み、屋上に集まった俺たちは三人で反省会をしていた。


「いや、予久の最後の受け答えが壊滅的だったのがいけないと思うんだけど……」


「でも今までにないパターンですし、何か動きがあればいいのですが……」


確かに今までにないパターンだったが、これで完全に迷宮入りで謎を解く道が断たれた可能性もある。


「ま、失敗したらしたで悩みは消えたってことで!」


「よけい気になるわ!」


「だよねー」


「ですが、これ以上何もないならいよいよ詮索するだけ無駄という事もあるのではないでしょうか?」


「まあ、確かにそうだけどさ……」


そもそも違和感、という曖昧なものでそこまで詮索する価値もないのかもしれない。

やはりこの違和感自体が気のせいだったのだろうか。


「まっ、それじゃあちゃんと飯食って午後の授業寝て、部活ガンバろー!」


「寝る子は育つという事ですわね」


的外れな七実の指摘も頭に入らないほど俺は天川さんの事ばかり考えていたのだった。







「おーーい! 予久―――!」


連休初日、朝陽が窓から差し込む朝。

5月の温かさでありながら心地の良い風が窓の隙間から吹き込み、鳥のさえずりが心地いい。


「起きろ―――!! 予久―――!!」


だが、その心地のいい朝に騒音をまき散らす幼馴染がいた。


「美少女が起こしてるんだぞーー! 起きろ――!」


「………お前はもう少しおしとやかならなぁ」


寝ぼけ眼だが、目をこすりながら体を起こす。

時刻は9時、連休初日とあってこの時間まで寝ていたのだが窓を開けて騒がしい声の主に応答することにする。


「やっと起きた!」


未散とは隣の家同士で、俺の部屋と未散の部屋は向かい合っている。

ガキの頃はこうして窓を開けて夜まで話し込んで怒られたものだ。


「こんな朝からどうしたんだ?」


「連休だし遊びに行こうぜ!!」


「お前、部活は?」


「休み!! 今日だけね!」


陸上の強豪校とあって練習は厳しいが適度に休みもあるらしく、こうして遊びに行くこともままある。

いつも唐突に未散が俺を外に引っ張り出すのだが、運動不足の俺にはちょうどいいとあって付き合っている。


「で、どこに行くんだよ。決まってるのか?」


「んー、とりあえず駅前行かない? あそこなら何か遊ぶものあるっしょ!」


「いいな。最近行ってないし」


家から学園まで歩いて、そこからバスに乗って大通りを通って2kmほど北上していくと

駅前に着く。

早速俺たちは準備をして出かけることにしたのだった。







「んーー、着いたぁ!」


バスを降りると伸びをして身体を動かす未散。

普段から動き回っている未散にはバスは窮屈なのだろう。

それでもバスに乗るのは俺の脚の古傷を心配してのことだが、お互いに何も言わないのは言うだけ野暮というモノだからだ。


「どこいこっか?」


今日の未散はへそまで桃色のジャケットを羽織っており、その下には白のブラウス。

そして黒のミニスカートから伸びる太ももはいつも通り眩しいが、全体的に活発な印象を与えつつも未散の良さが際立つコーディネートだ。

改めて見るとかなりの美少女だが……。


「やっぱ最初は昼飯からにする? 牛丼? それともラーメン?」


色気も何もない……。

とはいえ、未散とのこの距離感が心地のいい俺はこれでいいのかもしれない。


気を取り直して駅周辺に意識を集中させる。

ロータリーにはバスが数台停車しており、その外周には飲食店などが立ち並んでいた。

まばらな人だかりだが、俺たちの住んでいる周辺に比べれば街っぽさはあり、ビルなどの高い建物もある。

そしてその中にラーメン屋と牛丼屋を見つけたが……。


「………昼までは時間あるけど、ラーメンと牛丼は混むよ。昼飯は後回しにした方がいい」


「んー、やっぱその能力便利だね~」


「うちの家系はこれで大儲けしてるほどだからな」


商談は100%成功、取引先の嘘も見抜けるとあってこの能力で富を築き上げてきた。

だがそんな家族との会話は味気なくて、好ましいものではなかった。


「さて、飯まで時間あるしどこかであそぼ!」


「そうだな、まずはゲーセンに行くか」


都心のゲームセンターに比べれば大きいとは言えないが、そこそこの規模のゲームセンターがある。

騒がしいのは苦手だが、未散と遊んでいれば気にならないだろう。

ゲーセンに向かうためにロータリーの外周を歩いていると、ちらほらと未散を指さす人たちがおり、遮るように俺が前に出ようとするが、未散は苦笑しながら首を振った。


「気にしないでいいよ。いつもの事だから」


「でもだな……」


「お姉ちゃんと比較されてもあたしは走るのが好きなだけだからそれでいいよ。走ってれば幸せみたいな?」


未散の姉、泉沢桜花は俺たちが小さい頃に亡くなった。

その当時からスプリンターとして名を馳せていた姉妹だったが、桜花さんの死後、更に比較されるようになった。

それからというものの今日のような事は度々起こっている。


「あたしは勝つのが楽しいんじゃなくて思い切り走るのが好きなんだ。だからね、比較されたって負けたっていいんだよ」


勿論負ければそれなりに悔しいけどね、と笑いながら付け加える未散。

でも未散が大差で負けたのは見たことはないし、そもそも滅多に負けることもないだが……。


「さ、気を取り直してゲーセンゲーセン!」


「お、おいっ!」


早足で歩いていく未散を追いかけるようにして俺たちはゲーセンに向かっていった。






「大漁大漁!! 今日の水揚げ量は日本一じゃ!!」


「結構取れたな」


UFOキャッチャーでストラップやぬいぐるみが結構取れ、未散はそれを抱えて満足そうにゲーセンを出た。


「この変な顔した鳥のストラップ、予久にあげる!! 今日の褒美じゃ!!」


「いや、いらんのだが」


「即答!?」


「明らかに呪いのストラップだぞこれ……」


毛並みこそいい青い鳥だが舐め腐った目、でろんと出た舌、そして無性にイラつく顔芸。

どう見ても呪われている。


「まあまあ、あたしとお揃いにしようぜ? 赤信号皆で渡れば怖くない!」


「やっぱダメじゃないか」


そうは言いつつも呪いのアイテムを受け取った俺はさっそくスマホに付けてみる。


「うっひょー! 幸運の青い鳥!」


「まあ、そういうことにしておく……ん?」


ロータリーの対面側、距離はそこそこあるが腰まで伸びた黒髪にその端正な顔立ち……。


「あれは……天川さんか?」


「どこどこ?」


「ほら、あそこだよ」


「あっ、ホントだ!」


「俺、少し会いに行ってくるよ」


一歩踏み出して天川さんの所へ向かおうとしたときだった。

袖を掴まれ、身体が後ろに引っ張られる。

だがその力はあまりに弱々しく、振り払おうと思えば振り払うことが出来るほどだった。


「……行くの?」


「ああ、少し話したい事があるんだ」


「今日はあたしと遊びに来たんじゃないの?」


怒ってはない。

それどころか未散の声は今にも消えてしまいそうなほどで、袖を掴む手は震えていた

まるで何かに怯えるよう……いや、誤魔化すまい。

俺が離れて天川さんの所に行くのを明確に拒んでいるんだ。

未散は自分の意見を主張しないことで俺に気を遣っているが、今日は2人で遊びに来たとあって自分の時間が欲しいようだ。


「分かった。飯でも食いに行くか」


結局俺は未散を振り払うことが出来なかった。






その後、多少は気まずい時間が続いたものの、すぐにいつもの調子に戻った俺たちは夕方まで駅前で遊んでいた。

楽しい連休初日を過ごした俺は帰宅するとベットに身を放り投げため息をつく。


「やっちまったな……」


気分を紛らわせようとスマホを開くと、さっき家の前で別れた未散からメールが入っていた。


『今日は変なこと言ってごめん。忘れて』


話してもメールをしても騒がしいくらいの奴だが、その淡白なメッセージに調子が狂う。

俺は『気にするな』とだけ返信してスマホをベッドの端に放り投げた。


「何なんだよ……」


その不満は未散に対してではない。

自分自身に対してだ。


「あんな未散久々に見たな……」


ぽつりと真っ白な天井に向かって呟く。

未散が最後にしおらしくなったのは俺がケガをしたとき。

ゴッドノウズの結果を知っていたからこそ、止められなかった自分にも責任はあると感じていたのだ。


そしてもう一つは姉の桜花さんが亡くなった時。

奇病で命を落としたが、その時の落胆ぶりは今でも覚えている。

時間が解決したのかしばらくしていつも通りの未散に戻ったが、あの未散を見るのは辛かった。


「…………」


凌太の言葉を思い出す。

俺だってあれだけ明らかな好意を寄せられて未散の気持ちに気付かないわけじゃない。

それにゴッドノウズで答えも出てしまっている。

それでも……


「未散との関係を崩したくないっていうのは俺のワガママなんだろうな」


未散との関係を崩したくない、未散から思いを伝えてくることはない。

それに甘えて、未散が好意を持っているのを知っておきながら現状に陥ってしまっている。

だが決して未散を蔑ろにしようとかそういう事ではない。

七実の一件も一旦リセットになった現状を考えれば、七実に義理立てる必要もなく憂いは無いはずだ。

それでも……


「俺が臆病なだけなんだろうか……」


気付けば部屋は暗闇に包まれていた。




今回もお読みいただきありがとうございます。

予久が結構クズな感じになっていますが、実際あれだけ美少女に囲まれたら悩むのもしょうがないね……


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