本当の気持ちを知りたい
【登場人物】
宮迫 予久
174cm 61kg
自身の問いに対する選択肢を導き出し、その答えまでも導く異能、《ゴッドノウズ》を使う少年。
便利な能力ではあるが、自身の能力に悩まされることもしばしば。
その能力のせいか、他人に興味を持つことなく育ってきており、交友関係はかなり狭い。
泉沢 未散
149cm 39kg
B/W/H 83(E)/55/84
予久の幼馴染で天真爛漫な天才スプリンター。
騒がしくも予久と一番長く付き合ってきた腐れ縁もある。
天川詩織
155cm 41kg
B/W/H 89(F)/59/87
誰も詳細は知らず謎に包まれている少女。
予久が何かを感じ取ったようだが…?
桟道 凌太
175cm 62kg
中学時代から予久と未散と付き合いがある陸上部員。
交友関係が狭い予久の数少ない親友。
鹿目 美月
153cm 41kg
B/W/H 84(E)/57/87
凌太と幼馴染で予久と未散とは中学時代からの付き合いがある吹奏学部部員。
学園の理事長の孫で金持ちではあるが、あまりそういった雰囲気はなく凌太たちとバカをやって同じ学園に進学した。
翌日、早速登校してから前の席にいる天川さんに漫画の話題を振ってみたが……
「はぁ……」
反応はすこぶる薄く、話題を膨らませるに至らなかった。
俺のコミュ障があるにせよ、どうにも会話が続かない。
結局昼休みまで会話はなく、北校舎と南校舎の間にある中庭で昼飯を食いながらため息をついていたのだ。
この学校の校舎は渡り廊下を挟んで北校舎と南校舎に分かれている。
その校舎に挟まれるようにして渡り廊下で分断された中庭がある。
両方とも噴水とベンチがある一般的な中庭で、緑が豊かなのが特徴だ。
「涼しいな……」
学園から南に行くと海があるお陰か時折涼しい風が吹いてきて、清涼感のある空気のお陰で、日中にも拘らず中庭で昼飯を食うことが出来る。
俺以外にも中庭で昼飯を食っている連中がおり、中にはカップルまでいる。
「それにしてもどうしたら天川さんの違和感は取れるんだよ……」
本日何度目とも分からない溜め息。
それでも違和感解消のためには何とか糸口を見つけたいものだ。
「なーーにこの青空の中ため息ついてるのさ」
「うおっ!!?」
俺の眼前に急に横から顔を割り込ませてきたのは未散だった。
「お前はこんなところで何してるんだよ」
「いやね、予久がなーんかため息ついてるのが教室から見えたから来てみただけ。それで、どうしたの?」
「前に話した天川さんの違和感だよ」
「ほうほう、あれからゴッドノウズ使ってみてどうなのよ?」
「やっぱり選択肢すら出てこない。話をしても天川さんの反応が薄くてな……」
「はー、なるほどねー。んー……」
腕を組んで逡巡すること数秒、未散は答えが出たのかポンと手を叩く。
「男は黙って放置!!」
「………一応聞くが無策じゃないんだよな?」
「あったりまえよ! 無理に接触しても相手の印象が悪くなるだけ。一緒のクラスに居ればチャンスは幾らでもあるでしょ! チャンスを伺うんですよ!」
「まあ、確かに……」
未散の言っていることは正論だ。
これだけやって正解に辿り着かない以上、悪手をとってしまう可能性も否定できない。
そう考えれば下手に接触しないのも手だろう。
「ってことでどうせ打つ手なしなら、あたしと一緒に昼飯食べない?」
「まあ、別にいいけど」
「それじゃあ横失礼しまーす!」
俺の隣に無遠慮に腰を掛けると、早速手に提げていた包みを開いて弁当箱を取り出す。
「未散は自分で弁当作ってるのか?」
「栄養管理的しなきゃだしやってる感じー」
「それもそうか」
「コーチが栄養管理しろって言うからさぁ。お母さんはめんどくさがり屋だし、あたしもあたしで料理は嫌いじゃないし、やってる感じだけど」
未散がガサツなところが目立つが、こう見えて家事はそこそこ出来るし意外にも料理も上手く女の子らしい所がある。
「予久がなーんか失礼なこと考えてるー」
「はっはっは、未散は意外と料理が上手いって考えてたんだよ」
「やっぱ失礼だ!! 人のおっぱいも触るし!」
「バッ!! あんま大きな声で言うな! そもそもあれは事故だろ!」
「鼻の下伸ばしてたくせにーー!!」
その後未散と騒ぎながらも楽しく昼食を終え、空腹を満たしたところで青空を見上げながら未散が懐かしそうに話し始める。
「なんだか予久とこうして騒いでると昔を思い出しちゃうね」
「そうだな。昔はよく公園とかで遊んでたっけ?」
「あの頃の予久は七実ちゃんがいなくなってすっごい寂しがってたよね~」
宮近七実は超がつくお嬢様で俺の幼馴染だ。
未散と出会う前の幼馴染だが、親の都合で転校してしまい離れ離れになってしまった。
その後、未散と出会うのだが、その当時の俺は七実がいなくなって酷く沈んでいたことを覚えている。
「今でも七実ちゃんも一緒なら楽しかっただろうなぁ」
「まあ、そうだよな……」
「あはは、なんか暗くなっちゃったね。ごめん」
「いや、いいんだ。七実の転校も仕方のない事だし」
それでもずっと一緒にいられればよかった。
そうすれば俺、七実、未散、凌太、鹿目さんで今も一緒に絡んでいたかもしれない。
「おっ、泉沢と予久じゃねぇか!」
「本当だ!! カップルみたいに昼飯食ってやがる! 潰しに行こうよ凌太!」
「お前ろくな死に方しないぞ……」
物騒なことを騒ぎながらやってきたのは凌太と鹿目さんだ。
さすが幼馴染とあってこの二人も仲がいい。
「じゃ、俺らも失礼するぜ」
「お邪魔しまーす!」
凌太が俺の隣、鹿目さんが未散の隣に座る。
2人とも昼飯を食ってきたのか弁当箱は持っていなかった。
「凌太たちはどうして中庭に来たんだ? 普段は教室にいるじゃないか」
「いやね、日直だから午後の授業の準備を凌太としてたわけなんだよ!」
「そしたら美月がだるいー、とか言い出してさ。挙句中庭まで連れてこられたってわけだよ」
「さすが幼馴染。息ぴっだりだな」
「「どこが!!」」
2人は互いに互いの足を引っ張りつつこうして今日まで仲良く一緒にいる。
特段恋愛感情があるわけでもないらしく腐れ縁とは言うが、それでも仲が良すぎると思う。
「まったく……俺と美月がどこをどうして息ぴったりなんだよ」
「そうだそうだ!」
「でも2人っていつも一緒にいるよね?」
「あのなぁ、俺はこいつのおっぱいが目当てで一緒にいるだけだぞ?」
「そうだそうだ!」
そこは否定しようよ鹿目さん……。
「このでっかいおっぱいがな……って美月、制服のボタン取れかかってんぞ」
「げっ、ホント?」
「胸元のやつ。じっとしてろよ」
凌太は胸ポケットから小さい裁縫箱を出すと器用に針に糸を通す。
そして鹿目さんの制服のボタンを瞬時に縫い直してしまう。
「ったく、これくらい気付けよな。仮にも女だろうが」
「んだとぉ!! 仮にもとはなんだ!!」
「お前がガサツだから言ってんだよ!!」
互いにじゃれ合いながら言い合いになってしまう。
もっとも本気で喧嘩しているわけではなく、二人なりのスキンシップだ。
「にしても凌太は器用だよな」
「親父の仕事柄上色々手伝わされたからな」
「工場を経営してるんだっけ? 凌太も手伝うんだよな」
「そうそう、親父もすぐに俺を使うからな。ま、小遣い稼ぎにはちょうどいいけどさ」
こうしたこともあってか凌太は手先が器用になったのだそうだ。
その他、片親の影響で家事も結構しているらしい。
「しっかしみっつとりょうくんは仲いいよねー」
「泉沢と予久もそんなもんだろ?」
「えー、そうかな?」
「俺からすればお前らは微笑ましく見えるぜ」
「そうだそうだ! 出来立てカップルみたいにイチャイチャしやがって!!」
「別にそういうつもりはないんだが……。未散もなんか言ってやれ」
「えっと……あ、あたしと予久はそんなんじゃないっていうか、そ、そこはね! うん! 友人みたいなもんだし!」
そう否定する未散の顔は真っ赤だが俺はあえて指摘しなかった。
いや、指摘出来なかったのだ。
「そ、そんなことよりほら! 授業始まっちゃうし、教室戻ろうよ! あたし先行ってるね!」
未散は照れ隠しのように、駆け足で教室に戻って行ってしまった。
その背中を見送ったところで凌太が俺にぼそりと呟く。
「予久……お前、ケアはしておけよ」
「俺にどうしろと!!? ていうか何をしろと!!?」
「泉沢の気持ちに気付いていながら何もしないっていうのはどうかと思うぜ」
「そ、それはまあ……」
長年一緒にいる分、その気持ちには気づいていた。
中学に入ったころの事だった。
互いに男子と女子ということを本格的に意識しつつも腐れ縁が続いていた中で、未散の態度が変わっていった。
その変化に気付けないほど鈍感でもない俺だったが、今までの関係を崩したくなくてずっとそのままにしてきた。
未散も同じ考えなのか、今日みたいなことがあると誤魔化して、次に会う時にはいつも通りになっている。
だが、そんな未散の態度に俺はもしかして嫌われているのではないかという不安を覚えていた。
そして、こともあろうことか俺は未散の心を覗き見したのだ。
ゴッドノウズで未散の気持ちに土足で踏み入り、己の不安をゴッドノウズで振り切ろうとした。
――――――――――――俺は力に逃げた。
「ま、お前らの関係だし変に口出しはしねぇけどよ。それじゃあ先に戻ってようぜ美月」
「ブラジャー!!」
2人で仲良く教室に戻っていく凌太と鹿目さん。
毎日変わらずにいる二人の二人の関係が羨ましく思えた。
月並みな挨拶ですが、本日もお読みいただきありがとうございます。
少しずつ動き出してきた二人の関係ですが、意外と凌太は大人だなぁと思って見ています。
自分で書いててこう言うのもあれですが()