達成という名の後悔
【登場人物】
宮迫 予久
174cm 61kg
自身の問いに対する選択肢を導き出し、その答えまでも導く異能、《ゴッドノウズ》を使う少年。
便利な能力ではあるが、自身の能力に悩まされることもしばしば。
その能力のせいか、他人に興味を持つことなく育ってきており、交友関係はかなり狭い。
泉沢 未散
149cm 39kg
B/W/H 83(E)/55/84
予久の幼馴染で天真爛漫な天才スプリンター。
騒がしくも予久と一番長く付き合ってきた腐れ縁もある。
天川詩織
155cm 41kg
B/W/H 89(F)/59/87
誰も詳細は知らず謎に包まれている少女。
予久が何かを感じ取ったようだが…?
桟道 凌太
175cm 62kg
中学時代から予久と未散と付き合いがある陸上部員。
交友関係が狭い予久の数少ない親友。
鹿目 美月
153cm 41kg
B/W/H 84(E)/57/87
凌太と幼馴染で予久と未散とは中学時代からの付き合いがある吹奏学部部員。
学園の理事長の孫で金持ちではあるが、あまりそういった雰囲気はなく凌太たちとバカをやって同じ学園に進学した。
放課後、未散は終業のチャイムと共に教室を飛び出して部活に向かっていった。
一方俺は……。
「凌太、時間あるか? 少し聞きたいことがあるんだ」
「ああ、美月も吹奏楽部に行ったし別にいいけどよ」
陸上部の練習が開始するまでまだ時間はある。
朝から感じていた天川さんの『違和感』について茶髪のツンツン頭の悪友、凌太に尋ねてみることにしたのだ。
「天川さんについて何か知ってるか? お前、結構そういう学園の噂話とか詳しいだろ?」
「俺が詳しいっていうより美月の話を聞いてるだけなんだけどな。ま、それはそれとして天川は漫画を描いてるって話だな」
「じゃあ、漫画研究部に入ってるとか?」
「あー、いや、そういうんじゃなくて商業誌で連載してるんだよ」
「マ、マジかよ。まだ学生だろ……」
「で、その漫画家生活を支援しつつ、学園に通わせてくれるのがうちの学園ってわけだ。お前や泉沢同様、特待生枠ってことだな」
この学園は将来有望な若者に特待生枠を用意している。
学費の免除は勿論、生活の支援やその他諸々の支援を行い育成していくという方針で、俺は勉学での特待生、未散は陸上での特待生だ。
もっともこのゴッドノウズを使えばどんなテストの問題も簡単に解けてしまうのだが。
「謎に包まれ過ぎていてこれ以上の事はよく分からん、ってのが現状だな」
「今日も放課後になるとどっかに行ったしな……」
「でもなんだよ、予久が他人を気にするなんて珍しいじゃねぇか。それに泉沢と美月以外の女子と話したこともない人間だろ?」
「べ、別にいいだろ。俺だってそこまで朴念仁じゃないんだ」
「ほほぉー。さては恋だな?」
「断じて違う」
「即答かよー。つまんねぇ奴だな」
そう笑う凌太だが、恋なんていう感情ではないと思う。
昔、それに限りなく近い感情を覚えたことはあるが、天川さんに感じるのはそれとは明らかに異なる。
違和感、やっぱり天川さんにはその言葉がしっくりくる。
「じゃ、俺もそろそろ陸上部行くわ。コーチに叱られるのもめんどくさいしな」
「ああ、引き止めて悪かったな」
「いいってことよ。じゃあ、恋を実らせろよ」
「だから違うって!」
俺の反論を聞く前に凌太は逃げるように教室を出ていってしまった。
さて、次の情報収集は……。
翠泉学園はスポーツ科を持っているだけあり学外に体育館を二つ、サッカー場、テニスコート、野球場を持っている。
そして陸上部は校舎裏のグラウンドを使っている。
グラウンドの外周はコンクリートで塗装されており、南門、東門、西門から入ってきた学生を校舎へと誘導する通路となっている。
グラウンドの端には更衣室と倉庫があり、陸上部はここで着替えているわけだが……。
「ひゅー……ひゅーっ」
グラウンドに行くと校舎裏の物陰で赤いブルマと体操着に着替えた未散が仰向けで伸びているのを発見する。
艶やかな黒のポニーテールと可愛い顔が台無しになるほど白目をむいて過呼吸を起こしており、大粒の汗をかいていた。
「おーい、未散ー」
仰向けになって白目をむいている未散に声をかけるとぴくぴくと腕を動かす。
どうやら生きてはいるらしい。
俺はしゃがんで未散の顔を覗き込む。
「こんなところで何やってるんだ?」
「ひゅー……じゅ、準備運動の…後、走ったん……だよっ」
「放課後すぐにこんな走りまくるアホがいるか」
「こ、ここにいる」
「ムカつくが正論だ」
未散の息が整うまで待っていると、未散は傍に置いてある水筒を一口飲むと息を吹き返してあぐらをかく。
「ぷはっ…! 死ぬかと思った!」
「まさに死にそうな顔はしていたがな」
「いやー、気合い入れて走ってたら案の定だよ!」
「無茶はよせよ。あまり体によくない」
「はっはっは!! その程度で壊れる体ではない!!」
その大きな胸を張る未散。
体操着はきつそうで、程よく筋肉がついた健康的な脚も眩しい。
「お前はそうやって無茶ばかりするんだからさ……。俺みたいにケガしても知らねぇぞ」
「それは……うん。気を付けるよ」
先ほどまでの勢いとは違い、俺の言葉に神妙な顔をする未散。
いらぬ事を口走ったと思ったが、神妙な面持ちのまま未散は言葉を続ける。
「予久はさ、2年前の陸上での怪我……後悔してない?」
「後悔?」
「予久はあの時怪我をするって分かってたじゃん? だからさ……」
「まあ……そうだな」
「ゴッドノウズで怪我をするって分かってたんだよね」
幼馴染の未散にはゴッドノウズが使えることはバレている。
勿論大っぴらにしてきたわけではないが、幼馴染というだけあってバレるのも時間の問題だった。
「ケガをするのは分かってたよ。それでも走らなきゃいけないって思ったんだ。その一瞬を逃したら一生後悔しそうだったから。」
「だったら怪我の事は後悔……してないってこと?」
「ああ、お前たちに置いて行かれるような気がして走らざるを得なかった。勿論そこに後悔はない」
はずだ。
ただ、楽しそうに走っている未散を見ると羨ましいとは思う。
凌太と未散とまだ走りたかった、置いてかれたくなかった。
そんな複雑で青い感情を持っていた俺は若気の至りとも言うべき過ちを犯したのだ。
「ご、ごめんね。無神経だったよ……」
「別にいいけどさ、いきなりどうしたんだよ」
「昔はりょうくんとあたしと予久で一緒に走ってたじゃん? そんな時間がずっと続くと思ってた」
「そうだったな……」
「だからさ、あると思ってた未来がまた突然無くなるのは怖いなって思ったんだ。あたしもいつかケガしちゃうのかなって……」
「だったら無理して走らないことだな」
「う、うん。気をつけるよ」
気まずい雰囲気だが、こんなところで油を売っていていいのだろうか。
陸上部の特待生で期待も大きい未散がサボるのはあまりいいとは言えない。
「むっ、なんだね。あたしがまるでサボり魔みたいな視線は!」
「寸分たがわず当たってるよ。で、部活の時間は大丈夫なのか?」
「あと少ししたら全体練習始まるかなー。特待生のあたしは自分で調整が許されてるからある程度は自由な時間があるんだよー」
「ならいいんだけどさ」
陸上が好きなあまり毎日走っている未散だが、飽きもせず毎日走れるのは立派な才能だと思う。
だが自分の事もあってケガだけは気を付けてほしいと願わざるを得ない。
「凌太は結構愚痴ってるけど未散は陸上怠いとか思わないのか?」
「思わないよ! 走ってると気持ちいいんだもん!」
「ま、まあ未散はそうだよな。うん」
「というか予久だって昔は楽しそうに走ってたじゃん!」
「そりゃまあ……走るの好きだったしな。っといけねぇ、本題を忘れるところだった」
「本題?」
首をかしげる未散だが、俺は天川さんの違和感について尋ねてみることにした。
「んー、天川さんの事はよく知らないんだけど、ゴッドノウズ使ってみた?」
「使ってみたけど、選択肢も出ないな」
「はぁー、それじゃあ結構めんどくさいねぇ。粘り強くストーカーするしかないってことか」な?
「そんなことしないって……」
「でも変だね」
「……変?」
「予久が他人に興味を持つのも変だけど、何で『今日』いきなり気になりだしたんだろうね」
確かにそれは気になっていた。
今まで俺を含め天川さんの事を気にした人はいなかった。
それなのに今日いきなり俺は天川さんに違和感を感じ、興味を惹かれた。
「おっと、そろそろ時間だ! 悪いけどそろそろ行くね!」
「ああ、それじゃあ頑張って来いよ」
「頑張る事なんてないよ~。だって走ってるだけで楽しいんだもんー」
立ち上がって身体を伸ばした未散は全速力でグラウンドを駆けていった。
その背中を見つめる度に俺は羨ましいと思っていたのだった。
本日もお読みいただきありがとうございます。
上手いことは言えないのですが、1PVずつ積みあがっていくのが励みになっております。
今後ともお付き合いいただければ幸いに思います。