はじまりの日
まずは本作を手に取っていただき誠にありがとうございます。
本作は主人公と3人のヒロインを中心に青春と恋愛を描きつつ、その中で人間らしさと若さを描いていきたいと思います。
稚拙な面も多々ありますが、最後までご覧になっていただければ幸いです。
【登場人物】
宮迫 予久
174cm 61kg
自身の問いに対する選択肢を導き出し、その答えまでも導く異能、《ゴッドノウズ》を使う少年。
便利な能力ではあるが、自身の能力に悩まされることもしばしば。
その能力のせいか、他人に興味を持つことなく育ってきており、交友関係はかなり狭い
泉沢 未散
149cm 39kg
B/W/H 83(E)/55/84
予久の幼馴染で天真爛漫な天才スプリンター。
騒がしくも予久と一番長く付き合ってきた腐れ縁もある。
天川詩織
155cm 41kg
B/W/H 89(F)/59/87
誰も詳細は知らず謎に包まれている少女。
桟道 凌太
175cm 62kg
中学時代から予久と未散と付き合いがある陸上部員。
交友関係が狭い予久の数少ない親友。
鹿目 美月
153cm 41kg
B/W/H 84(E)/57/87
凌太と幼馴染で予久と未散とは中学時代からの付き合いがある吹奏学部部員。
学園の理事長の孫で金持ちではあるが、あまりそういった雰囲気はなく凌太たちとバカをやって同じ学園に進学した。
少女よ、望みを叶えたくはないか?
貴様が望むならば己が運命を打ち砕き、世界にすら抗う力をやろう。
そして欲する力、結末を与えよう。
叶わぬ恋も願いも何もかも叶えてやる。
さあ、願いを叶えたくはないか?
―――――――だが対価は支払ってもらわねばならぬ。
物事には対価は付き物、何かを手に入れるには何かを失う。
故にお前の大事な『それ』を頂かねばならぬ。
さて、もう一度聞こう、少女よ。
願いを叶えたくはないか?
願いを叶え、その運命から逃れようではないか。
なに、逃避は悪ではない。
そもそも貴様の運命は理不尽なものなのだ。
貴様はどう足掻いても避けられぬ運命を課せられているのだ。
それ故、神の力に頼るしかない。
今こそ運命を変えようじゃないか。
その権利が君にはある。
さあ、選択を聞こう。
「ねっむ……」
新学期早々、愚痴をこぼしながら田舎道を登校する。
青い空、川のせせらぎ、そして青々と果実を実らせつつある畑だけ見れば完全な田舎だろう。
この町、聖泉市は田舎と街が融合した町だ。
俺の居住区である町の東には工場や畑があるが北の駅前に行けば、飲食店や大病院が所狭しと並んでいる。
そして町の西には山、南には海と遊びには困らない町だが若者には物足りない町だろう。
「嫌いじゃないけどな」
感傷に浸る気はないが、この自然に囲まれた土地が嫌いではなかった。
空を見上げれば清々しい程の青空が登校する俺の陰鬱な気持ちを晴らしてくれるようで、新学期でも何とかやっていけそうだと思う。
「……今日雨降るんだろうか」
ふと見上げた青空にそんな疑問を抱く。
寝ぼけ眼で準備をして家を出たため、天気の確認を怠っていた。
この青空で雨が降るという事もないのだろうが念のため『確認』することにする。
空を見上げ、今日は傘を持って行く必要があるのかという疑問を浮べると目の前に『普通』では見えない『選択肢』が表示される。
1.傘を持って行くべき
2.傘は要らない
3.あえて日傘
多少おかしな選択肢も入っているが、これが俺の『一つ目』の能力である【ジャンクション】だ。
対象物を視界に入れ、疑問を浮べることで選択肢が表示される。
だが、これだけでは意味がない。
『2.傘は要らない』だけが赤い文字で表示されている。
これが正解という事で、選択肢の正解を当ててくれるのが『二つ目』の能力の【プレディクト】。
この二つの能力を合わせて【ゴッドノウズ】と名付けられており、宮迫家に代々伝わる能力だ。
「傘は要らない、けれども……」
どうせなら瞬間移動とかもう少し楽が出来る能力が良かった。
勿論、この能力のお陰でテスト勉強もしないで特待生で入学出来たりと随分と楽をさせてもらっているのだが……。
春先から愚痴を言ってもしょうがないので気を取り直して歩を進めていく。
家の近くの橋、聖竜橋を渡ってしばらく歩いて行くと、俺の通う翠泉学園に着く。
鉄筋コンクリートの一般的な校舎は渡り廊下を挟んでH字になっており、校舎裏にはグラウンドがあり陸上部が朝練をしている。
そんな陸上部とは対照的に気怠い朝を迎えつつ、昇降口に向かっていくが騒がしい声が耳をつんざく。
「予久―――!!!」
ドタバタと足音を立てながら俺の名前を叫ぶ黒髪ポニーテールの少女が視界に入る。
その綺麗な髪が台無しになるほど全速力で駆け抜けると思いきや、俺の前で急ブレーキをかける。
袖にスリットの入った青と白を基調としたセーラー服、フリルが施され水色チェックのミニスカート。
そんな制服を押し上げるほどの胸を持ち、ミニスカートから覗く太ももは健康的な脚線美を描いている。
顔はこの歳にしては童顔と言えるだろうが十分に整っており、世間一般的には美少女に分類されるものだろう。
「相変らず騒がしいな未散」
「予久こそ、毎日怠そうだね。もうちょっと元気に行こうよ!」
「うっせぇ。性分だ」
こいつは泉沢未散。
学年一騒がしい女子生徒にしてガキの頃からの幼馴染だ。
「今朝も陸上部の朝練だったのか?」
「そそ。毎日走ってないと落ち着かなくてさ。今日も朝からいっぱい走れたんだ~」
余程いい走りが出来たのか、満足そうに笑う未散は心の底から陸上が好きなのだと再確認する。
未散は陸上の才能にも恵まれ、走るのが何より好きな少女で何度も記録を作ってきた。
「てなわけで一緒に登校しようよー」
「なにが『てなわけ』だ。何の脈略もないだろ」
「くっ、偏差値高めの予久が難しい言葉を使ってあたしを惑わしてくる!」
「何も難しい言葉は使ってねぇよ!」
陸上好きなのは結構なことだが、未散は物凄く頭が悪い。
それこそ一年の頃は数学のテストで全て0点を取るほどで、二年になった今でもその頭の悪さは健在だ。
「とりあえず遅刻するのも嫌だしさっさと行くぞ」
「ラジャー!」
未散と昇降口を通って階段を上がって二階に行き、俺たちのクラスである2-Bに入る。
かなり築年数が経っている校舎だが、教室の床や黒板も真新しいもので一年の頃は感心していたものだ。
そんな関心が吹っ飛ぶほどの騒がしい声がまたもや響く。
「おっ、予久と泉沢が来たぜ美月!」
「お、ホントだ! 雄と雌だ!」
「ったく朝から騒がしいな……」
かつてない程ざっくりとした呼称で気分は乗らないが、呼ばれたからにはそいつらの席に向かっていく。
茶髪のツンツンしたショートヘアのうるさい男子が桟道凌太で、ピンクの髪のショートヘアのうるさい女子が鹿目美月さんだ
凌太と鹿目さんは幼い頃からの腐れ縁らしく、うざいくらい息の合ったコンビだ。
俺と未散も中学で二人と知り合い、そのままこの学園に進学したのだが今ではこの四人でいることが普通となっていた。
「で、俺たちが来たからって何なんだ?」
「いやね、予久くんたちが来たら話そうと思ってたんだけど転校生が近々来るって話なんだよね」
「ほぇー、新学期が始まってそこそこ経ってるのに半端な時期だねー」
未散の指摘通り半端な時期と言えるだろう。
あと少しすれば五月に入って連休が近いというタイミング。
そんな中で転校をするくらいなら新学期に合わせて転校すればいいのだが。
「だから言ってるだろ、所詮は噂だって。美月のガセネタじゃないのか?」
「んー、やっぱりそうそうなのかなぁー」
「ま、転校生が来たって何だって俺たちの生活がそう変わるわけじゃないんだしいいじゃないか」
「でもね、予久くん。ぶっちゃけ転校生来ると盛り上がると思うんだよ」
「まあ、鹿目さんはそういうの好きそうだよな……」
「予久は基本陰キャでボッチ路線だからなー」
凌太の言う通り俺は基本的に人との接触を好まない。
ゴッドノウズで全てわかってしまうし、味気無いというのも理由の一つだが一番は人の知らなくていいことまで知ってしまうのが嫌だった。
ならばゴッドノウズを使わなければいいだけの話なのだが、無意識に使ってしまうのだ。
それに人付き合いをしたいと思う程俺は前向きな人間ではないというだけの話だ。
結局、凌太、鹿目さん、未散以外との付き合いは殆どなく二年生になってしまったわけだ。
朝の雑談も程々にして予鈴が鳴る前に窓際の自席に着く。
窓から見えるのは青空と噴水が特徴的な中庭で、朝から小鳥たちがさえずっていた。
朝に聞く小鳥のさえずりは心地のいいモノだが、それ以上に俺の注意を惹くものがあった。
曖昧な感覚だが、『違和感』を感じた俺は隣の席に目をやる。
違和感の正体は俺の隣に座っている女子生徒、天川詩織は自席で本を読んでいるだけだった。
寡黙な性格で目立たない少女だが、ぶっちゃけかなり可愛い。
だが、隣の席になった俺ですらろくに話した試しがなく、興味の対象外……のはずだったのだが
(何で今日は天川さんの事がこんなに気になるんだ?)
自分でも不思議なくらい天川さんに興味を惹かれていたが、漠然とした気持ちの正体が掴めない。
今まで興味を惹かれたことをただの一度もないし、一年の頃も同じクラスだったはずなのに何の接触もなかった。
そんな彼女の黒髪のロングストレートは腰までキレイに伸びており、未散よりたわわに実ったその胸は男子生徒の視線を釘付けにする。
綺麗に整った顔はモデルではないかと思うほどだが、年相応の幼さもあり、それが魅力を引き立てていた。
だが俺が興味を惹かれたのは天川さんの容姿ではないが、何に惹かれているのか分からない俺は天川さんに声をかける。
「天川さん、ちょっといい?」
「なに?」
読んでいた本から視線をあげて俺に振り向く天川さん。
透明な湧き水のように澄んだ声は耳をすんなりと通っていき、不思議なくらい脳に残る。
そしてその赤い瞳は俺を確かに映していた。
(……あれを使うか)
意識を疑問点である天川詩織の違和感に集中する。
そして視線を『対象』である天川さんへ向ける。
すると俺の視界の前にお馴染みの選択肢が現れる。
―――――はずだった。
(選択肢が出てこない……!?)
そんなバカなことあるはずがない。
この能力が絶対的なものだからこそ宮迫家は代々インチキ紛いの交渉術で富を築いてきた。
それがこの能力の絶対的な力を示していた。
(何も起こらないなんてはずはない。宮迫家が始まって以来そんなことは聞いたことすらない)
だが、何度能力を使用しようと選択肢が出てくることすらない。
当然ながら選択肢がない事には正解も分からず、少し焦りが出てしまう。
そのことを勘づかれたのか天川さんが怪訝そうな顔をする。
「何か用?」
「い、いや特段用があるわけじゃない。気にしないでくれ」
そうは言ったものの、俺自身が天川さんの事を気になってしょうがなかった。
だがその違和感の正体も、ゴッドノウズ不発の理由も掴めずじまいでその日を過ごしたのだった。
まずは第一話『はじまりの日』をご覧いただきありがとうございます。
前作から二か月ほど間が空き、お待ちいただいた方には大変申し訳ない形になってしまいましたが、作品で返せるように精進してまいります。
*以下作品制作過程語りで本編には関係なし
本編の原案自体は昨年から上がっていたのですが、プロットが難航、書き直しなどがあり随分と時間がかかってしまいました。
ただ、本作では今迄からもう一歩踏み出してみて、『自分が書きたいヒロイン像』をより意識して構成を練り上げました。
そのお陰か仕上がりは順調ではないかと思っております。
ヒロインがめんどくさい性格をしているのが、書きやすい、書いていて楽しい人間ですので中々ご理解いただけない部分もあるとは思いますが、今作からはじめましての方も今後ともよろしくお願いいたします。