零 【始まりの終わりの始まりから】
あぁ、なんて退屈な毎日だろう。
つまらない日々の繰り返し。
惰性で呼吸をして、みっともなく酸素に頼りながら、昨日も呼吸をして、今日も呼吸をして、ただただ呼吸をして、生きている。明日だって、きっと同じだ。
生きる理由も、生きる原動力も、未来への希望も、とうに枯れ果てた。
その癖こうして、日々を無駄だと感じながらも生きているのはきっと、命を持つ生物に備わった、本能的もののお陰なのだろう。
「挑戦することが人生を豊かにします。人生を退屈にする理由、それは保守的な心が原因です。」
スマホ越しに、見知らぬ声が語る。
「変化のない事に、大概の人は飽きるものです。しかしそれと同時に、変化のない暮らしで、何不自由無く生きていられている現実に気付き、人は保守的になってしまうのです。そしてこう思う——」
退屈だと。
そんなことはわかっている。挑戦をしようとせず、変わることのできない自分に腹立たしささえ覚える。
そう思ってもなお、努力を怠り、面倒なことからは目を背け、自分は何の問題もないのだと。
寧ろ何か特別な力があるのではないか。秘めたる才能が何れ開花し、自分もいつかはきっと——。
「なんて、な。くだらない事、また考えて…何やってんだろ、俺」
もう何度目か。飽きるくらいに辿り着いた結論。嘆く勇気すらも湧いてこないほど絶望的な“現実”という名の正論。
「ほんと、何で生きてるんだろうな。…なんて言ったらさ、怒るかな。母さん」
自室の壁にかけられた、子供と母親が手を繋いでいる写真を見て、俺は呟いた。
綺麗な笑顔で写真に写るのは、勿論母だ。その隣、手だけは離さず、顔は真反対を向く少年が一緒に写っている。
「なあ、母さん。死んだ後の世界ってさ、どんな感じ。母さんは優しかったから、きっと天国に逝ったんだろうけど。ていうか、そうじゃなきゃ俺も父さんも、神様のこと許さないだろうけどな」
母は俺が中学の頃に、癌で亡くなった。あまりに突然のことに涙もでやしなかったけど、こうして成人した今頃に悲しみや寂しさを憶えるのは、俺が少しは大人になった証拠なのだろうか。
「…母さん、俺さ、どうしたらいいのかな。」
急にこみ上げてきた感情。大粒の涙を夜に一人、ぼたぼたと流しながら、今は亡き母に縋っている俺はどんなに情けない様をしているのだろう。
「……こんなどうしようもない世界なんて抜け出して、もっと夢を見れるような…ううん、夢を見れるだけじゃない、もっと色んなこと。好きなことして、好きなように生きて、辛いことなんて起こらない、そんな世界があるんならさ…俺も……」
俺も、母さんのように。
「…死んで、生まれ変わりたい——」
突如、目の前が暗く染まった。そして赤、橙、青、緑、黄、次々に色を変える視界はまるでカオスで、非現実的だった。同時に薄れていく意識。何かに吸い込まれていくような感覚。
息つく間もなく色を変える世界の中で、微かに誰かの声が聞こえた。
『確かに叶えましたよ、君の望み。行末が地獄か天国か、君の眼で確かめなさい、“愚かでどうしようもない人の子よ”』
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