ただの同じ学校の生徒から
高校一年の二学期も最終日を迎え、明日から冬休みだクリスマスだ大晦日だ正月だと学校中が浮き足立っていた12月の終わり頃のある日のことだった。
部活も何もない僕は終わりのホームルームが終わってすぐに教室を出て家への帰路につく。
そうして下駄箱で靴を変えようとした時だった。
僕のクラスは他のクラスよりも終わるのが少し遅かった。だから比較的早く僕は教室を出たけれど玄関にはもうすでにかなりの人で溢れていた。
そんな人口密度の高い場所では仕方なかったのだろう。誰かが僕の鞄にぶつかり、鞄の中身の大半が床にぶちまけられてしまった。
ちゃんと閉めていなかった僕が悪かったんだ。だから、チッと舌打ちをして去っていった、おそらくぶつかった本人であろう男子生徒に怒りは湧かなかった。
僕だってそうする。だから、見て見ぬ振りをして通り過ぎ、中には僕がぶちまけた教科書などを踏んでいく生徒たちもいたが、それは仕方のないことだと思った。
だから、驚いた。そこで立ち止まって一緒に落ちた物を拾ってくれる人がいたことに。
だから、かっこいいと思った。ぶつかった男子生徒を注意して僕に謝らせたことに。
だから、恋に落ちた。学園一の美少女、高嶺花に。
一目惚れだった。
初恋だった。
実るはずのない恋だった。
彼女は僕みたいなモブにとっては高嶺の花もいいところだった。
でも僕は馬鹿だった。
救いようのない馬鹿だった。
誰になんと言われようと諦めたくなかった。
誰にも彼女を渡したくなかった。
僕のものではないと分かっていても。
足掻いて足掻いて足掻き続けた。
お前には釣り合わない?
分かってる。だから釣り合うために努力するんだ。
モブはどう足掻いてもモブだ?
だったらモブとして足掻いてやる。
初恋は実らない?
ふざけるな。
僕が意地でも、
実らせる。
この時はまだ、僕と彼女は、"ただの同じ学校の生徒"。