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広い宴会場の側面にはガラス張りの厨房が見え、前方には立派な舞台があった。
そこでは、魔族の楽団が曲を奏で、赤黒い肌をした女性の魔族がその歌声を披露している。
それをBGMに、リンゴの頭の上にポヨンと乗ったスポンジは、ガラス張りの前に設置された長テーブル、その上に大皿が所狭しとと並び、その大皿には料理が山のように盛り付けられていた。
所々に置いてある皿を手にして、料理に備え付けられているトングで料理をその皿へ少しずつとっていく。
「すごいねー、すごいねー。どれも美味しそうだねぇ!
ね、リンゴ?」
「うん、そうだね。
で、次はどれが食べたいのかな? スポンジ君?」
「うんとねー、うんとねー」
そうやって、リンゴはスポンジのために料理をとっていくことで、気づいた。
以前、スポンジに言葉を教え、一緒に旅をしていたというドラゴン。
そのドラゴンとスポンジはここに来たことがあると聞いていた。
そのとき、ドラゴンは部屋で食事をすることを選んだ。
たぶん、ドラゴンが静かに食事をしたかったという可能性もあるけれど、もしかしたらスポンジに気をつかったのではないだろうか。
リンゴは、ちらりと周囲を見た。
リンゴのように思い思いに料理を食べたいだけ皿に盛り付けて、席に戻っていく。
スポンジのようなスライムはいない。
異形のもの達が集っている。
ただ、そこにスライムはいない。
スポンジ以外は、リンゴを含め四肢を持つ者たちばかりだ。
スポンジはスライムなので四肢はない。
リンゴのように、他の種族のように、スポンジは自分の手で料理を皿に盛り付けることができない。
それでは、きっと楽しくないだろう。
ドラゴンは、そう考えたのではないだろうか。
だとしたら、そのドラゴンはスポンジに心を砕いていたということだ。
しかし、そんなドラゴンとスポンジは今は別れて旅をしているわけで。
どうして一緒にいないのか、気になった。
聞いてもいいことなのだろうか?
自分のことはほとんど話していないのに?
「ねーねー、リンゴの分はー?
さっきから僕の分ばっかりだよ?
リンゴも好きなのとりなよー」
見れば、取り皿にはもう隙間がなかった。
「とりあえず、これは席に置いてこようかな」
「……リンゴ、ごめんね。僕のことばっかり言って」
「ん? ああ料理のこと? 気にしないでいいよ。
俺、迷ってたから、どれにしようか考えてたんだ」
「そっかー、そうだよねー、どれも美味しそうだもんねぇ!
うふふ、リンゴー、好きなのを食べてね!
たくさん食べると幸せなんだよー」
「もちろん、たくさん食べるつもりだよ」
「あ、あとあと、料理取ってくれてありがとう!」
「どういたしまして。
でも、スポンジ君、こちらこそだよ?」
席は予め決められている。
名札が置いてあるその席、テーブルへ、リンゴは料理を乗せた皿を置いた。
「美味しい料理に楽しい時間、俺はスポンジ君に拾われて本当に幸せだよ。
ありがとうね」
「えへへ、うん、ありがとう!」
それから、リンゴは今度は自分の分を取りに行く。
ついでにドリンクもグラスに注いで持ってきた。当然二つ。
そうして戻ってくると、リンゴとスポンジは料理に舌鼓をうち、流れてくる素晴らしい音楽と歌声に耳をすませ、その時間を大いに楽しんだのであった。