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優しいスライム  作者: アッサムてー
6/7

 大浴場はもちろん、男女わかれている。

 そういえば、ふつうにスポンジと入ることになっていたけれど、このスライムの性別はどちらなのだろう?


 「スポンジ君、スポンジ君」


 今更だ。

 本当に今更すぎる疑問だった。


 「なぁに? リンゴ」


 「スポンジ君は、えっと、その、オス? それともメス?」


 デリケートな部類の質問になるため、すこし躊躇しつつも大事なことなのでリンゴは訊ねた。


 「僕らスライムにはオスメスないよー」


 返ってきたのは、そんな返事。


 「そうなんだ」


 ちょっと安心して、リンゴはスポンジと一緒に男湯へと入っていく。

 別に何かするとかはないが、仮にメスだったら同室というのもいろいろ気を使うところだった。

 

 「そうだよー」


 そんなやり取りをしながら、リンゴは脱衣所で服を脱ぐ。

 スポンジは服なんて着ていないので、リンゴが全裸になるのを待っている。

 そういえば、スポンジは喋ってコミュニケーションが取れるからか、ふつうに飲食店にも出入りできているんだな、と改めて気づく。

 リンゴがいた世界では、おそらくペット扱いで場合によっては入店拒否をされるかもしれない。

 それに、案外、スポンジのようなスライムも珍しくないのかもしれない。

 甘味処も、この宿の受付も、途中すれ違った観光客達も、誰もスポンジのことを奇異な目で見ていなかった。

 むしろ、ふつうすぎた。

 この世界の魔族は、人型で二足歩行の者が多いらしいが、種族はたくさんいるとのこと。

 ましてやここは観光地だ。

 様々な客があちこちから訪れる場所だ。

 変わった観光客には慣れているのかもしれない。

 リンゴの準備が出来たので、あらかじめ館内着と共に手渡されていたタオルを手に大浴場へ入る。

 ムワッと湯気が立ち込め、この宿に泊まっている者たちが体や頭を洗ったり、湯船に浸かってまったりしている。

 エルフに、鬼、それこそコモドオオトカゲのような見た目の種族もいる。

 多種多様だ。

 

 「ねーねー、リンゴー。

 まずは体を濡らさなきゃ」


 どうやら、こういった場所でのマナーはリンゴが元いた世界と同じらしい。

 ついでだから頭も先に洗ってしまおう。

 そう考えて、かけ湯ではなく、等間隔に設置されているシャワーの一つ、その前に腰を下ろす。

 そこには桶も用意されていた。


 「ねーねー、リンゴー、僕にもシャワーお願い」


 「はいはい、あ、でも体を洗うならこっちの方が良いかも」


 「ん?」 


 リンゴは、スポンジにちょっと待っててね、と言ってから桶にお湯を溜めた。

 それから、スポンジを持ち上げてお湯をはった桶の中へ入れる。


 「お、おおー!

 リンゴすごい、すごーい!」


 桶の中できゃっきゃっと、スポンジははしゃぐ。


 「それじゃ、スポンジ君ちょっと待っててもらっていいかな?

 先に俺のほう洗うから」


 「うん、ゆっくりでいいよー。

 これおもしろーい!」


 桶の中でやはり器用にちゃぷちゃぷとスポンジはあそんだ。

 その間に、リンゴは備え付けられていたシャンプーで頭を洗い、ボディソープで体を磨いた。

 それらが終わると、今度はスポンジの番だった。


 「スポンジ君、体流して上げるよ。

 前にもここに来たってことは、ボディソープは大丈夫だよね?」


 「え、いいのー?

 ありがとう!

 うん、大丈夫だよー、そのアカスリで磨いて磨いてー」


 リンゴは苦笑しながら、言われた通りにスポンジをボディソープ塗れにして、アカスリで磨き上げた。

 シャワーからお湯を出して、泡を洗い流す。

 心做しか先程よりも、スポンジに光沢が出たように感じる。


 そうして、今度は本命の湯船に浸かった。

 温泉なので、硫黄臭い。

 スポンジが離れていかないよう、軽く両手で持っておく。

 それでも、スポンジの体はまるで風船のようにプカプカとお湯に浮いていた。


 「あー」


 「あー」


 異口同音でオッサンみたいな声が出た。


 「気持ちいいねー」


 「うん、最高。スポンジ君、連れてきてくれてありがとうねー」


 「お礼なんていいよー。ねー、リンゴ?」


 「なぁに?」


 「元気でたー?」


 「俺は元気だよ」


 「そっかー、それなら安心だよー」


 「?

 なんで??」


 「だってリンゴ、僕と出会ってから、ずっと泣きそうな顔してたんだもん。

 だから元気になって欲しかったし、笑ってほしかったんだー。

 温泉や美味しいものや、たのしい場所に行けば元気になるかなーって思ってさー。

 泣き顔よりも、リンゴには笑顔の方が似合ってるよー」


 どうやら最初から気を遣われていたらしい。

 その言葉に、リンゴはスポンジをぎゅうっと抱きしめる。

 そのぷよぷよした胴体に顔を埋める。


 「うん、うん、スポンジ君、うん、俺はスポンジ君のおかげで元気になったよ。

 助けてくれてありがとう、ね」


 ジワリ、とリンゴの瞳から涙が滲む。


 「もう、ほら泣かないのー」


 「うん、でもね、すごく嬉しくて涙がとまらないんだ」


 「そっかー、とまらないんだー」


 「うん」


 「悲しいから泣いてるんじゃないんだよねー?」


 「違うよ、嬉しくて、幸せ過ぎて涙がとまらないんだ。

 だから、これはいい涙だよ」


 「そっかー、なら、仕方ないねぇ。

 それは幸せが溢れてるんだねー。たくさん泣いて僕にも幸のお裾分けだねー」


 「うん、そうだね。スポンジ君にも幸せのお裾分けだよ」


 ガヤガヤとこの大浴場にいる他の客による賑わいもあり、この会話も誰に聞かれることなく混ざって消えていった。


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