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宿のチェックインはスポンジがしてくれた。
受付で鍵を渡され、可愛いイラストがあしらわれた近場の地図も渡される。
「ねーねー、夜ご飯まで時間あるし、この足湯にいってみよーよー」
「え、でも」
スポンジの提案に、リンゴは戸惑う。
足湯に行っても、スライムであるスポンジは楽しめないだろう。
スライムに足はない。
「リンゴは僕と違ってたくさん歩いて疲れたでしょー?
ここね、足湯の湯船の中に足ツボ用の石があって踏むと痛いけど気持ちいいらしいんだよー。
前来た時、ドラゴンさんが言ってたんだー」
ねーねー、行こうよーと言われて、とくに拒否する理由もない。
しかし、やはりスポンジが楽しめないだろう。
スポンジはスライムで、足がない。足がないということは、当然足ツボもない。
そう考えて、
「それなら、この宿の大浴場で充分だよ。
スポンジ君も疲れたでしょ?」
リンゴはそう提案した。
スポンジはリンゴの頭の上でしばし考えて、
「んー? ん!
そうだね! 僕もつかれてるかなー。
リンゴは気遣い上手だね、ありがとう」
そんなことを言った。
それは、君の方だよ。
そう言おうとして、でもリンゴは言わなかった。
スポンジに、そんな自覚はないのだ。
なら、スポンジからの気遣いにはこちらも態度と献身で返していくしかない。
「じゃあさ一緒に入ろう! で上がったら牛乳飲もうよー!
あ、でも僕はフルーツ牛乳も好きだしー。
コーヒー牛乳も美味しいよねー。
足湯は明日いこっか!
この足湯の近くにね、とっても美味しいモーニングを出す喫茶店があるんだよ!
モーニングもだけど、ビーフシチューもとっても美味しいんだー。
リンゴには美味しいものたくさん食べてほしいからさー。
美味しいは幸せなんだよー、幸せを沢山食べるとね、そうすれば、たくさん幸せが積み重なるんだよー。
いつでもニコニコだよー」
宿でも朝食が出るはずだが。
どれくらい食べるつもりなのだろう、このスライムは。
それも幸せの積み重ねときたか。
「お風呂上がりの牛乳!
たしかに美味しいよね。それじゃ、ご飯までにお風呂行こっか!
それにビーフシチューかぁ、スポンジ君はグルメだね。
明日が楽しみだよ」
「うん、行こー! 行こー!」
風呂の前に、まず部屋へ向かう。
部屋は二人部屋をとったようで、ベッドが二つ並んでおり、さらに露天風呂つき、源泉かけ流しであった。
(大浴場行かなくて良くないか?)
そうリンゴが疑問に思うのも当然だった。
豪勢にもほどがある。
その疑問をスポンジにぶつけると、
「ご飯食べたら、部屋でゆっくりしたいでしょ?
だからいつでも入れる露天風呂の部屋にしてもらったんだー」
なんて返ってきた。
もうヤダ、このスライム。だいちゅき。
リンゴが素直だがアホウのような感想を抱く。
そして荷物を置いて、あらかじめ部屋に用意されていた館内着を手にリンゴとスポンジは大浴場に向かった。
「夜ご飯はねー、宴会場で食べ放題にしてもらったんだー。
なんかね、マジックショーとか色々芸が日替わりで行われてるらしいよー。
ドラゴンさんと一緒の時は、部屋で食べたんだー。
あ、ごめんね、リンゴ。
勝手にご飯食べる場所決めちゃって」
「いいよいいよ。スポンジ君の好きなように決めて良いよ。
スポンジ君が楽しんでると、俺も楽しいからさ」
「えへへ、そう言って貰えると嬉しいなぁ。
うん、リンゴは気遣い上手で褒め上手だよねー。
リンゴと一緒にいるだけでも、僕、とっても幸せだよー」
「それはこっちのセリフだよ。スポンジ君と出逢ってから、俺も幸せばっかりもらってるよ」
「え、そうなのー?」
「そうだよ」
「そっかー。じゃあお揃いだねー」
そんな会話をしているうちに、大浴場についたのだった。