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「帝都までの間には、たくさんの観光地があるんだよー。
リンゴは、寄りたいところとかあるー?」
リンゴの頭の上にポヨンと乗っかって、のほほんとスポンジが言う。
帝都というのは、数ある魔族達の国の中でも一番大きい国、帝国の中心都市のことだ。
リンゴとスポンジがいるのは、帝国のお隣にある国だ。
「へぇ、たとえばどんなところがあるの?」
「うーんとねー。ここから一番近いのは港町かなぁ。
お魚が美味しいんだー。リンゴはお魚、生でも食べられる人ー?」
「生? あぁ、刺身があるのか」
「そうだよー。冷凍保存の技術が開発されてねー、だれでもお腹を壊さずに生のお魚、お刺身を食べられるようになったんだってー。
焼き魚も美味しいけどねー。
そうそう、前に寄った時はお土産屋さんで働かせてもらったんだよー」
「前言ってたアルバイトのこと?」
「そーそー。あ、でもその前に」
そこでリンゴの頭からピョンッと飛び降りて、スポンジはリンゴを見た。
リンゴは足を止めて、不思議そうにスポンジを見つめる。
「どうしたの?」
「リンゴ、新しい服を買ってあげるよー。
靴もボロボロでしょー?
ついでに温泉入ろ、温泉」
と、スポンジは言ってきた。
リンゴは自分の服をあらためて確認する。
あちこち擦り切れて、薄汚れている。
スポンジに助けられてから、数日が経過した。
ここまでの道中、たまに水場に案内してもらって水浴びや洗濯もしているが、やはりどこか汚い印象を受けてしまうのだろう。
「温泉? 温泉があるの?」
「そう、港町の手前にね、火を噴く山があるんだけど、あんまり大きくはないけど、温泉の町としては有名なんだー。
大きくないのは、なんだったかなぁ?
あー、そうそう、環境保護のためにあんまり町を大きく出来なかったんだってー。
そこはねー、お饅頭と温泉のお湯で茹でたタマゴとー、山菜の料理が美味しいしー、あ、内陸だから、豪華なお刺身が出てくるんだー」
「?
内陸だから、お刺身が出る?」
「うん、ドラゴンさんから聞いたんだけど。海がない場所で、そこでは採れないものを出すのは、最上級のおもてなしなんだってー。
だから、その温泉の町でもたくさんお刺身が出るんだよー。
今だからこそ、保存方法もしっかりしてて、道もしっかりしてるから新鮮なお刺身が食べられるんだってさー。
あとねあとね、お刺身も美味しいんだけどね、お酒も美味しいんだー」
「お酒」
「あれ? リンゴはお酒嫌いー?」
「いや、嫌いとかじゃなくて、まだ未成年だから飲めない」
「???
みせーねんって、なーにー?」
「子供ってこと。ニンゲンの子供はお酒が飲めない決まりなんだ」
「そっかー。うーん、じゃあ僕の方がお酒が飲めるから、リンゴより大人ってことだねー!」
「そうなるね。スポンジ君は俺より大人だ」
そんな会話を交わしながら、街道を進む。
整備された道は、歩きやすい。
時折、馬車が通り過ぎる。行き違う。
乗り合い馬車や、行商人の馬車である。
乗っているのは、傍から見ればニンゲンとそう変わらない外見の魔族。
スポンジから聞いてわかったことだが、どうやら魔族だけでなく鬼人族をはじめとした亜人族やダークエルフ、もちろんエルフもこの大陸には存在しているらしい。
「じゃあ、僕が大人だからリンゴの保護者ってことになるね!」
誇らしげに言うスポンジに、リンゴは微笑んだ。
「そうなるね。だからスポンジ君。
大人な君に、俺はたぶん、ものすごく迷惑をかけると思うんだ。
さっきの、服や靴を買ってくれるって話もそうだし。
もちろん、これから寄る場所で仕事も探すよ。
スポンジ君にばかり甘えてられないしさ」
「そーなのー?
でも気にしなくていいよー。僕もドラゴンさんと一緒にいた時は、ドラゴンさんにたくさんたくさん、迷惑かけたからー。
なんて言うんだっけ?
持ちつ持たれつ?
だから、気にしなくていいよー。
僕もリンゴにたくさん迷惑かけると思うしさー」
リンゴの足が、また止まった。
そして、うっすらとその瞳に水が溜まっていることに、スポンジは気づいた。
「どうしたの、リンゴ? どこか痛いの?」
「あはは、ううん。
どこも痛くないよ。
そう言ってもらえて、ホッとしたんだ。
俺、スポンジ君に会えて良かったって心の底から思うよ。
ありがとう」
「そう? どういたしましてー」
そうしてまた、リンゴは歩き出す。
歩き出したリンゴの頭に、またスポンジはポヨンと乗る。
「かっこいい服と靴、あるといいね!」
「うん、そうだね」
スポンジの楽しげな言葉に、リンゴはうなずいた。