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優しいスライム  作者: アッサムてー
2/7

 「でも旅行してるってことは、スポンジ君、お金はどうしてるの?」


 「お金ー? うーんと、行った先々でアルバイトとかしてるよー。

 あとはー、道に落ちてた古いコインとかー集めて買い取ってもらったり、うーんと、うーんと、あ、銀行にほとんど預けてるんだよー。

 最近、銀行にお金下ろしにいくたびに投資を勧めらるんだよねー、あれはちょっと困っちゃう」


 そんな知識はないし、今のところ興味がないから断って積み立てているのだ、とスポンジは言った。

 リンゴは、すこし驚いたのか、


 「銀行、あるんだ」


 そう呟いた。


 「うん、とっても便利だよー。リンゴも魔族の国、帝国に行ったら作ればいいよー。

 銀行を考えた人ってすっごく賢くて天才だよねー。

 どうやって思いつくんだろーねー?

 僕は頭が悪いから、憧れるなぁ」


 スポンジから出たつぶやきには卑下や自虐のようなくらい色は含まれていない。

 素直な感想なのだろう。


 「スポンジ君も頭良いと思うけど」


 「えへへー、そう?」


 「言葉覚えて、俺とこうして意思疎通出来てるし」 


 そんな会話をしながら、整備された街道を行くのはスポンジと言う名前がついた喋るスライムと、魔族によく似た外見をした、自身を【ニンゲン】と口走った少年だった。

 少年の歩く速度に合わせるように、スライムは横をぴょんぴょん跳ねながら移動している。


 「あ、それねー。教えてもらい始めたら、よく友達から、『魔族の言葉(そんな)の覚えたって何の役にもたたない』とか、『そもそもスライムが覚えることなんてできない』とか『やるだけ無駄』とか、『やる意味がわかんない』とか、『意味の無いことやるなんて理解できない、気持ち悪い、さっさと辞めちゃいなよ』とか、たくさん言われたんだよ」


 スポンジの説明に、少年はその足を止める。

 少年が止まったことにスポンジも気づく。

 ただ、スポンジの方が少しだけ先行してしまった。


 「なに、それ」


 少年のつぶやきは、そちらに戻ってきたスポンジにも聞こえていた。


 「え、友達のスライムや知り合いの魔物に言われた言葉だよー」


 なんて事ないように、スポンジは言った。

 欠片も気にしていないのだろう。


 「いくらなんでも、酷くないか?」


 「そう?」


 「…………それで、スポンジ君はなんて答えたの?」


 「えーとねー。なんて答えったんだっけ?」


 しばらくスポンジは、その場でうーん、うーん、と悩みながら思い出そうとした。

 やがて、


 「あ、思い出した。思い出した!

 『でも、楽しいんだー』、『僕には必要なんだー』って返したんだよ。

 そしたら、みんな口を揃えて、『馬鹿だからわかんないんだ』って呆れてた」


 その返答に、またもリンゴは言葉を失ってしまった。


 「そんなこと、ないと思うけど」


 その言葉をどう取ったのか、スポンジは、


 「えへへー、リンゴありがとう」


 嬉しそうにそう返した。

 リンゴというのは少年の名前である。


 「でもねー、たしかに頑張って覚えたけどー。やっぱりドラゴンさんの教え方が上手だったから、僕は言葉をちゃんと覚えることが出来たんだよ」


 「だけど、覚えようと思わなければ覚えなかったんじゃない?

 だから、頑張って覚えたスポンジは賢いし、偉いなぁって思うよ」


 「そっかー、そうなんだー、なんかそう言ってもらえると嬉しいなぁ。ありがとう」


 「どういたしまして」


 「そういえばリンゴ、聞いてもいい?」


 「うん? なに? スポンジ君」


 「ニンゲンって、魔族とちがうんだよねー?」


 「うん、たぶん、ちがうよ」

 

 「どう違うのー?」


 「……そうだなぁ、うーん。俺もこの世界の魔族についてよく知らないんだけど。

 スポンジ君が教えてくれた類似点だけ、あげてみようか」


 「るいいじい?」


 「あはは、それだとゲームのキャラクターの名前になっちゃうかな。

 類似、ね。似ているところ」


 「似ているところかー。うーん、リンゴは二足歩行できるし、両手があって、頭もある。この辺は魔族と同じで似ているよねー。

 似てない部分は、うーん、リンゴは魔族とは違って角がないね。あと真っ黒な翼もないんでしょ?」


 「うん、無いよ」


 このスポンジから、リンゴが得た情報がもう一度提示される。

 答えて、リンゴは歩き出した。

 スポンジもそれに続く。


 「魔法はー? なにか使えるのー?」


 「今のところは、使えないかなぁ」


 「そっかー」


 「でも、そうだなぁ、それこそ頑張れば覚えられるんだろうけど」


 「そうなんだー。

 ねーねー、リンゴー」


 「なに?」


 「リンゴはどこから来たのー?」


 「え、スポンジ君は、なんでそんなこと聞くの?」


 「えっとねー、今度はリンゴみたいなニンゲンがいる場所に旅行に行ってみたいなぁって思ったんだー」


 「……やめといたほうがいいよ」


 スポンジの返答に、リンゴは少し間をおいてそう返した。


 「なんでー?」


 「意地の悪い人が多いから。スポンジ君、もしかしたら殺されちゃうかも」


 「そんなに怖いのー? ニンゲンってこの大陸にはもういないって、ドラゴンさん言ってたよ。

 大昔に魔族と喧嘩して負けて、消えちゃったんだって。

 でも、リンゴはここにいるでしょ、ってことはやっぱりニンゲンは消えてなくて、この大陸のどこかにいるってことでしょ?

 ねーねー、どこにいるのか教えてよー」


 「だーめ、スポンジ君は、俺の大事な大事な恩人だから。

 危険な場所にいくのは反対。だから、おしえないの」


 「ちぇー、でもリンゴありがとう、心配してくれてー」


 「どういたしまして」

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