始まりの予感
ほぼ3ヶ月ぶりの更新になってしまいました…。
もう少し早く更新できるようがんばります…。
この部も加筆修正を始めていきます。(2023/6/8)
前半修正終わりました。後半も引き続き加筆修正を行います。また、後半は次の部に移します。(2023/6/15)
カーテンの隙間から朝日が差し込み目が覚める。
昨日は色々あった一日だったが今日はどうだろうか。気になることはいくつかあるが、まずは身支度を整えて朝ごはんを済ませる。
一息ついて洗い物を済ませた後、学校へ向かった。
学校までの道のりは電車と徒歩で計30分程度。朝のSHRは8時半から始まるが、いつも余裕を持って15分から30分前には登校している。
学校が見えてくると校門付近で多くの友達に囲まれている姫川さんがいた。あいさつをしようと思ったが忙しそうにしていたため、そのまま校舎へ向かうことにした。
昇降口に入り、下駄箱を通り過ぎるとあまり見かけたことのない女の子に声をかけられた。
「あ、あの…」
俯いていて顔は見えなかったが、周りに他の生徒は居ない。
「えっと…君は?」
「あ…はい…そうですよね…5組の藤崎凛…です…」
「藤崎さん…?初めまして…かな?」
「はい…一応…」
「だよね、よかった。僕は2組の檜山紫苑。よろしくね、藤崎さん」
「はい、よろしくお願いします…」
「それで、僕に何か?」
「あ、はい…その…昨日はありがとうございました…」
藤崎さんはぺこりと一礼したが、心当たりが無かった。
「昨日…?えっと…今日が初めましてなんだよね?」
「はい、その…だから一応…と…」
そこで一瞬目が合ったが、次第に語尾が掠れていってさらに俯いてしまった。
「ちょっと待ってね…昨日…」
そう言われてみるとどこかで見かけた気がしてきた。昨夜はいつもの散歩に行って姫川さんを見かけたが、その前にも何かあったはず。昨日の事を振り返っているとふと思い当たる節があった。そう。
「あ、もしかしてアパートの」
「はい…そうです…!」
藤崎さんは僕の言葉を最後まで待たず、返事をした時、初めてしっかりと顔を上げた。
そこで昨夜アパートで見かけた顔と一致し、鮮明に思い出した。
「えっと…何か困ったことがあったら言ってね?力になれるかは分からないけど…」
あまり深掘りできる話でもなかったため、なんとか差支えの無さそうな言葉をひねり出した。
「わ、わかりました…ありがとうございます…じゃあまた…」
それを聞いてどう思ったかはわからなかったが、藤崎さんはそのままパタパタと教室へ向かって行った。その背を見送っているとふと疑問が浮かんできた。
昨夜視線が合ったのはほんの一瞬、さらに街灯も満足に無いあの暗がりで個人を識別できるものだろうか。
少しの間思考を巡らせていたが後方から響く下駄箱の音で我に返り思考切って歩を進めた。
自分の席に着いて一息ついたところで、姫川さんが見え、目が合うと一直線にこちらへ向かって来る。
「檜山くんおはよっ!」
「あ、姫川さん、おはよう。あれ、何かいい事でもあった?」
笑顔がいつも以上に眩しかったので気になって聞いてみると、興奮した様子で捲し立ててきた。
「うんっ、あのね、昨日帰ったらミーちゃんが帰ってきてたの!それでね!どうしたの〜心配したんだよ〜!って言ったらちゃんとごめんなさいってしててもうその仕草が可愛すぎて全然許しちゃった!それでミーちゃんが寝るまでずっと一緒に遊んでね!もう元気いっぱいって感じなの!」
「そ、そうなんだ…それはよかったね!」
「うん!それでねそれでね!」
勢いに気圧され、まだ続くかと思われた時、教室の外の方から人を呼ぶ声がした。おそらく姫川さんの友達だろう。
「キミちゃーん!」
「あ、ごめんねっ、友達待たせてるから!それじゃ!」
「あ、うん、じゃあまた」
友達の声にハッとなって足早に教室を後にする姫川さんに軽く手を振り見送った。
SHRが始まるまではのんびり過ごそうと思ったが、後ろの席の男子が声をかけてきた。
「なぁ、おい、檜山」
「ん?何?本田くん」
彼は陸上部所属の本田武史くん。人当たりが良く友達も多い。俗に陽キャと呼ばれる人物である。
「今のは何だ?お前まさか俺らの姫ちゃんと付き合ってる訳じゃないよな?」
いつもはにこやかで接しやすいのだが、今は
普段では考えられないほど鬼気迫るものがあり狼狽えてしまう。
「えっ?なんでまた急に…」
「いいから答えろ、付き合ってんのか付き合ってないのか」
「いや、付き合ってないけど…」
「けど?けどなんだ?」
「それだけ…特になにも…」
「ふーん?それにしては昨日からやけに仲良くなってるような気がするが?」
「でも姫川さんとまともに話したのは昨日が初めてだし…」
「それじゃあ昨日の昼休みのアレはなんだったんだ?」
「あれは…僕も圧倒されっぱなしだったし…姫川さんのその…天然なところというか…」
「…姫ちゃんのことだしそういうこともあるか…?いや、思い上がってないならそれでいが、くれぐれも変な気は起こすなよ?」
「う、うん…」
どこか納得するところがあったのかそれ以上言及してくる事はなかったが、最後は念入りに釘を刺してきた。
そこでちょうど先生が教室に入ってきたところで本田くんの剣呑とした雰囲気が薄れて行き、始業のチャイムが鳴り響くと共にいつも通りの彼に戻ったように見えた。
「はい号令ー」
僕はそんな本田くんに、密かに怖い印象を持って一日の始まりを迎えた。