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善と悪(大幅改稿中)  作者: 橘 渚月
5/8

日常と非日常3

第3部を分けました(後半)

現在加筆修正中です(2023/04/25現在)


後半の文量が多くなってしまったため、さらに分割しました。(2023/4/29)


第3部の加筆修正終了しました。(2023/6/8)

 時刻は午後9時過ぎ。


 せっかくいつもより遠くまで来たのだからもう少しこの辺を散策してもいいだろう。

 そうして、次は裏路地ではなく道なりに進んで行くことにした。


 そこから15分ほど歩いたところでふと大きめの公園を見つけた。

 少し寄ってみようと思いしばらく進んだところで茂みの向こう側にガタイの良さそうな男三人の影と、それに囲まれているような形になっている華奢(きゃしゃ)な影を見た。


 普通ならここで首を突っ込まず、警察を呼ぶのだろうが、僕はそうはしなかった。

 先程警察のお世話になったばかりということもあったが何より、その華奢な影に見覚えがあったからだ。

 姫川(ひめかわ)公香(きみか)、その人だった。


 僕は内心かなり驚きながらそっと近づいて行く。

 その様子に気づいた三人の内一人が歩み寄ってくる。


「なんだい僕ちゃん、何か用かい?」


 男が猫撫で声のようなとても(かん)(さわ)る声をかけてくるが、何も聞こえていないかのように素通りをする。

 そして残りの二人もこちらに気づき声をかけてきた。


「なんだお前?」

「ヒーロー気取りかぁ?」


 それも素通りして歩を進める。


「おい無視すんなよ」


 そう言って片方が肩を掴もうとしてくるが、すんでのところで避け、その手は虚しくくうを切る。


 そのまま何事もなかったように姫川さんの元へ辿り着いた。


「こんな時間にこんな所で何やってるの?」


 声をかけると、ようやく僕に気づいたように驚きの声を上げた。


「あ、あれっ?檜山くんっ?なんでこんなところに…?」

「ん?まあ…たまたま通りかかって…?」


 苦笑気味にそう言うと後ろから怒号が飛んできた。最初に声を掛けてきた男だろうか。


「無視してんじゃねぇ!」

 

 それと同時に拳が振り下ろされる。


「…っ!」


 彼女は僕の肩越しに後ろの様子を見たのか、その瞬間に体を強ばらせ、ギュッと目を瞑った。


 しかしその男の拳が直撃することは無く、僕の手の中に収まった。


「それで…この人達は?さすがに友達…って訳じゃないよね?」

 そう尋ねると恐る恐るまぶたを開く彼女と目が合う。


 目の前の光景に驚いていたようだが居住まいを正し、律儀にも僕の問いに答えようと今までの経過を話そうとした。

 その時、呆気に取られていた男三人は声を上げてまとめて殴りかかろうとしてきた。

「てめぇ!舐めたマネしやがって!ただじゃおかねぇ!」


「逃げようか」

「え?あ、ちょっ…」

 姫川さんに有無を言わさず腕を掴んで走り出した。


「待ちやがれ!!」


 三人組が追ってきているのを後ろ目に確認しつつ右左折うさせつを繰り返しながらなんとか()いた。


 コンビニの近くまで来てようやく足を緩め、息を整える。

「はぁ…はぁ…」

 僕は明らかに息を切らしていたが、姫川さんは運動部ということもあってそこまで疲れた様子はなかった。

「大丈夫?」

 しかも逆に心配される始末だ。

「うん、なんとか…」


 しばらく休憩してやっと落ち着いたところで声をかける。


「家まで送ろうか?あ、もちろん無理にとは言わないけど…」


「あー…うん。そうだね、ありがとう。それじゃあお願いしようかな?」


 一緒に姫川さん宅へ進み始め、沈黙が気まずくなる前に質問する。

「それで、こんな時間にあんなところで何してたの?」

「それは…えっと…今日のお昼にミーちゃんとムーちゃんの話したでしょ?その…今日家に帰ったらミーちゃんがいなくて…」


 よくよく見ると姫川さんは制服のまま。帰宅後着替える間もなく飛び出したのだろう。


「なるほど、それで探しに…」

「うん…」


 彼女はひどく落ち込んだような表情をしていた。

 あれだけ元気いっぱいだった彼女がこうも沈み込んでいるのを見ると何とも言えない気分になる。


 自分に何か出来ることがあればいいが、今できるのは無事に見つかることを祈るだけだ。

 何の役にも立たない自分に腹が立ってくるが今考えることではないと思い直して少し話題を変えることにした。


「姫川さんの家はこの辺りなの?」

「うん、ここの通りを真っ直ぐ行って、突き当たりを右に曲がって少し行ったところだよ」


 会話を続けようと試みたがこんな状況で盛り上がる話も無く、昼休みとは打って変わって言葉少なにしばらく進む。

 突き当たりまでたどり着くと右手に立派な家が見えた。


「あ、もしかしてあそこ?」

「うん、この辺だとかなり目立つし、ほんとはちょっと恥ずかしいからあんまり友達にも教えてないんだけど…」


 門が近づいてくると大きな庭が見えてきた。目の前まで来ると新月の暗がりでもよく手入れされているのがわかるほど整えられており、恥ずかしがる要素は見当たらなかった。


「わざわざ送ってくれてありがとね」

「大丈夫だよ。ミーちゃん、早く見つかるといいね」


「うん…また明日!」

「僕も帰り道は気にかけてみるよ」


「ありがと!おやすみ!」

「じゃあまた」


 姫川さんとはそこで別れ家路についた。

 帰りは何事もなく、夜の静寂に響く草木のざわめきが満ちているだけだった。


 時刻は午後10時を回る頃。

 いつも通り誰もいない、帰り道よりも静かな家だ。到着してすぐお風呂に入り、湯冷めをしないうちにベッドへ潜り込んだ。


 程よい疲労感と布団の心地良い重量感の中で今日一日を振り返っている内に微睡(まどろ)みの中に沈んでいった。

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