日常と非日常1
第3部を分けて加筆修正しました。(前半)
気がつけば昼休み。
いつもなら昼食は一人で手早く済ませるのだが、今日は珍しく来訪者が現れた。姫川さんだ。
結局SHRが終わっても授業の間の休み時間は移動やら準備やらで忙しく、話す時間はなかったのだ。
僕は別にそのままでも構わなかったが、朝の話の続きをしたかったのだろうか。
「一緒してもいいかなっ?」
相変わらずの明るい笑顔でお昼を誘いに来た。
一瞬断ろうかとも考えたが、周りを見てみるとどうやら他の友達の誘いを断ってまで来てくれたようだったので断りづらく、そのまま同席することになった。
昼休みとはいえ、購買や食堂に行く人はこのクラスではあまり居らず、ほとんどの生徒が教室で食べるので状況は朝と何ら変わっていないかに思われた。
しかし、朝とは違い他クラスの人も少なからず居て、そのほとんどが決まった仲良しグループでまとまっていたため、むしろ悪化していた。
入学当初から彼女は人気者で、先程のように他クラスの人たちが、わざわざお昼のお誘いをしに来る程なので、余計に僕の方へ視線が集まっている。正直居心地が悪い。
普段からあまり目立つ方ではない僕を見て、「あんな男子居たっけ?」やら「あの人誰?」やらヒソヒソ喋っている女子がチラホラいたが、気にしないように努めた。
僕は机を一つ挟んで彼女と向き合う形になる。
少々恥ずかしくはあるが、多分意識してしまっているのはこちらだけなので早めに慣れることに専念した。
彼女はお弁当を広げ、僕は朝に来る途中に買ったパンを開ける。
そのお弁当は、色とりどりの野菜やお惣菜などがバランス良く散りばめられていた。
「そのお弁当は?」
「あ、これ?お母さんの手作りなんだ!美味しそうでしょ?美味しいんだなぁこれが…いただきますっ!」
彼女は誇らしそうに胸を張る。余程母親の料理が好きなのだろう。
礼儀正しく手を合わせてからお弁当を頬張り始めた。
その幸せそうな表情を少し眺めていると、彼女はもぐもぐしながら小首を傾げて卵焼きを差し出してきた。
「よかったら檜山くんも食べる?」
「いや、いいよ、大丈夫…」
「そう?こんなに美味しいのに…」
僕はその急な行動に戸惑っていたが、どうやら僕が物欲しそうに見ていると思ったようだ。もちろん慌てて断った。
断られて残念そうにしている姿を見て少し心が痛んだが、もっと周りを見て欲しい。
一連のやり取りを見ていた男子たちの殺意のこもった視線、女子たちの好奇心や敵意に満ちた視線が容赦なく突き刺さっている。生きた心地がしなかった。
その後は細心の注意を払いつつ、見かけ上は和やかな時間を過ごし、お互いにお昼を食べ終わったところで片付けをしながら彼女は朝の話題を振ってきた。
「それで、朝の話の続きなんだけど、うちで飼ってるミーちゃんとムーちゃんがすっごく可愛くてねっ?お家に帰ると二匹揃ってお出迎えしてくれるんだぁ…」
そう言って何枚か写真を見せてもらい、その光景を思い出すように恍とした表情で天井を見上げていた。
「いいなぁ、僕も猫飼いたいんだけどうちの両親がアレルギーでさ…家じゃ飼えない分、野良猫とかを見かけるとつい…」
自然と僕の顔も綻び、笑顔になる。
そんな風にたわいもない話をしていると、お昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。
「じゃあね!楽しかったよっ!」
そう言って彼女は自分の席の方へ向かって行く。
ここまで人と話し込むことはほとんど無かったため、周囲の視線は終始気になっていたが、新鮮で楽しい気持ちでその背を見送った。