欠席者
終わらない会議と化した恋愛会議。
とはいえ、希はこうなることをある程度予想していた。希が恋愛に対して前向きになることがないというのは、希自身が一番よくわかっているのだ。
そして終着点の見つからないこの会議の今日の議題は、本筋からは外れていた。
怖い顔をした杏奈が、腕組みをしている。
「大事な会議なのに、なんで隼人が出てこないわけ!?」
かれこれ三十分ほど、杏奈はこの場にいない隼人に対して悪態を吐いている。それを静かに眺める希とは対照的に、マイペースな観月は暇そうに自分の髪を弄っていた。
杏奈の機嫌も、余計に悪くなるというもの。
「ちょっと観月!隼人いないぶん働いてよ。」
「働くって言っても、いつもぐだぐだじゃないこの会議。」
希は思わず吐きそうになった溜め息を飲み込んだ。全く、マイペースにもほどがある。機嫌の悪い人に喧嘩を売ってどうするのだ。
案の定、杏奈の機嫌は取り返しがつかないほどに悪くなった。
「私はいっつも意見出してるでしょ。たまには役に立ってよっ。」
「使えない意見なら無い方がマシじゃない?うるさいだけだよ。」
マイペースでぶっとんでいる観月は、ひょっとしたら誰よりも冷めているのかもしれないと感じながら、希は両者を盗み見た。仲裁しなければという気持ちはあるのだが、なかなかこの話題では肩身が狭い。どちらを庇っても、「希が積極的にならないのが悪い」と言われてしまいそうだ。
ああ、もうなんで隼人は今日出てきていないのだ。希はやりきれなさをこの場にいない隼人のせいにして、勢いで口を挟んだ。
「二人とも喧嘩しないでよ。隼人だって、次は来るよきっと。」
言ってから、しまったと気づく。次は、なんて恋愛会議が今後も継続していくことを示唆するようなものだ。杏奈に揚げ足を取られてしまうに違いない。
希は怯えて杏奈を盗み見たが、反応は意外にも観月の方から飛んできた。
「なんだ、希ちゃんも恋愛したいんだね。」
「いやっ、そのぉ・・・・。」
失念していた。観月はあまり恋愛会議に興味はないのだと高を括っていたのだ。が、彼はマイペースの爆弾魔王。場を引っかき回すのが得意なのだ。
観月の言葉に、秒で杏奈が歓喜する。
「やっとその気になってくれたの希!」
「だから違くてっ。」
「今回は有意義な会議だったんじゃん?」
必死に弁解する希を他所に、杏奈と観月が勝手に納得して盛り上がる。さっきまで言い争っていたくせに。
ふと、和気あいあいとした雰囲気に「まあいいか」と思ってしまったことは黙っておこうと思う。




